#25 レクセルと恋愛対象
「――――え、ケーキ奢ってくれるの!? それも2人分!?」
「2人のデートを邪魔しちゃうからね。お詫びも兼ねて」
「ねえセキ、レクセルさんめっちゃいい人だよっ! ケーキどれにしよっか?」
「あは、レモンはほんとにチョロいねえ〜」
レクセルは手近なカフェに2人を連れ込んだ。
たまたま目についたお店であったが、人気スポットの近くで観光客も多いからか、内装はなかなか凝ったつくり。
白を基調にした、ノスタルジックなインテリア。
4人テーブルの席は、2人乗りブランコが向かい合った珍しい仕様。
あからさまにテンションが上がっているレモンに寄り添うように、セキがその隣に座る。
テーブルを挟み、レクセルも対面に腰かけた。
程なくして、注文したケーキが運ばれてくる。
「ありがと、レクセルさんっ!」
「いただきます〜」
「どうぞ、お気になさらず」
ティラミスを口へ運び、んー! と蕩けるレモン。
それを愛おしげに見つめるセキ。
レクセルはコーヒーを一口すすった。
……なぜか全然苦くなかった。
「――――で、なに話せばいい? んぐっ、なにが聞きたい? そもそもどうして、もぐっ」
「レ〜モン、食べながら話さないの。でも確かに、レクセルさんはどうして惚気話を聞きたいの〜?」
そういうの聞きたがる人、珍しいと思うけど〜、とセキが首を傾げる。
レクセルはカップを置いて答えた。
「女心を学ぶためにね」
「えなにそれウケる」
「ウケ……?」
「おっと失礼。なるほどなるほど、レクセルさん女の子にノンデリかましたわけか〜」
「!?!?」
愕然とするレクセル。
なぜバレた……? いや隠していたわけじゃないけど、まだなにも言ってないのに。
まさかレモンにも? と思ったがこっちは違うようで、頭にハテナを浮かべていた。
「ねえセキ、どゆことー?」
「いちいち女心を学ぶってことは、自分が女心を分かってないって自覚するなにかがあったってことでしょ? そーゆーのって大体恋愛絡みだし、デリカシー云々だし〜」
「ふんふん」
「それにレクセルさんほどの美人ならアプローチされる側でしょ〜。なのに自分から歩み寄ろうとしてるってことは、自分が後ろめたいことしちゃったから――――そう考えるとしっくりくるんよ」
「なるほどっ!」
「……ぐぅ」
「――――以上、名探偵セキさんの推理でしたが〜当たってる? レクセルさん」
「…………うん。まぁ。その通りなんだけれど」
「わあ、やった~」
なんて洞察力なんだ、この子は……。
改めて見れば、年下なのにどこか大人びた雰囲気を纏っている。
恋愛経験では間違いなく向こうが上……いや人生経験でも上かもしれない。
私が勝っているのは配達人の経験だけ……。
私は、圧倒的に、格下ッッッ…………!
「どしたのレクセルさん」
「ごめんなさい〜、今のはうちがノンデリだったかも」
「――――いや大丈夫。まぁそういうわけだから、2人の付き合い方を参考にしたくて……ご教示ください」
「なんで急に敬語……?」
レモンとセキ。
2人はもともと、親友の関係だったらしい。
――――そしてそもそも。
「うちら、前はそれぞれ付き合ってる男の子がいたんよ〜」
ゆらりとカップを傾けながら、セキが遠い目で語る。
「最初から女の子が恋愛対象じゃなかった、ってこと?」
「そそ、レモンとか普通に面食いだったし〜」
「ちょっとセキ言い方っ! イケメン好きなのは普通でしょ!?」
つっかかるレモンをかわし、セキは笑って続けた。
「んでうちはショタコンで〜、初等部の男の子ナンパしてて〜」
「どー考えてもそっちのほうがアレでしょっ!」
「え〜ちゃんと健全なお付き合いしてたけど〜? 元カレ15人みんな平等に手を繋ぐまでしかしてないし、付き合う期間は1週間までってルール決めてたし〜」
「爛れたお付き合いだよっ! ねえどう思うレクセルさん!?」
「えーっと…………」
恋愛経験が豊富どころか、知らない世界の話が飛び出してきた。
振られて言葉に詰まるレクセルだったが、セキは全く気にしない。
「ま、そんな感じで彼氏がいてねえ、うちとレモンはいっつも恋愛相談とかしあってたわけよ〜」
「言うて愚痴ばっかだったけどね……はぁ」
レモンまで遠い目になってしまった。
ため息をひとつ。
「あの時の彼……顔はよかったけど、俺がお前を守ってやるーって感じがすごくて。嬉しいっちゃ嬉しいんだけど、あたし的には対等な関係になりたかったんだよね。お互いに支え合うほうがいいのに、いつも強引に庇護下にしてさ……話もあまり聞いてくれないし」
「うちの方はなんというか、感性が違いすぎて目が覚めたって感じ? うちじゃこの年齢の子をわかってあげられないし、それじゃ幸せにできないな〜って思ったんよ〜」
そうそう、それであたしもセキも別れることにしたんだよね――――と頷くレモン。
「んで、どこかに同じ目線で一緒にいられる人はいないもんかなってセキに言ってさ……」
「この子のことならわかる、みたいな子はいないかな〜ってレモンに言ってねえ……」
……ずびし。
「「――――あれ、目の前にいるじゃんって」」
指を指しあって、2人はころころ笑う。
まあそういうわけですよ〜とまとめたセキに、レクセルはぱちくりしながら尋ねた。
「……男の子を好きだったのに、なんですぐ女同士で付き合えたの? 違和感とかなかった?」
「んー……たぶんあたし、恋人の性別なんてどうでもよかったんだよ。好きになった人がたまたま同性だった、ってだけで!」
「それね〜、うちはレモンが男の子でも付き合ってた気がする〜」
「っ…………」
ぐらり、と。
足元が揺れたような気がした。
「性別なんてどうでもよかった、か……」
異性と付き合うこと。
同性と付き合うこと。
そういう区別を、しなくてもよかった……?
惚けた顔でブランコに揺られるレクセル。
そんな彼女に、レモンとセキは身を乗り出して。
「だって男女関係なく、好きな人は好きな人だから! ねっ?」
「あはは、そうだねえ〜」
楽しそうに、笑い合ったのだった。
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