#39 レクセルの帰り道
次回、完結です。
帰るとはいえ、ソフィアは遠い。
つまり訪れてきた街を、逆順に再訪しながらの飛行になる。
アルマに別れを告げて、まず向かったのはスバル。
慢心して〈遊便狩り〉に殺されかけた、トラウマの街。
そしてラヴジョイの実家、サングレーザー伯爵家の地元でもある。
「ふう……」
緊張気味に着陸を済ませ、ふと見回すと。
心なしか、前来た時よりも機体が多いような。
「――――そりゃあんた、あの〈遊便狩り〉が自首したからだよ!」
レクセルが尋ねてみると。
近くにいた配達人は、嬉しそうに教えてくれた。
「……自首、ですか?」
「そうさ! 噂によると、返り討ちに合ってすっかりビビっちまったらしいのさ。あんな動きができるのは悪魔に違いない、とかうわ言のように呟いてたらしい!」
「悪魔とは失礼だな……」
「ああ、なんだって?」
「……いえ、安全になってよかったなと」
「そうだろう!」
どうしようもない悪人で。
打算からだが、エスコートしてくれたフェイ。
いっときは憧れさえ抱いた、オトナの女性。
ぎこちなく、けれど素直に、レクセルは微笑んだ。
ほっとしたのは、襲われないことへの安心からか――――フェイが生きていたことからか。
どちらなのかを、己の心に聞いてみることはしなかった。
レクセルにはもう、どうでもいいことだったから。
次の街、パラナルでは。
懐かしい面々が、驚きと共にレクセルを迎えた。
「うそ、レクセルなの!?」
「レクセルさんっ!?」
「レクセルさま!?」
「「「「救世主っ!?」」」」
「……こんないっぺんに違う呼ばれ方されたの初めてだよ!」
隊長のビエラ。
男まさりなアトラス。
イケヤ、ブルックス、チャン、他にもたくさん――――。
1週間もの間、共に戦った〈エンベロープ・エクスプレス〉の仲間たちだ。
あの封鎖はすっかりなくなり、滞っていた物流は以前よりも活発になっているという。
「相変わらずきれ――――罪な顔ねっ! このっ」
「いたたいたた……ビエラも元気そうでなにより。恋人できた?」
「ぶち墜とすわよ!?」
「あはは」
「……ったくあんたは相変わらずね!」
ビエラはフン! とそっぽを向く。
少しだけ――――嬉しそうに。
それから顔を戻して、ため息がてらに今度こそ笑った。
「見ないうちにいい顔になったじゃない。憑き物を落としでもしたの?」
「……うん、いろいろ成長したんだ。流石ビエラ、鋭いね」
「あんたが鈍いだけでしょ。 でもまあ――――前より素敵になってるわ、よっ!」
「ぐえー感謝んごふっ」
照れ隠しのパンチを、レクセルは甘んじて受けた。
険が取れたその様子に、配達人たちは少し顔を見合わせて。
丸くなったねぇ、と微笑んだのであった。
「始まりの街――――ということになるのかな、ここは」
遊便としての初仕事で訪れた、ファースト市。
ネオンが目立つ賑やかな街は、1ヶ月経っても全く同じ、浮かれた空気が流れていた。
「おー、まだやってるんだ」
ファーストで1番大きな映画館もその例に漏れず。
ぎらぎらな電飾でこれでもかと照らす看板に、〈大ヒット御礼! 『アルマの休日』上映中!〉の文字。
……もう一度観たいけど、その時間はないよな。
しばらく見上げてから、レクセルは歩き出す。
こっちだっけ……ときょろきょろしながら通りを進むと、見覚えのあるカフェが見えてきた。
「よかった、合ってた」
ちりりんとドアベルを鳴らす。
相変わらず、ちょうどよい混み具合。
なんとなく見回して、けれど知ってる顔はいなくて、レクセルは1人カウンターへ座った。
「すみません。ほうれん草のキッシュを……それから、きのこのキッシュも」
「かしこまりました〜」
温かいそれを、しみじみと噛み締める。
まずはほうれん草のほうを。
それから――――ここを教えてくれたレヴィが頼んだ、きのこのキッシュも。
「……おいしい」
最後の方は少しキツかったけど、なんとか完食。
レヴィのおすすめは映画に続き、今度も当たりであった。
――――そして、数時間後。
桃色の髪の少女が、開店したてのカフェを訪れた。
休日のモーニングはここで摂ると決めているのだ。
「あらレヴィちゃん、いらっしゃい〜」
「いつものやつ、おねがいしまぁすっ」
「は〜いちょっと待っててね〜」
彼女は常連である。
いつものモーニングを頼み、いつもの席にすとんと座った。
窓の外には、昇ったばかりの太陽が輝いている。
青空にキラリと、光が見えた。
「あれ飛行機かなぁ……って、そういえば」
懐かしいひと。
そして叶わなかった恋を思い出して、レヴィは口を尖らせる。
また瞬いた光を見ながら、小さく呟く。
「…………レクさん、今なにしてるのかなぁ……」
――――奇しくも答えは目の前にあったが、少女は気付かないのであった。
翼の後ろ、フラップが開く。
しまわれていたタイヤが、するすると降りる。
プロペラの残像が目で追えるほどゆっくりになって――――すたん、と衝撃が機体を揺らした。
ソフィアの街は、ちょうどお昼過ぎ。
休憩がてら滑走路を眺めていた社員の1人が、飲んでいたコーヒーでいきなりむせた。
「――――ゴッファ!」
「うわばっちぃわね! なによいきなり!?」
「レ、レ……っ」
「……レ?」
「レク様の……レク様の機体だわっ!!」
「えーまさかぁ――――ごふぁっ!」
「ちょっと!? あんたたち……」
びしょびしょの2人に、ちょうど歩いてきた同僚が立ち止まる。
持っていたコーヒーを一口飲んで、少し引き気味に尋ねた。
「どうしたのよ、なにを見て――――ゴフォ!」
「やかましいぞお前ら、なにして――――ぶばっ!」
「「「やだ社長ばっちいッ!!!」」」
「お前らもだろうがッッッ!」
――――モップや雑巾が次々と引っ張り出され、騒がしくなった〈コマ•エクスプレス〉へ。
罪な女が帰ってきた。
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