#26 レクセルとお似合い
「――――わたしたちの惚気話が聞きたい? いいわよ」
「うえっ……!? フィンレーちゃん……やめない? 恥ずかしいよ……」
「お昼まだなの? ならいいお店があるわ」
「聞いてないぃ……」
次の日。
レクセルが声をかけたのは、すらりとした少女と縮こまった少女のカップルだった。
長身に黒髪ロング、静かで澄んだ黄金の瞳。
どことなく黒猫のような見た目の少女――――フィンレーは、二つ返事でレクセルの誘いに乗ってきた。
「ずいぶん、正反対なカップルだね」
レクセルは笑みを漏らす。
気付いたフィンレーは少しむっとして、
「馬鹿にしているの?」
「ん? してないよ」
「ならいいわ」
その言葉を最後に口を閉ざした。
必要以上に喋らない気質らしく、すたすたとレクセルの隣を歩く。
「あうあう……」
そんなフィンレーの後ろにいるのは、前髪で片目が隠れた、見るからに人見知りな少女であった。
銀色のセミロングに青い瞳、白猫を思わせる容姿の彼女は借りてきた猫よろしく、フィンレーの背中に隠れて進む。
惚気話は昼食がてらすることに。
ハンバーガーが人気の小さなダイナーは、ちょうど隅のボックス席が空いていた。
「――――私はレクセル。よろしく」
「フィンレーよ。この子はダレスト、わたしのフィアンセ」
「えとっ……ダレストです――――フィアンセ?!」
ぷるぷるしながら言うダレスト。
直後に慌ててフィンレーを見た。
「いずれはそうなるのよ」
さらりと恋人繋ぎをし直すフィンレー。
レクセルへ見せつけるように、テーブルの上に載せる。
それから眼尻を細くして言った。
「……レクセル。最初に言っておくけれど」
「うん」
「この子はわたしのものよ」
「うん……?」
ぱちくりするレクセル。
フィンレーちゃん……? とオロオロしだすダレスト。
2人に構わず、フィンレーは続ける。
「――――そしてわたしもこの子のものよ。もし新手のナンパなら諦めて頂戴」
キシャーと静かに威嚇するフィンレー。
――――ほんとに猫みたいだ。
こっそりレクセルは思った。
「大丈夫、ナンパじゃないから」
「でも魅力的だから声をかけたのでしょう? この子が」
「別にそういうわけじゃないけど――――」
「は? あなた、ダレストが魅力的じゃないと言うの?」
「めんどくさいな?! 2人とも魅力的だよ! 魅力的なカップルだから声をかけたんだよ」
「そう。ならいいわ」
「なんなんだこの子……」
スンとした顔でポテトをつまむフィンレー。
ダレストはといえば、顔を真っ赤にしてぢゅー……とソーダをすすっていた。
「……2人はどうやって出会ったの?」
「クラスメイトよ」
「ふーん、じゃあもともと仲よかったんだ」
「いや全く」
「えぇ……」
「名前すら知らなかったわ」
「………………」
言葉に詰まるレクセル、ちらりとダレストを見た。
なんとも言えない顔を向けられ、ダレストはあわあわと手を突き出す。
「わ、私は存在感薄いので……高嶺の花みたいなフィンレーちゃんと、こんなに仲よしになるなんて思いもしなかった……」
「まぁダレストのこと、クラスメイトその1くらいにしか思っていなかったわね」
「い、いまは……?」
「愛しているわダレスト」
「いきなり仲よしメーター振り切ったな」
コントじみたやり取りに思わずツッコむレクセル。
そこに至るまでの馴れ初めを尋ねてみると。
「それが……初めて会話した翌日にこ、告白されて」
「いやほんといきなりだな?!」
「一目惚れだったのよ。そしたらやることは1つよね」
「……だからって即日告白する? ダレストもよくオーケーしたね」
「えへ……顔が好みなので……」
「こっちも大概だな!」
衝動的というかなんというか。
ずいぶんとインスタントな馴れ初めにレクセルは呆れた笑いを漏らす。
フィンレーはそれを見て、ひとつ尋ねた。
「こういう恋愛、間違っていると思うかしら」
「間違っているとまでは思わないかな」
「そう。ちなみにクラスメイトはみんな言ったわ、間違っているとね」
――――初めは、誠実じゃないと否定されて。
それがいつの間にか、2人は釣り合ってないから、に変わっていった。
一時の気の迷いでしょ?
ノリで付き合うにしてもダレストなんて、ねぇ。
フィンレーさんに根暗ちゃんはもったいないよ、もっと上を目指せるって。
「何様のつもりなのかしらね」
フィンレーが冷たく言う。
ポテトを3本、口にまとめて押し込んで、フンと鼻を鳴らした。
「誠実じゃない? 釣り合ってない? だったら似た者同士の純愛のみが正しくて、それ以外は全て間違い?」
畳みかけるように続けてから。
「そんなわけないでしょう」
静かに、けれど語気強く断言した。
「恋は本能で、思考が入る隙はない――――恋に正しいも間違いもないわよ!」
「…………っ」
荒げた声に当てられてか。
がん、と頭を殴られたような、そんな気がした。
瞬きを忘れるレクセルの前。
はぁはぁと、フィンレーは怒気のこもった息を吐く。
珍しく熱いその手を、ダレストはそっと包みこむ。
はっと我に返り、レクセルは目をぱちぱち瞬いて。
ゆっくりと唾を飲み込んだ。
――――恋に正しいも間違いもない、か。
「ああ……そうだね。その通りだ」
番になるのは、子孫を残すためだから。
女同士なんて、おかしい。
ハレーに言ったことこそ、間違っていたな……。
「…………そこまで深く納得されると、却って不気味なのだけれど」
「ん? ああごめん」
「……まあいいわ。間違っているいないは究極、どうでもいいのよ」
「え」
「わたしが一番気に食わないのはね、みんなダレストを舐めていることよ! こんなに可愛いのに!」
お、惚気話おかわりか?
レクセルはコーヒーをすすった。
「ちょ、フィンレーちゃんっ……」
「根暗だって? そこが小動物みたいで可愛いんでしょうが! 食べちゃいたいくらいよ!」
「おお」
「もちろん性的な意味でねえ!」
「フィンレーぢゃ゙ん゙っ……!」
またも息をつきながら力説するフィンレー。
でも今回のはぁはぁは少しアブない感じ。
顔を茹で上がらせたダレストが、一生懸命にぺちぺち叩いて、言葉を遮ろうとする。
「もうっ……もう……っ!」
「ふふ、痛いわ……もうっ、痛いわよ♡」
「おいこれ駄目なやつだろ」
「恋に正しいも間違いもないわ♡」
「納得したことを後悔してきた……」
もぐもぐしながらぼやくレクセル。
話題にされなかった、かわいそうなハンバーガーの最後の一切れを味わいながら、ふと思う。
「……フィンレーって言葉数少ないのかと思ってたけど、意外と喋るんだね」
「そうかしらね」
「あ、それだよ。一言で済ます感じ」
「いつもそうだけれど?」
「数分前の記憶ないのか……?」
なんのことかしら。
クールに首を傾げるフィンレーの横から、息を切らせたダレストが口を出す。
「……フィンレーちゃん、私のことになると口数増えるんですよ……」
「ごふっ」
フィンレーがむせた。
「ほー、それはそれは」
「……黙りなさいダレスト」
「ふふ……可愛いですよね……!」
「黙りなさい!」
頬に朱を挿しながら、ダレストの口を塞ぐフィンレー。
そんな2人を見ながら、レクセルは微笑む。
「……お似合いじゃん」
こっそり呟いて、しなびたポテトを咥えたのだった。
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