#30 いっぽう、その頃のハレーさん②
「なんか、物足りないなぁ……」
いつものようにレクセルの毛布にくるまりながら、ハレーはぼそりと呟いた。
寂しさを紛らわすために始めた変態的行為も、このところはレクセルの残り香もほとんど消えてしまい。
効能が薄れてきたとあって、もんもんとするハレーである。
人間はすぐ調子に乗るもの。
この無邪気な変態も例外ではない。
「………………」
そろりそろりと、半ば無意識に手が伸びる。
その先にあるのはクローゼット。
1番下の段には、レクセルのぱんつが――――。
「――――ってそれはアウトだばかやろーっ!!!」
なんとか理性が間に合った。
セルフツッコミをかましセルフ平手打ちをかまし、オーブンの蓋で指をバッチンした。
……すごく痛かったが、おかげで頭が冷えた。
また毛布にくるまって考える。
「やっぱり実体がないのは無理があるよね……こう、抱きしめられる身体がないと――――」
そこまで言ったハレーの目が、不意に開かれ。
なにかろくでもないことを思い付いたような笑顔で、がばりと起き上がった。
「そうだよっ! ないなら作ればいいんだ!」
……本当にろくでもないことを思い付いていた。
翌日、ハレーは買い出しに出かけた。
まず1軒目に訪れたのは布屋。
大きな白い布と、下布と、綿を買い込む。
次にハレーは本屋に入った。
行きつけの恋愛小説コーナーには目もくれず――――いやちらりとは見た――――真っ直ぐ向かうは美術関連の、特にハウツーものが多い棚。
いくつか手に取り、むむむと悩んで、〈無職脱却――――絵描きになったら本気出す〉を選ぶ。
最後に画材屋で絵の具やら筆やらを購入し、ようやく家に戻った――――と思えば。
カフェの制服を直すための裁縫箱を持ってきて、一心不乱に手を動かす。
買ってきた下布が袋状に縫われ、綿を詰められ、さらにカバーを付けられて。
瞬く間に細長いクッションを完成させたハレーは、今度は絵の具を用意し始めた――――。
「よし……っ!」
夜通し作業を続けて、真っ暗だった空が明るくなってきた頃。
満足げな顔で、ハレーは額の汗を拭った。
手に付いた絵の具を洗い落とし、道具を片付け、周りをすっかり綺麗にして。
完成品を汚さないよう、細心の注意を払ってから見つめる先には――――。
「できた、レクシーの抱き枕!」
――――写実的なタッチのレクセルが転がっていた……!
「ふふ、ふふふ……レクシーがいる。ボクの前にレクシーがいる!」
破顔しながら、ハレーは思わず頬擦りをする。
顔をしかめた。
「絵の具くさっ!」
これじゃ抱いて寝られないな……と少し考えていたが、不意にポンと手を叩いた。
風呂場へ向かい、シャンプーを取ってくる。
消毒液に1滴垂らし、スプレーボトルに入れて。
レクセルの顔(絵)にプシュッと吹いた。
「――――これでよし」
よくないが……?
レクセルならそうツッコむだろうが、残念なことにここにはおらず。
ハレーは誰にも邪魔されずに、恍惚とした表情で語りかける。
「これから一緒に寝ようね、レクシー……」
ハレー、おかしくなっちゃった。
……元からかもしれない。
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