#11 レクセル、ざまぁする
「オラ聞いてんのかこのガキ!」
声を張り上げながら、男は背後の〈スコルピウス〉を振り返る。
ノコノコ単機でやってきた今日の獲物は、か弱そうな美少女ときた。
少し脅せば荷物も身体も手に入ると思っていたが、どうやら気が強い性格らしく、未だに言うことを聞く様子がない。
まさかこの状況で、自分たちを出し抜けるとでも思っているのか?
「ハッ、ばっかじゃねーの! 一撃で墜としでもしなけりゃお前は風穴だらけ、たかが2門の機銃でなにが出来らァ!」
気丈な態度に少し焦ったが、なにも警戒するこたぁねぇ――――なんて男は余裕を取り戻す。
少女からの応答はなかった。
「痛い目見ねぇと分かんねぇようだなァ? おいお前ら、死なねー程度にぶっ放して――――」
『……その計算さ、弾の大きさ無視してるよ』
「あァ!? なに言ってやがぶべあッ」
刹那。
着弾の衝撃が男を窓へ叩きつけた。
ぐらりと機体がバランスを崩し、反対側のガラスにも叩きつけられ、たまらず額から血が噴き出す。
赤く染まる視界の中、慌ててバランスを戻そうとするが――――操縦桿に手応えがない……!
「クソガキなにしやがった――――ぁ……」
激昂した男の目に、信じられないものが映り込む。
翼の半分から先が、きれいに消失していたのだ。
「バッ、バカな……」
12.7ミリ弾には、風穴を開ける程度の威力しかない。
こんな、翼ごと粉砕する威力なんてありえねぇ。
「おっ俺様を誰だと思ってやがるっ、〈地獄のティアマ――――〉」
『名前は墓石に刻みなよ』
「ひっ、ひぃぃッ!」
冷たい言葉とともに。
めきめきと響いてきた音に、思わず情けない悲鳴を上げる。
それはかろうじて耐えていた残りの翼が、風圧に負けて破壊された音であった……。
「――――まずはひとつ」
前を塞いでいた略奪機を墜とし、レクセルはスロットルをカットした。
プロペラが推進力を失う。
展開されたフラップが風を掴み、機体を急減速させる。
背後の略奪機は対応しきれず、勢い余って〈スー〉を追い越し、揃って前へ出てしまう。
『うおッ!?』
『なっ!?』
『っクソがァ!』
目の前で混乱する3機の敵へ。
どん、どん、どん…………と。
レクセルは順番に大砲を向け、引き金を引いた。
――――重量増加、燃費は悪化、副武装は全て撤去。
その代償と引き換えに搭載されているのは、たった1門の〈37ミリ機関砲〉。
〈スー〉の武装はそれのみである。
しかし…………それは連射できる戦車砲。
本来なら飛行機に載せる代物ではない、規格外の火力が、轟音と共に略奪機へ襲いかかった。
――――1機目、胴体後部へ命中。
操縦席から後ろが吹き飛び、大破。
続いて2機目、エンジンに直撃。
大穴を穿たれ、煙を噴き出し墜落。
最後の3機目は燃料タンクに被弾。
大爆発を起こし、粉々になって消失。
「……略奪機、4機排除」
きらきら舞い散るジュラルミンを置き去りにして、〈スー〉が青空を駆け抜ける。
レクセルが腕利きと言われる所以がここにあった。
くるりと旋回して周囲を眺める。
他に敵がいないことを確認してから、レクセルはふぅと息をつく。
立ち上る黒煙に手を合わせ、黙祷をささげた。
「…………よし」
ポーチから手帳を取り出し鉛筆を走らせる。
記されていくのは、遭遇した略奪機の情報。
襲撃を受けてもすぐに逃げず、敵のペースに合わせていたのは、この情報を得るためであった。
「――――空域D5にて4機から襲撃。機種は〈サギタリウス〉火力強化モデル。操縦士は典型的なイキリ野郎……っと!」
文章に若干ムカつきが混じったが、気付かずパタンと手帳を閉じる。
これを会社へ報告、配達人の間で共有することで、襲われるリスクを減らすのだ。
レクセルは速度を上げて、先を急いだ。
「連絡は受けていましたが……まさか本当に危険空域を突っ切ってくるなんて!」
無事にパラナルへ到着したレクセルは、感嘆の声に囲まれていた。
載せてきた荷物が背後で運び出される中、困った顔で周りを見回す。
男女問わず、たくさんの配達人が人だかりを作り、キラキラした眼差しを向けてくる。
今の時間なら空にいるはずの配達人たちが、どうしてこんなにいるんだ……?
「やっぱ遊便の人って強いんですねっ!」
「……略奪機が油断していたから、なんとか」
「またまたー」
「だからって全機撃墜はすごいですよ!」
「なー!」
「うむ!」
「……あの、それよりみなさん、お仕事は?」
苦し紛れに尋ねてみると。
「……………………」
「えぇ……」
しーん。
賑やかさは一瞬で消え去り、沈黙が広がった。
どことなく怒りのオーラまで伝わってきて、レクセルはごくりとつばを飲み込む。
「あー、ストライキ中とか……?」
違った。
一斉に首を振られるレクセル。
もしかして……。
なにか失礼なことしたか、と冷や汗をかいたちょうどその時――――。
「全部、略奪機のせいよ!」
――――人混みの後ろから、よく通る声が響いた。
さぁっと人垣が割れる。
声の主はレクセルの元までつかつかとやって来て、ん! と片手を出した。
……あ、握手かこれ。
レクセルはちょっと遅れてその手を握る。
少女は一瞬頬を染めたが、すぐにそれを消して自己紹介をした。
「――――ビエラよ。この〈エンベロープ・エクスプレス〉で配達人をまとめているわ」
「私はレクセル、よろしく。――――ところで、略奪機のせい……とは」
「奴らに航路を封鎖されてるの! そのせいで通常便は全て運休っ!」
赤毛のツインテールをぶおんと揺らし、ビエラはフン! と鼻を鳴らした。
ふーん。だから配達人が足止め食らってるのか。
納得がいくレクセル。
「……ってことは、配達の仕事はない感じか」
「まぁそうね。せっかく来てくれたのに悪いけど」
「じゃあさビエラ、私とデートしてくれない?」
「――――――――――は?」
ツインテールがぴしり、と固まる。
一拍置いて、周りから黄色い歓声が上がった。
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