#7 レクセル、常識を知る
「おっ! レクセルさん、いいことでもあったんすか?」
次の日。
遊便任務とは別に、隣町までの配達を終えて戻ったレクセル。
すれ違ったシューメーカーに声をかけられた。
「特に……ありませんけど」
「そっすかー! いやぁね、なんか楽しそうな感じだったんで! お疲れ様っす!」
「ええ、シューメーカーさんも」
片手をピッと上げて去っていくシューメーカー。
その後ろ姿を見送ってから、レクセルはぺたり、口角を指で触った。
「楽しそうな感じ……」
レヴィとは、今夜も会う約束をしている。
軽くご飯を食べに行く予定だ。
確かに楽しみだけど、顔に出るほどだったのか――――とレクセルは他人事のように思った。
「あっ、レクさんーっ! ここですー!」
ぴょんぴょん飛びながら手を振るレヴィを見つけて、レクセルは少し歩みを速める。
待ち合わせに指定されたのは、ファーストの中心に位置する噴水の前。
人気スポットらしく、2人の他にも待ち合わせと思しき人々がちらほらと見受けられた。
「お待たせ。……待たせた?」
「いぃえ、今来たところです♡」
にこにことレヴィが答える。
そのまま連れ立って噴水を後にした2人だったが、なんとなく後ろが騒がしい気がする。
思わず振り返ってみれば、歩いて来た道に沿って、少なくない人々が立ち止まっていた。
彼らに邪魔だと突っかかった通行人がいて、軽くトラブルになっていたようだ。
首を傾げるレクセルに聞こえてきたのは――――。
「わぁ……なんて美人」
「ちょっとなに立ち止まって――――おぉ」
「レベルたっか!」
――――もしかして私たちのせい……?
申し訳なくなったレクセルに、レヴィはいたずらっぽく笑う。
「ふふふ、美人さんは大変ですねぇ。でもちょっとうらやましいです♡」
「……なにいってんの。レヴィだってかわいいじゃん」
「かわっ!? ………………うぅ」
あれ? かわいい路線で通しているのだと思ってたけど、違ったか。
突然静かになったレヴィに、そんなことを思う。
レクセルはやっぱり鈍感であった。
歩いているうちに、レヴィはなんとか復活した。
ようやくふわふわした雰囲気を取り戻し、こっちですー! とレクセルの先を行く。
案内されたのはこじんまりとしたカフェだった。
メニューが書かれた黒板を横目にドアを開ける。
柔らかな明かりに照らされた店内には、すでに何組かのお客さんで賑わっていた。
がら空きでもなく満員でもない、いい塩梅の混み具合の中、2人は窓際のテーブルへ通された。
「――――ここはぁ、キッシュがおいしいんです。わたし毎回頼んじゃうくらい!」
メニュー表を指差すレヴィ。
スープとキッシュ、ドリンクのセットがおすすめらしい。
ただ、セットも何種類かあるようで。
「いつもはどれ食べてるの」
「そうですねぇ――――今はほうれん草のキッシュですね」
「今」
「わたし飽きるまで同じの頼むんで♡ ちなみに全メニュー2巡してます♡」
尖ってんなー、とレクセルは思った。
「あ、お酒は未履修ですよ? 本当のメニュー制覇にはまだまだ遠いです……」
「あんま変わんないと思うよ」
まぁ、レヴィが選んだのなら間違いないだろうし。
レクセルは言われたセットを頼むことにした。
「ほうれん草のキッシュとトマトスープ、ドリンクはコーヒー……うん、私はこれで」
「じゃあわたしはぁ、きのこのキッシュとコンソメスープのセットにしよっかな〜」
「……今はほうれん草って言ってなかった?」
「たった今飽きました♡」
「…………」
自由なヤツ……とレクセルはため息をついて、店員を呼んだのであった。
「ねね! レクさんって、付き合ってる人いるんですか?」
「――――いないけど」
唐突に聞かれて、レクセルの眉がぴくりと動く。
えぇいがーい、とレヴィはコロコロ笑った。
「いるように見える?」
「見えるっていうかぁ……レクさんほどの美人さんなら当たり前にいそうだなって♡ ……あ、わかった!」
「なに」
「本命の子がいないってイミで、遊びの子はたくさんいるんでしょ!」
「いないっての!」
遊びだなんてとんでもない、と強く否定するレクセル。
片足を突っ込んでいることに自覚はなかった。
「てか子って…………なんで女の子相手が前提? 女性同士ってそんないる?」
「いや普通に――――てか最近のカップル、ほとんど女同士ですよぉ」
「…………え」
レクセルは固まった。
だって戦争で男子減っちゃったじゃないですか、とレヴィは当たり前かのように言う。
「男との恋愛ってどうしたって結婚前提になっちゃうんですよぉ。もし別れたら他の男なんて捕まらないしー」
「男が少ないから?」
「ですです。恋を楽しみたいなら女同士のほうが気楽で――――ってなんでレクさん知らないんですかぁ? 今までお仕事一筋だったとか?」
「…………まぁね、そんなとこ」
「ふふ、真面目な人ってステキです♡」
衝撃だった。
ハレーの想いを非常識みたいに言っておいて、私のほうが常識知らずだったのか……?
レクセルは頭がくらくらしてきた。
「――――そういえば、待ち合わせの噴水のとこ、やけに女の子同士のペアがいるなと思ったけど……」
「そうですよぉ、だいたいカップル♡」
「マジかぁ……」
「じゃあわたし、レクさんの初カノに立候補しちゃおうかな♡ 恋のこと、たくさん教えてあげますよ?」
「…………却下」
「うふ。ちょっといいかなって思っちゃいました?」
「思ってない」
教えてあげる、に関しては図星だったレクセル。
ちょうど店員が料理を持ってきたのが見えて、ほっと息を吐いたのだった。
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