#24 レクセル、閃く
Moan:(スラングで)喘ぎ声
MoanRaker:えっち集め人、(古典的隠語で)阿呆もの
「まずはご無事でなによりです、レクセルさん」
「……お気遣い、痛み入ります」
ジェミニ市の民間郵便会社、〈ダストテイル・エクスプレス〉の応接室。
代表は穏やかな声でレクセルを労った。
「それにしても、配達物も無傷とは思いませんでした。とてもあの機体に載っていたとは信じられない……!」
「……遊便の努めを果たしたまでです。――――だけど、よかった」
遊便パイロットにとって、配達物は命の次に大切なもの。
無事と聞いて、少し口調が柔らかくなる。
だが思い出したように、唇の端が強ばった。
「ところで〈スー〉は――――私の愛機は」
「ありゃ手酷くやられましたねぇ……もしよければ新しい機体を――――」
「いえ。……あの、修理は可能でしょうか」
「ううむ……まあ可能ですが1週間ほどかかりますよ?」
「……お願いします。大切な、相棒なんです」
「――――なるほど。そういうことでしたら」
代表は微笑んで、頷いた。
その他諸々を打ち合わせた後、レクセルは一礼して部屋を出る。
そのまま充てがわれた宿へ行き、寝た。
配達人の修理費、滞在費は会社持ちが当たり前。
こういう時、タダで観光ができると喜ぶ配達人が多いのだが、レクセルの気分は沈んだままであった。
ところで。
ジェミニの町といえば、〈愛の゙要塞〉という人気スポットで有名であった。
駆け落ちしてきた敵国の姫と騎士を匿い、追手から守りきったという逸話が残るこの砦には、毎年多くのカップルが訪れる。
引き裂かれずに済んだ2人の仲にあやかって、永遠の愛を誓いに来る者が多いのだとか。
――――そんな恋人同伴推奨スポットに、1人で来ている少女は誰か。
滞在2日目のレクセルである。
「あの子、1人で来てるわ……」
「あれほど美しい容姿なら、自分自身に恋をしても不思議じゃないわよ。一人二役ね」
「あぁなるほど。多様性の時代だものね」
……めっちゃ浮いていた。
そしていろいろ誤解されていた。
レクセルは目立たないように、少し屈んで小さくなった。
「あの女の子、恋人とはぐれたのかな? 声かけようか?」
「かわいそうに……でも心細くなったところに助けに来てくれるパートナーってのも、よくない?」
「ああいいっ……! それなら手出し無用だね!」
……そしたら違う誤解をされた。
それどころか理想のシチュまで妄想される始末。
――――頭の中ピンク単色なの?
聞こえてきた声に内心ツッコむも、ここはそういう人が集まってくる場所である。
訪れたレクセルも人のことは言えない。
石造りの狭い階段を上がりきると、いきなり目の前がぱっと開けた。
風がふわりと吹き抜ける。
青い空が広がる、広々とした展望台。
「――――まさにこの場所で、姫と騎士は永遠の愛を誓い合ったのです!」
後ろから来たツアーの一団が歓声を上げる。
流れてきたガイドの言葉をなんとなく聞きながら、レクセルは城壁に肘をつく。
「はぁああぁ……」
――――長い、吐息が漏れた。
眼下に広がる町が、絨毯のように続いている。
隙間をちょこちょこ動いてる小さいのが、人間。
眺めていたら、自分がとてもちっぽけなものに思えてきた。
傷付いたこととか、悩んでたこととか。
もう、いろいろ、どうでもよくない……?
なんて一瞬、思ったけれど。
――――ボク。
レクシーのこと、好きなんだ――――。
「…………どうでも、よくないな」
告白してきた時のハレーが、脳裏に浮かぶ。
少し潤んだ、決意を込めた緑の瞳。
それは真っ直ぐ一直線に、こちらへと向いていたのに。
……自分はその気持ちを、真正面から受け止めなかった。
私は一般論を盾にして、目を逸らした。
理解できないと、勝手に決めつけて。
断るにしろ、受け入れるにしろ。
ハレーの気持ちをちゃんと理解してからにしたい。
……女心を理解できるようにならなければ。
そのために、遊便になったんだから。
「――――とは、思うけど」
正直なところ――――。
今、誰かとデートする気にはどうしてもなれなかった。
この前のことがちらついてダメ。
しばらくは無理って感じ。
「………………」
それとなく周りを見る。
愛の要塞という名に恥じぬカップル率。
手を繋いでいるのがデフォルトである。アツアツである。
外だから涼しいのが救いだった。
適当に向けた視線の先でさえ、恥ずかしそうに見つめ合う2人がいる。
レクセルと同じくらいの少女たちだった。
ふうん。
いい感じじゃん――――とそれを見ていたレクセルは。
「…………あ」
――――なんかひらめいた。
「――――すみません、ちょっといいですか?」
唐突に声をかけられて、握り合った手がきゅっとなる。
快活少女とダウナー少女のカップルが、顔を見合わせて足を止めた。
「……なんですか――――」
怪訝な顔で振り返ると、そこにいたのは。
「――――うわ顔面えぐ!?」
「わぁめっちゃ美人さんだ〜」
レクセルであった。
「顔面、えぐ………………?」
……勘違いして呆然とするレクセルであった。
「私……そんなに醜い……?」
「え? いや違うよ、顔整いヤバってことだよ!?」
「その容姿で醜いはないでしょ〜」
2人がかりでフォローされる。
この前のことでレクセルはナーバスになっていた。
なんとか誤解も解けたところで。
「……で、あたしたちになにか?」
快活なほうの少女が、警戒心もあらわに尋ねた。
「言っとくけどナンパなら他を当たって。セキとデートしてるんだから」
「わぁ、レモンかっこいい〜」
ツンと言い放った恋人――レモンを、セキと呼ばれた少女が茶化す。
少し赤くなりながら、どうなのよ!? と腰に手を当てるレモンへ、レクセルは軽く首を振った。
「――――ナンパなんかしないよ。ちょっと話を聞きたいだけで」
「……話って、なんの?」
「お似合いな2人の惚気話を――――」
「セキ聞いたっ!? あたしたちお似合いだって!」
「うんうん、よかったねえ〜」
「――――あの」
「もちろんいいよっ! いくらでも惚気たる!」
「――――あ、うん。ありがとう……」
勢いに圧倒されるレクセル。
一瞬で手の平を返したレモンに、チョロいなあ〜とセキがころころ笑っていた。
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