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ボクっ娘幼なじみが本命の最強美少女パイロット、女心を学ぼうとして全部間違える 〜女の子とデートしまくれば百合が理解できるよね(???)〜  作者: そらいろきいろ
006 / 私を愛したレディ

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#37 レクセル、ベッドの中で

「ん、いいよ」


「まあっ!」


 顔を綻ばせるラヴジョイに、レクセルは小さく笑う。

 寂しくて一緒に寝てほしいだなんて、子供みたいに……ラヴジョイも可愛いところあるじゃん。

 もー仕方ないなぁ、って感じでオーケーした。


 ――――鈍感、ここに極まれり。


 子供はレクセルの方である。

 こういうニュアンスの寝るというのは、就寝の意味ではない。

 こうしてレクセルは自覚なきまま、貞操の危機に陥った。






 その日の夜。

 枕を抱え、扉の前に立つ少女が1人。

 その名はレクセル、主人公である。


 パジャマの薄さと対照的に、その顔からは余裕が滲む。

 なにせ年上のラヴジョイに甘えられた(と思いこんでいる)のだ、今夜はおねえさんとして振る舞おうと決めていた。

 クールに微笑みすら浮かべて、コンコンと扉を叩く。


「ラヴジョイ、来たよ」


「――――どうぞ、お入りになって」


 がちゃりとノブを捻ると、ラヴジョイはすでにベッドにいた。

 待ちきれなかったのか、と笑うレクセルに、ちょいちょいと手招きをする。


「……はは。いきなり甘えすぎ」


 晩酌でもするのかと思っていたけど、そんなことはなかった。

 姫は即就寝をご所望らしい。

 

 レクセルはふっとため息をついて、ぺたぺたと歩く。

 焚いてあったらしきお香の匂いが、しっとりと流れてくる。

 甘い空気を纏いながら、レクセルはスリッパを脱いでベッドへ腰かけた。

 ラヴジョイがぱちりと瞬きをして、くすぐったそうに微笑んだ。


「もう……待ちくたびれましたのよ」


「そんな遅れてないでしょ。そんなに私と寝たいの?」


「ええ。レクセルと夢を見たいですわ」


「夢かあ……絵本でも持ってくればよかったかな」


「ふふ、読み聞かせよりも――――えいっ」


「ひゃあ!」


 ばっ! とふかふかな羽根布団を被せられる。

 おかしそうに笑うレクセルの背中を、ラヴジョイは優しく抱きしめた。


「もう、ラヴジョイなにするのっ」


「レクセルは……暖かいですわね」


「今日は本当に甘えん坊だな! いいけどさ」


 レクセルは回された手を撫でる。

 ラヴジョイのそれは、じんわりと熱い。


「そっちこそ、体温高いんだね」


 手のみならず、抱き着かれた背中も。

 布団がいらないんじゃないかってくらい、ぽかぽかだ。

 厚着してるんじゃないの、と後ろをまさぐる。


 ――――すべすべしていた。


「え、これで半袖? …………あれ?」


 腕を上へ伝っていくも、袖がない。

 伝わってくるのは肌の感触ばかり。

 どこに布があるんだ、と手を動かせば……。


「んっ……」


「んっ!?」


 柔らかい、なにかに触れて。

 

 びくりと手を離した、その瞬間。

 レクセルはくるりと転がされた。

 肩をぎゅっと押さえられる。


 ……目の前に、ラヴジョイの顔。

 それは綺麗で、吸い込まれそうで、キラキラと――――情熱的に輝いていた。


「ら、ラヴジョイ……?」


「レクセル……」


「わ、わ、わ……なんでなにも着てないの!? これじゃ裸婦(ラフ)ジョイだよ!」


「やかましいですわね……ふふふ」


 変な雰囲気をなんとかしようとぶっ込んだボケは、華麗に跳ね返され。

 それすらも愛しいとばかりに、ラヴジョイは微笑む。

 レクセルの首筋に、つーっと汗が垂れた。


「な、なにするの。なんか変だよ……」


「変になるんですわよ、レクセルも」


「なんで? どうやって!?」


「……やけに初心ですわね。意外とこういうのには慣れていない?」


「こういうのって? 知らないよっ?!」


「あらあらそれは。まあ……ではわたくしに任せてくださいな」


「ひ、ひゃ――――っ」


 胸元にくっついていたラヴジョイの頭が持ち上がる。

 目線が真っ直ぐ揃う。

 垂れ下がった水色の髪が周りを覆って、ラヴジョイの瞳だけが、こちらを見ていた。


「レクセル。あなたが欲しいの」


「う……」


「わたくしに、くださいな」


 ゆっくりと、顔が下ろされる。

 鼻と鼻が、さらりと触れて――――。


「…………ぐす」


「――――っ?!」


 ――――弾かれたように離れた。

 ラヴジョイが目を瞬いて、レクセルを見た。


「ハレー……ハレーがいい……っ」


 目の前でたらたらと流れる涙。

 漏れて出てきた、知らない名前。

 ごくりと喉を鳴らしてラヴジョイは尋ねる。


「ハレー……?」


「好きなの……ハレーが好きで……っ」


「…………好きな方が、いらっしゃるのね?」


「……ん、うん……」


 絞り出すような声に、ラヴジョイは――――。


「――――そうでしたの」

 

 ふー、と小さく息を吐いた。

 

 目の前にあった、金色の前髪を揺らしてから。

 レクセルを押さえていた手を退ける。

 起き上がって、身体に毛布を巻いた。


「……ごめんなさいね。怖がらせてしまって」


「ううん……違くて、その……あの、」


「あらら……よし、よし――――大丈夫。大丈夫ですのよ」


 未だ、ぽろぽろ涙をこぼすレクセルだが……。

 ショックで泣いているのかと思いきや、そうではないらしい。

 

 それを察したラヴジョイは、軽く頭を撫でた。

 子供をあやすように優しく、ゆっくりと。

 下心は溶けて消えて、既にない。


 ――――レクセルはようやく自覚した。

 1人の女性として、ハレーを好きなことを。

 今までずっと、それに気付いていないふりをしていたということを。

 

 女心がどうとか、恋愛経験がどうとかは、全て建前。

 ……認めるのが怖くて、言い訳してたんだ。


 己の本音を一気に受け止めたせいで、レクセルはキャパオーバーに陥っていた。

 襲われかけた記憶を押し流すほど強い感情の濁流が、涙として溢れ出す。

 

 ラヴジョイは、なにも言わずに側にいた。

 安心させるように、ただただ撫でていた。

 

 その姿は全く子供ではなく。

 紛うことなき、おねえさんであった――――。

 

 




「私って、ハレーに恋してたんだ……」


 少し、落ち着いてから。

 信じられないといった口調で、レクセルが呟く。

 傍らのラヴジョイはネグリジェ姿で、おかしそうに笑みを漏らした。


「鈍感にも程がありますわよ……わたくしに襲われかけて、ようやく気付くだなんて」


「全くだよ……」


 ダブルベッドに、1人分の隙間を空けて。

 言葉のままに一緒に寝ながら、2人は言葉を交わしていた。


「教えて欲しいのだけど……どうしたら、恋ができるのかしら。恋の定義は、なんですの?」


 そう尋ねたラヴジョイに、私もまだよくわかってないけど――――と前置きして。


「……自分が恋をしたと思った時が、恋なのかも」


 ぽつり、と答えた。


 思えばずっと、ハレーへの気持ちは変わっていない。

 ハレーのことが好き。遊便になる前から同じ。


 この気持ちに、恋という名前が付いたのは。

 自分が恋だと認めたからだ。

 そのきっかけは随分とその……無理やりだったけど。

 

 苦笑しながら紡がれた言葉に、ラヴジョイは少し考える。

 しばらくして、ふぅとため息をついた。


「わたくしは……恋をしようとすら、していなかったのかもしれませんわね」


「ふうん……?」


「押し付けられたと拒否してばかりで、お相手の方に相談すらせず逃げ出して。思えばあの方、お会いする度に言っていましたわ――――きみと話ができて、僕はとても幸せだ、と」


 お世辞だと思っていたけれど。

 もしかして、あれは本心から言ってくださっていたのかしら……?


 ラヴジョイはわずかに頬を染めて、少し俯く。

 それからゆっくり呟いた。


 ――――受け入れるべきは、令嬢としての運命ではなくて。

 すぐ近くにあった想い、だったのかしら。


「……ラヴジョイ、舞踏会はいつ?」


「えっ? ええと……明後日ですわね」


「ならまだ間に合う――――今のラヴジョイなら相手の人のこと、もしかしたら気に入るかもだよ。充てがわれた相手じゃなく、好きな人になるかも」


 たとえ、結婚するという結果は同じになっても。

 まだ自分の意思を無視するには早いんだ。


 レクセルの言葉に、ラヴジョイは息を呑んだ。

 髪をひとふさ、きゅっと握り込む。


 気付いたら、目元がやけに熱くなっていて。

 じわりと滲んだなにかが、1粒だけ、溢れていった。


「…………そう、ですわね。まだ、遅くはないですわね」


「そうだよ。なんなら夜中も飛んで、1日でジェミニまで戻ってあげる」


「……でも。それでは、レクセルに負担がかかりませんこと……?」


「私を誰だと思ってるの。この歳で遊便を任されてるの、世界で私だけなんだよ」


「…………ふふ。ではお願いいたしますわ。今度は彼に、しっかり向き合いたいですもの!」


 この夜。

 恋に気付いた2人がいた。

 1人は、運命に縛られていた令嬢で。

 もう1人は、自分の思い込みに縛られていた少女である。


 ――――その少女の名は、レクセル。

 主人公であった。

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