#13 レクセル、返り咲く
炎の大輪、四方へ飛び散るジュラルミン。
向かう先で起こった光景に、ビエラは思わず口を押さえた。
アトラスが、死んだ――――?
『う、うわああああぁァッッッ――――』
「……待って、機影が見えるわ!」
『――――ァァ、ァ?』
絶叫とともに突っ込みかけた列機だったが、その声に落ち着きを取り戻す。
追い抜かれていたビエラが前に戻り、3機は編隊を整えながら接近した。
煙が晴れて、そこにいたのは。
「……ああ、アトラスっ!」
ビエラの目から涙が溢れる。
相変わらずふらふらとしていたが、アトラスの機体はちゃんと飛んでいた。
爆散したのは、略奪機のほうだったのだ!
『アトラス! 無事ですか!?』
編隊を飛び出し、列機がアトラスへ問いかけた。
『私、助かったの……?』
『……そーですよ、助かったんです! もー心配させて、もーっ!』
『だ、だけどどうして。間に合わないと思ってたのに……』
アトラスが困惑の眼差しで、反対側に並んだビエラを見る。
ビエラにだってわからない……。
敵も満身創痍だったし、まさか勝手に爆発したんじゃ――――なんて思ったちょうどその時。
『……よかった、うまく当たって』
――――馴染みのない声が無線に割り込む。
さっと手元が陰って、思わずビエラは上を見上げる。
天使のようにするすると、白い翼が降りてきた。
それはお馴染みの〈スコルピウス〉。
けれど記されているのは、〈C.X.〉のステンシルで。
「あんた……レクセル!?」
『そう』
「いつからいたのよ!?」
『今来たところ』
驚きのあまり口をぱくぱくさせるビエラの前へ、優雅に滑り出るレクセルと〈スー〉。
安心させるように軽く翼を振れば、歓声が無線を震わせる。
まるで、おとぎ話の救世主。
太陽を弾くその姿は、ビエラにはとても輝いて見えた――――。
「――――本当にありがとう、レクセルさん。あなたがいなければ私、死んでた!」
「アトラス、もう何度も聞いた。気にしなくていいから」
困り顔のレクセルは、歓迎会のただ中にいた。
アトラスを救ったことが広まり、感謝も兼ねて急遽開催されたのである。
久しぶりのパーティーとあって、配達人たちのテンションは留まるところを知らない。
そこかしこから笑い声が上がり、陽気な空気が辺りを包む。
そんな中で、やけに静かな少女が1人……。
「やっぱり、隊長も気になります?」
「……んなっ!?」
壁に寄りかかっていたビエラは、慌ててレクセルから目を逸らした。
隣に来た同僚はぐいとコップをあおり、からから笑って指を指す。
「流石は遊便ですよね! ほら見てあれ、あのサバサバしてたアトラスが完全に乙女の顔に!」
「えっ」
「そりゃ命の恩人ですもんねぇ、まさに白馬の王子様じゃないですか! まぁ女性ですけど!」
……言われてみれば、確かにアトラスの頬が赤い。
瞳なんてここからでもわかるくらいキラキラしているし。
「恋……?」
「しちゃってますねぇあれは、あはははは!」
「ふーん……」
ビエラは改めてレクセルを見る。
アトラスだけでなく、またもやたくさんの同僚に囲まれ話しかけられていた。
……本当に、信じられないほどの美少女。
ちょっと目つきがキツいけど、見た目は孤高のお嬢様。
そのくせ出会い頭にナンパしてくる変なやつだ。
だけど。
さっきは確かにかっこよかった。
どこからともなく現れて、一撃で略奪機を倒し――――って。
「おや、隊長もアピールしに行くんですかぁ?」
「んなわけあるかっ! 聞きたいことを思い出しただけよ!」
びしっと一喝して、ビエラはつかつかと壁を離れた。
あそこもここも、盛り上がる背中の間をかき分けて近付いていくと、こちらに気付いたプラチナの髪がさらりと揺れた。
「――――ビエラ、やっと来た」
「っ……あんた、他の子の相手で忙しそうだったし! デートの相手は見つかったかしら?」
「今のところ、誘ったのはビエラだけだよ」
「〜〜〜〜っ! とにかく、アトラスを助けてくれてありがとう! あとそのことなんだけど!」
「うん」
「……あんたあの時、どうやって墜としたのよ?」
アトラスが生きていたことに安心して、自然と流してしまったけれど。
よく考えればあり得ないことが起こっている。
レクセルはあの時、今来たところと言っていた。
ということは自分たちよりも遠くにいたはず。
どう考えても機銃が当たる距離ではない。
しかも一撃で爆散だなんて、本当に12.7ミリ機銃……?
ビエラの疑問は、同僚たちも不思議に思っていたことだったらしい。
人垣がこくこくと頷いて、ずらりと頭を突き出した。
期待の眼差しに晒されて、レクセルはコップを傾ける。
喉を潤してから、口を開いた。
「……単発狙撃? みたいな感じ」
「単発って……機関銃なら連射しちゃわないの?」
「あー……私の機体、37ミリしか積んでなくてさ。大口径砲だから発射レート遅くて、すぐ引き金から指離せば単発で撃てるんだよ」
「……………………は?」
ビエラは絶句した。
納得と困惑で、思考が停止した。
なるほど、37ミリ機関砲!
それなら当たれば爆散くらい――――いや。
……なんで当たるの?
精度ガバガバの大口径砲で、狙撃……?
周りを見回すと、どの顔もぽかんとしている。
あ、あたしだけじゃなかった。
ほっとしたおかげで、ビエラは我に返る。
首を振った。
「……ちょっと待って整理させて。あんたの〈スコルピウス〉、火力強化モデルだったの?」
「うん、ちなみに名前は〈スー〉ね」
いや愛称はどうでもいいのよ――――なんて言葉を飲み込み、ビエラは質問を重ねる。
「でも、37ミリで狙撃なんて出来るの? 精度も反動も酷いはずでしょ……」
「風を読むのがコツ。どれくらい機体が揺れるか、弾が流されるか――――それを見越して、舵で抑えながら撃てばいける」
「……いやできるかっ! あんた普通じゃないわ!」
「隊長、だからレクセルさんは遊便なんだ!」
「ホの字のアトラスはちょっと黙ってなさい!」
どっ! とやけに明るい笑い声が上がる。
改めて聞いても信じがたい説明に、みんな理解を諦めたらしい。
ビエラも例に漏れず、はぁ……とため息をついた。
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