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ボクっ娘幼なじみが本命の最強美少女パイロット、女心を学ぼうとして全部間違える 〜女の子とデートしまくれば百合が理解できるよね(???)〜  作者: そらいろきいろ
004 / シー・イズ・ノット・イナフ

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#22 レクセル、絶体絶命

 声の主は、撃ってこなかった。

 まるで己を見せつけるように、するすると〈スー〉の横に並ぶ。

 細長い翼に長い鼻先の、剣みたいな戦闘機だ。


 操縦席へ目を向けてみた。

 ゴーグルと飛行帽で覆われて、パイロットの顔はよく見えない。

 警戒心もあらわに、レクセルは一言尋ねた。


「……あなたは、敵?」


『――――機体も情報通り。37ミリなんて重い武装、よく使いこなせるね』


 しかし返ってきたのは独り言。

 答えるどころかじろじろと舐め回すように観察され、レクセルは顔をしかめる。

 思わずマイクに怒鳴りつけた。


「ちょっと! 聞い――――」


『でもさっきの動きは鈍くなかった……さては、あまり弾を積んでいないんだ』


 ――――ぞわり。

 レクセルの背筋に冷たいものが走る。


 弱点がバレたから……というだけではない。

 鋭い観察眼に的確な分析。

 気付かれないよう、太陽を背にして降りてくるという狡猾さ。


 このパイロット、間違いなく手練れだ。


「…………私が襲われてるの、見てたんですね。助けてくれるわけでも、助けを呼ぶわけでもなく」


『だって彼らが墜とせるわけないし、あの程度ならなんとかできるでしょう? ――――遊便のレクセルさん』


 どうして名前を知っている。

 会ったことがあるのか……?

 

 そういえば声に、聞き覚えがある気も。


「あなた…………何者?」


 硬い口調で問うたレクセルに、パイロットはころころ笑いを返す。

 飄々とした態度が、ぽろりと剥がれて。


『――――さぁ、エスコートの続きだよ!』


 明るい声と、銃声が響いた。






 雲間で踊る、2機の戦闘機。

 白く航跡を引きながら、くるくると優雅に絡み合う。

 命のやり取りにしてはあまりにも美しい、手練れ同士の空中戦。


「エスコート…………って」


 レクセルの目が、驚愕で固まる。

 ぱぱぱと浮かぶのは昨夜の記憶。


 ――――エスコート、お願いしてもいいですか。


 ――――いいわよ、ワタシに任せなさい!


「フェイ……さん?」


『あは、レクセルって本当に鈍いのね!』


「もしかしてフェイさんが、遊便狩り……?」


『……それいちいち聞くのはさすがに鈍すぎるよ』

 

 砲口が火を噴く。

 曳光弾が〈スー〉を掠める。

 歯を食いしばりながら、レクセルは振り返る。


「なんで……!? だってあんな悲しそうな顔で、配達人の知り合いがいたって……っ!」


『知り合い――――そうね、まるでレクセルみたいな人だったなー。純粋で、自分の腕に自信満々で……愛機や仕事のこと、嬉しそうに話してた!』


 懐かしそうに語るフェイ。

 じゃあ、と口を挟みかけたレクセルだったが、次の言葉がそれを遮った。

 

『……でも悲しかったな、ぜんぜん強くなかったんだもの。レクセルはワタシを悲しませないでね?』


「…………は……?」


『だって遊便でしょ? 簡単に撃墜できたらつまらないじゃない!』


 すっ――――、と。

 世界から、色が消えた。

 

 ――――あぁ。

 この人は前も、こうやって。

 仲よくなって、油断させて、情報を抜き出して。

 配達人を、殺したんだ。


 最初に襲ってきた奴らもたぶんグル。

 私に弾を消費させて、出方を見るための。


「………………のに」


『んー?』


「憧れてたのに。かっこいいと思ってたのに。信じてたのに……っ」


 車窓越しの観光。

 一緒に飲んだライムトニック。

 2人で歩いたイルミネーション。


 全部、懐柔するための罠だったなんて。


「…………フェイさんの、嘘つき!」


『あは、上手い! フェイクのフェイってこと?』


「るっさいっ!」


 スロットル全開。

 レクセルは感情を断ち切るように、全速で空を駆け上がる。


 〈スー〉は元々、高高度爆撃機を迎え撃つための戦闘機だ。 

 空気が薄く、普通の戦闘機ではよろよろ息継ぎしてしまうような高高度を、〈スー〉は高速で飛ぶことができる。

 

 そのメリットを生かし、逃げ切ろうと思った。

 戦いたくなかった。

 一刻も早く、ここから離れたかった。


「ぐうぅ……っ」

 

 眼尻に涙を浮かべ、押し寄せるGに呻きを漏らして。

 遊便狩りを引き離すべく、昇っていく。

 思い出を置き去りにするように、速度を上げた。


 だが――――。


「……まさか」


 フィィィィィン――――と鼓膜を揺らす、異質な高音。

 信じられない思いで後ろを見る。

 敵機は相変わらず、そこにいた。


 引き離すどころか、距離が詰まっている……!


「……チッ」


 思わず舌打ちが漏れた。

 隣に来たときは見えなかった、反対側の機首側面。

 カタツムリのような装置が付いていた。


「ターボチャージャー……!」


 それは高高度でエンジン能力を引き上げるもの。

 であれば、敵機は〈スー〉より速いのかも。

 

 レクセルは歯噛みして、勝機を見つけようと記憶をさらう。

 そして思い出した。

 

 剣のようなシルエット。

 優れた上昇性能に、当時最新のターボチャージャー。

 終戦直前に配備されたという、無敗の新鋭機。


 神話の英雄を冠するその名は――――高高度迎撃機〈オリオン〉。


「――――クソッ」


 レクセルは上昇を諦め、降下に転じた。

 〈スー〉は低高度用の〈スコルピウス〉を無理やり高高度迎撃機に仕立て上げたもの。

 付け焼き刃の高高度能力では、初めから高高度運用を目的とした設計の〈オリオン〉には太刀打ちできない。


 同じ土俵では負ける。

 ならば降りて戦うしか勝機はない。


『あらら? 高いところは怖いのかなー?』


 馬鹿にした声を引き連れて、空を駆け下りる。

 速度がぐんぐんと増える。

 さらに増える。

 構造材がガタガタ、分解しようと震え始めた。

 機体も人も限界に向かって、一直線に落ちていく。


「ぐうぅ……っ」


 全身の血が、眼球へ押し寄せる。

 視界が赤く染まっていく。

 頭に靄がかかったように、思考が遠のく。

 

 どんなに優れた戦闘機でも、操るのは人間だ。

 先に気を失った方が、愛機もろとも墜落する。

 機体性能が関係しない、根性勝負に持ち込むレクセル。


「…………っ」


 揺れてぼやけた視界の中。

 速度計の針が、危険域を指す。

 翼を留めているリベットが1つ、弾け飛んだ。


 ――――ここが、限界。


 〈スー〉の声が、聞こえた気がした。

 空中分解の一歩手前。

 レクセルは懸命に操縦桿を引く。

 地表に接触する寸前で、翼はなんとか水平に戻った。

 

「ふーっ、ふーっ、ふぅっ……!」


 心臓を抑える。

 荒い息をつく。

 ギリギリまで耐えきった。


 レクセルはエースの自負がある。

 私の限界にはさすがに付いてこられないはず。

 ――――淡い期待を抱きながら、振り返って。


「……嘘」

 

『ふう! なかなかやるわね、っと!』


 絶望は、けろりとそこにいた。

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