#14 レクセル、戦って寝る
「あんたの空戦スキルが頭おかしいことだけはよく分かったわ……」
「それはどうも」
「ほんと、なんで配達人やってんのよ……空軍のエースパイロットだって言われた方がまだ納得出来るって――――」
――――ぴこん。
その時、ビエラの頭上に電球が灯った。
「……あんたも、今の状況じゃ仕事出来ないわよね?」
「まぁ航路封鎖されてるしな」
「うちの会社から他に頼まれてる仕事ってある?」
「ないけど」
「じゃあさ! あんた、あたしたちと略奪機退治しない? 掃除はみんなでやれば早いって言うし!」
レクセルの、常人離れした強さ。
いつもは降りかかる火の粉を払うだけだったそれを、攻め手として使ったら。
…………封鎖中の略奪機なんて、あっという間に排除出来てしまうのでは?
ざわざわと囁きが広がる。
期待する声がだんだんと増えていく。
その空気に応えるように、ビエラは前かがみに言葉を重ねる。
「今日みたいな一幕がまた起きても、あんたがいれば助けられるかもだし! もちろん報酬は出すからその…………どう!?」
「……なるほど」
レクセルはジュースの残りを飲みこんだ。
ちらりと周りを見やってから、赤いツインテールへ視線を戻す。
そして頷いた。
「ん、わかった」
「ほんと!? 後からやめたって言うのはナシよ!?」
「疑い深いなー」
うおおー! と歓声が上がる中で、2回目の握手が交わされる。
んんっと咳払いして、ビエラは背筋を伸ばした。
「じゃあ、社長にはあたしから話を通しておくから――」
「あ、それはしないで大丈夫」
「――――えっ?」
「ビエラたちを追っかける前に、社長のとこにへ顔出したんだけどさ。そのとき同じこと頼まれたから」
「あんった…………頼まれてる仕事あるじゃないのよっ!!!」
ビエラは吠えた。
それからというもの。
レクセルは助っ人としてビエラたちと翼を並べ、航路を封鎖していた略奪機たちをどがーんぐしゃあと掃除しまくる、刺激的な日々を送りましたとさ――――。
しかし物語は、ここでは終わらない。
パラナルへ来て1週間、封鎖は未だに続いていた。
「イケヤ、後ろに敵! 回避しろっ!」
「うそ、なんてこと!」
うおおん……とエンジンの唸りを響かせて、白い翼を略奪機が追う。
敵は性能が低い〈サギタリウス〉だが、なにしろ数が多い。
気付けば後ろに付かれている――――ということが多々起こる、そんな戦いの空である。
イケヤが操る〈スコルピウス〉も、まさにその状況であった。
〈サギタリウス〉の機銃口が瞬き、銃弾の雨が機体を掠める。
そのいくつかが命中し、ガンガンと〈スコルピウス〉を揺らす。
右へ左へ旋回しつつ、懸命に逃げるイケヤ。
しかし真後ろにぴたりと付かれ、振り切れない。
辛うじて致命傷は免れているが、敵が撃つ度に機体の穴が増えていく。
「わわ、だめ……っ!」
翼に被弾、燃料タンクを貫通。
空いた穴からガソリンが噴き出すのを見て、イケヤは悲鳴を上げた。
もし発火すれば一瞬で火だるま。
絶望の眼差しを背後へ向ければ、敵パイロットの邪悪な笑みがすぐそこに見えた。
「ふ、振り切れないぃ……っ」
『――――イケヤ、そのまま動くなっ!』
「……ふえっ?」
唐突に無線が怒鳴った、その刹那。
背後の略奪機が弾け飛ぶ。
爆風に押されてつんのめるイケヤ機を、するりと追い越す機体がひとつ。
側面に描かれた〈C.X.〉が、イケヤの目に飛び込んできた。
「れ、レクセルさまっ!?」
『間に合った……っ。ちゃんと周りに気を付けて!』
「は、はいぃ……ありがとうございますっ!」
一声かけただけで、レクセルはあっという間に飛び去ってしまった。
「…………救世主さまだぁ……」
その後ろ姿を見つめて、ぽぅと頬を染めるイケヤ。
疲れ気味の声で少し心配だけれど、むしろドキドキしてしまう。
いけないいけない! と頬をぺしぺし叩くも、熱さはぜんぜん引いてくれなかった。
――――と、毎度こんな調子で。
ピンチを救っては片想い勢を量産してきたレクセル。
この日は特に忙しく、5機の略奪機を撃墜し、5人の配達人の心をオトした。
……罪深いことに後者は無自覚である。
なお、これで同僚の9割がオチた。
「……だいぶ敵を墜としてきたけど、配達はまだ無理かー」
硬いベッドに寝転びながら、レクセルが呟く。
パラナルには長い滞在になるとあって、〈エンベロープ・エクスプレス〉の社員寮を使わせてもらっていた。
所属する配達人たちが寝泊まりするこの寮は、相部屋が基本である。
「周辺の略奪機が共謀して集まってきてるのよ……すぐに後詰めが来るんだもの、これじゃイタチごっこよ!」
向かい側のベッドでぷんぷん返すのは、ビエラ。
隊長だからと単独で割り当てられていた部屋だったので、ちょうど1人分のスペースが空いていたのだ。
そこへレクセルが収まったわけである。
「ならここで撲滅しちゃえば、しばらくは略奪機に襲われる心配がなくなる訳か。かえって好都合だな」
「撲滅できればの話でしょ! って、あんたならやりかねないわね……」
ずるい、とビエラは思う。
美しい容姿だけでは飽き足らず、空戦の腕は超一流。
なのに驕るわけでもなく、己の身を顧みずにピンチへ駆け付ける仲間想いな性格。
まるで人に好かれるために生まれてきたようなカリスマ性で。
……こんなの、誰だって惚れるわよっ!
癪になって、枕に顔を埋める。
自分の息の熱さが、認めたくない本心を思い知らせてくる。
なんなのよっ……。
なんでこんなヤツ好きになっちゃってるのよ、あたし!
……ぜんっぜん寝られない。
だって寝言が届く距離に、レクセルがいる。
鼓動が身体を揺らし、ベッドの硬い感触ばかりを伝えてくる。
寝返りをうったり毛布を被ったり、悪あがきをするもやっぱり寝られず――――。
「……あーもうっ!」
ビエラはがばっとベッドから出た。
心を掻き乱す元凶へ向かって、ぺたぺた歩みを進める。
寝息が聞こえないし、起きてるわね。
「……ここのベッド、硬くて寝られないって評判なのよ。慣れてないとキツいでしょ」
小さな声で言いながら、レクセルの側まで来た。
プラチナの髪が、月明かりに輝いている。
ごくりと喉を鳴らし、ビエラは思い切って口を開いた。
「あ、あんたも寝られないなら……少し話さない?」
……レクセルの首が動く。
横を向いていた顔が、正面へ。
ビエラは恐る恐る、返事を待つ。
「……ねぇ、なんか言いなさいよ――――?」
――――そして絶句した。
レクセルは、なんと既に寝ていた!
寝息なんてほぼたてず、静かに熟睡していたのだ!
「う、うそでしょ……」
ビエラはよろよろと後ずさる。
彼女は知る由もなかった。
レクセルは操縦席と同じような、硬い寝床がお気に入りだということを……。
「……よくそんなすぐに爆睡できるわね! こんな硬いベッドで、もうっ!」
ぷりぷり文句を垂れながらベッドへ戻るビエラ。
――皮肉にも、ムカついたせいかすぐに寝れた。
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