#21 レクセル、襲われる
翌朝。
てきぱきと支度を済ませ、レクセルは飛行場へ向かう。
スバルを拠点とする郵便会社、〈ヘッド・エクスプレス〉の所属機たちが滑走路脇に並べられ、出発を待っている。
その中にはレクセルの〈スー〉もいた。
「――――荷物は搭載済みです。高価値貨物ですので、くれぐれも破損のないようにお願いします」
「了解です。整備諸々、ありがとうございます」
担当者は頷いて、配達人控を手渡す。
ポーチにしっかりとしまい込み、レクセルは握手をしてから機体へ乗り込んだ。
風防を閉めて、エンジンに火を入れる。
〈スー〉がぶるりと身震いをして、ゆっくりと進み始める。
ガラス越しに、朝を迎えたスバルの風景が動いていく。
「――――お元気で、フェイさん」
オレンジに染まる街並みへ、そんな言葉を投げかけて。
レクセルはスロットルを押し上げた。
ぐうーん、とエンジンが回転を上げる。
いつもより滑らかな感じがするのは、整備士の腕のおかげだろうか。
ベテランを充てる、と言った担当者の言葉を思い出して、レクセルはご機嫌な笑みを浮かべた。
どことなく軽い操縦桿を引き、翼が浮き上がる。
一晩を共にした街を背にして、〈スー〉は陽光の中へ飛び込んでいった。
「またか……雲が多いなぁ」
ため息をついて、レクセルは少し進路を変えた。
正面にもくもくと、大きな積乱雲。
見た目こそ綿あめのようだけど、あの中は風が吹き荒れる危険な場所だ。
――――空の危険は略奪機だけでない。
人間を産んだ自然でさえ、敵に回ることだってある。
自然も人も、味方とは限らない。
脅威をいち早く察知し、避けて進む。
もし避けられないのならば無理やり進む。
それが出来ないと、遊便は務まらないのだ。
「……ん?」
周りを見回していたレクセルの目が、真上でぴたりと止まる。
その先できらりと光が5つ。
雲の隙間に刺客のごとく潜んでいた略奪機が、獲物を見付けて迫ってくる。
「これだから雲は嫌なんだ……」
ぼやきながら、レクセルは敵を睨みつけた。
……奴らの狙いは〈スー〉の積荷だ。
まずは無線で脅しをかけてくるはず。
ならば――――その隙をついてやる。
引き金に指をかけながら、残弾計に目を落とした。
最大で20発まで表示できる目盛りも、今は6発を指している。
――――敵は5機、1発でも外せば後がない。
「……大丈夫。できる」
そう言い聞かせて、敵機を見据えた。
鼻先をこちらへ向けて、まっすぐ急降下してくる。
脅しの無線は未だない。
翼がちかちか、鋭く瞬き――――。
「っ!?」
反射的に操縦桿を倒すレクセル、〈スー〉が慌てて身を捩る。
たった今、胴体があった空間を一条の光が焼き焦がし、すり抜けた。
「撃ってきた……!?」
胴体には燃料タンクがある。
被弾すれば火災が起きかねない飛行機の急所だ。
真っ先にそこを狙って来たということは。
奴らの目的は〈スー〉の積荷じゃなくて、撃墜!
「まさか、〈遊便狩り〉――――?」
操縦桿を押し込みながら、後ろを振り返る。
追い立てるように追尾してくる5つの機体は、どれも略奪機御用達の〈サギタリウス〉。
火力強化モデルではない、弱い機体だ。
――――遊便ばかり襲ってる略奪機がいたの。
――――何機も犠牲になったって、噂になっていたわ。
「……違うか」
フェイの言葉を思い出し、レクセルは首を振った。
遊便がただの〈サギタリウス〉ごときに負けるわけがない。
それにフェイさんの言い方から察するに、〈遊便狩り〉はおそらく単機。
略奪機たち、とは言っていないから。
「よい、しょっと!」
ばららら――――と飛んでくる機銃弾を躱しつつ、〈スー〉は空を駆け上がる。
丸い円のように、1機と5機が連なって宙返り。
同じ軌跡を描くはずなのに、〈スー〉は少しずつ、略奪機たちの背後へと回り込んでいく。
前縁スラット展開、フラップ全開。
スロットルダウン、すぐにアップ。
レクセルが行う、細かい操作の積み重ねが大きな差となつて、敵をじりじりと追い詰める。
そうして、3度の宙返りを終えた頃には。
最後尾だった略奪機の尾翼が、〈スー〉の目前で揺れていた。
「――――取った」
砲口が咆哮する。
どん、どん、どんとリズミカルに、5機の尾翼が吹き飛ばされる。
姿勢を崩した略奪機たちがふらふらと墜ちていき――――〈スー〉の目の前はクリアになった。
「ふぅう……」
ぱっぱっと開いた落下傘を横目に、レクセルは大きく息を吐く。
なけなしの5発をなんとか当てて――――残弾は、あと1発。
「はは……さすがにこれは、緊張した……」
気付けば、手の平がじんわりと湿っていた。
心を落ち着かせようと、レクセルは目を閉じた。
穏やかなイメージで、頭の中を満たしていく――――。
川のせせらぎ。
小鳥のさえずり。
ハレーの柔肌。
「――――ん?」
なんか変なの混ざったな。
首を振って、もう一度リラックス。
森の木漏れ日。
星の瞬き。
かすかな殺気。
「――――殺気!?」
弾かれたように周りを見回す。
けれど眩しい陽光は雲を照らすばかりで、敵はいない……。
……いや。
太陽を背に、黒い影が。
それはすぐに大きくなって、こちらに迫る翼の形に――――。
「近っ……!」
あわてて翼を立てる。
でも撃たれれば必ず当たる、そんな距離。
間に合わない。
レクセルはきゅっと身をすくめて、
『――――うん、やっぱり気付くか。いい腕だね』
「……………………へ……?」
聞こえてきた無線に、こわごわと目を開けた。
読んでいただき、ありがとうございます!
続きは毎日【お昼】に更新!
面白いと思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。
励みになりますので、★評価や感想もお待ちしております!




