#34 レクセルは見た!
「自由行動……?」
「そうですわ〜」
ディナーを共にしながら、レクセルは首を傾げた。
ワインをひと口含んで、ラヴジョイが頷く。
「観光でもお休みでも、この4日間は自由になさって。帰りに乗せてくれさえすれば、なにをなさっても構いませんわ」
「えぇ……ラヴジョイの予定には付き合わなくていいの? 内容知らないけど」
「問題ありませんわ。わたくし1人でこなすものですの」
「…………そう」
言い切ったラヴジョイは、いつもの気品は控えめで。
表情も、どこか硬いような感じがした。
かと思ったらすぐにいつもの雰囲気に戻り、目の前の食事に話題が移った。
流れるようにスプーンが動く。
昨日のトマトスープにも肩を並べるくらい美味しいと、ラヴジョイは太鼓判を押した。
正直、スープ缶とホテルのコース料理を比べるもんじゃないと思うけど……。
でも確かに、昨日の夕食は美味しかった。
レクセルは頷きながら、じゃがいもの冷製ポタージュを啜る。
話の主導権はそれからずっと、ラヴジョイが持ったままであった。
また、尋ねる機会を逃したけれど。
彼女がアルマに来た目的は、なんなんだろう……?
翌朝。
慣れないベッドのせいか、溜まった疲れのせいか、起きたのは昼過ぎであった。
「……私としたことが」
カーテンの向こう側は、すっかり明るい。
かふーと小さな欠伸をして、レクセルはベッドから降りる。
顔を洗って、軽く化粧をして。
隣の部屋を訪ねてみたが、ラヴジョイはどこかに出かけていた。
まあ当たり前か、目的があるのだから。
少し考えて、レクセルはホテルを出る。
どうせなら朝食はお店で食べよう。
せっかくアルマに来たんだし。
ガス灯が立ち並ぶ石畳をてくてくと歩く。
観光都市と言うだけあって、アルマの街並みには今なお歴史が詰まっていた。
全体的に背が低い建物たち。
その屋根越しに見える、中世の神殿跡。
そこかしこで人々を見守っている、大理石の女神像――――。
〈アルマの休日〉。主人公の王女様が心躍らせて散策していた、モノクロの街。
スクリーンで見た光景が、色鮮やかに、目の前で広がっていた。
まるで、主人公になったかのように――――いや、まさに主人公になって。
レクセルは休日のアルマを、目をキラキラさせながら歩いていく。
年季を感じさせる渋いカフェの前で、ここにしようかと足を止めて。
「…………!」
キラキラも止まる。
扉に手をかける時、レクセルは見た。
なんとなく振り返った目線の先に、見覚えのある水色の長髪。
……そして仲睦まじく腕を組む、見覚えのない女性の姿。
「ラヴジョイが、デートしてる……?」
レクセルは固まった。
ガン見した。
やっば。
慌ててチラ見に留める。
ゆっくり、瞬きをしてから、もう一度見た。
――――人違いではなかった。
道路を挟んで向かい側を、女連れのラヴジョイが歩いていく。
幸いにも、向こうはこっちに気付いていない…………そりゃ気付かないでしょうよデート中なんだから。
レクセルは首を振って、目を引き剥がした。
「アルマに来た目的って、まさか逢引……?」
だとしたら――――いや。
だったらなんだというのだ。
客のプライベートに踏み込むもんじゃないし。
それに。
誰かを一途に想ってここまでするなんて、素敵じゃないか。
レクセルは少し微笑んで、見なかったことにする。
今度こそガチャリとカフェへ入った。
「――――なにになさいます?」
「アイスコーヒー、それから三日月パンを」
アルマの朝食といえば、これと相場が決まっている。
映画と同じものを頼んで、レクセルはわくわくしながら背筋を伸ばす。
密かに憧れてた、あのモーニングを私も――――。
「――――どうぞごゆっくり」
「はや」
一瞬で提供され、思わず声が出た。
にこりと笑って、ウェイトレスはすたすたと去る。
呆気に取られたまま、そろー……とグラスに触れて、その冷たさで我に返った。
「……みんな同じの頼むからか」
定番の朝食なら、そりゃ慣れているはずだ。
勝手に納得して、レクセルはコーヒーをひと口飲んだ。
きりっとした苦味が、するりと喉を抜けていく。
いつも飲んでいたものより、だいぶ濃い。
……ここまで苦いと、ハレーはミルク欲しがるな。
カフェで働いているくせにブラックが苦手な幼なじみを思い出し、レクセルは微笑んだ。
グラスを置いて、三日月パンへ手を伸ばす。
バターが香るサクサクの生地を噛み締めて、ふぅ……と満足げなため息をついた。
そんな彼女を、じっと見ていた顔がひとつ――――。
スタイリッシュに整えられた、艶のある髪。
意志の強そうな瞳に、精悍な顔立ち。
一見すれば好青年にも見えるが、パンツスタイルが似合うくびれはあきらかに女性のもの。
「ふふ……」
その微笑みは、何人の少女を虜にしたか。
その存在が、何人の心を灼いてきたか。
アルマで1、2を争う男装の麗人、付いた異名は〈腰砕きの貴公子〉――――。
そんな彼女が、レクセルに狙いを定めた。
「――――ここ、いいかい?」
「……いいけど、なんで? 他にも空いているのに」
「そりゃ、素敵な人に惹かれたからさ」
からからと椅子を引いて、斜めに座った。
レクセルは少し目を細める。
ふぁさ、と前髪を掻き上げて、プリンスは一言――――。
「キミ、可愛いね――――」
「あなたもね」
「――――ひゃうっ」
――――で撃沈した。
だって可愛いなんて言われたことなかったんだもん。
レクセルの無自覚カウンターがモロに決まり、プリンスは机に突っ伏して痙攣し始めた。
「なんなんだこの人……」
眉をひそめるレクセル。
ぱくぱくと三日月パンを平らげて、コーヒーを飲み終わっても、まだぴくぴくしてる……。
大きなため息をついた。
「……お会計お願いします」
「かしこまりました」
レクセルは席を立つ。
プリンスは置き去りにされた。
読んでいただき、ありがとうございます!
続きは毎日【お昼】に更新!
面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。
励みになりますので、★評価や感想もお待ちしております!




