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「英語は何とか出来ると思うよ。今、うちに英語の教師で熱心なのがいてね」
「はあ」
なんでも、その方は、「どうすれば英語が出来るようになるか」日頃から熱心に研究しているということであったが、この人が最も参考にしているのは、裏のお宅の父親も言及していた現(当時)同僚の英語教師であったと知るのは後のことである。
「よく見ると、国語全体ではそうでもないんだけど、古典も全然出来てないんだね」
「はあ」
これも英語が出来ないのと理由は同じである。現代日本語だけで生活するには足りているのだから、わざわざ今じゃすっかり使う必要のない言葉に馴染みはない。百人一首に興味をもつなど関心を持つこともなかった。漢語も日常生活で使うことはないのだが、漢文は漢字の意味からそれなりに読み解くことが出来たから点数は取れた。少なくとも、私の田舎では、私が現役の頃は、高校受験では大学受験よりも国語全体で古典と漢文の占める割合は遥かに小さく配点も低かったのだが、此のことは私にとってはプラスであった。
「こっちは、私が責任をもって何とかするから」
「はあ。でも、この前の模試は五教科でしたけど、受験は三教科、英、数、国語ですよね。○○(お向かいのお宅の父親の勤務している学校)高校。公立高校の入試と違って。英語が全体の配点の三分の一で受かりますか? 御存知の通り、英語、酷いものですよ。それに、国語も古典の配点がもし高かったりしたら、落ちませんか?」
「それは大丈夫。君ならうちの入試を受けてくれて、答案に名前さえ書いてくれたら、特進に合格だから」
「はあ。でも、内申とか良くないですよ。と、いうか、悪いのではないかと……」
「そうなの? でも、問題ないよ。公立みたいには気にしないから。特進でもそれは関係ないから」
そこのところは、実は「そうじゃないかな」とは思っていた。たとえ特別進学科であっても。というのも、この高校の普通科ときたら……。
この私立高校はこの近辺では結構名の知れた、特別進学科、進学科、体育科、普通科から成るけっこうなマンモス校である。ただし、「名の知れている」というのは、主に悪い意味で、である。今は知らないが、少なくとも当時は。この学校の大半は占める普通科には他の高校だったら入れたのか怪しい学力の者も少なくなく、素行の悪い、所謂、不良やヤンキーも多く在籍しており、夏休みが開ける度に、何人かは決まって警察のお世話になっているという有様であった。いくら私の内申点が、内申が、悪いとはいえ、他の高校から受け入れを拒否されるレベルでは――いくらなんでも――ない。なんなら、裏のお宅の地元市立校の教師からは勧誘を受けているくらいではあり、三者面談では、件の市立高校なら内申点も足りていて、それどころか、頻りに薦められるくらいではあった訳でもあるし。学区内トップの進学校を志望するには内申が、内申点が、低過ぎるとのことではあったが。
「だから、うちに来ないか?」
それでそちらに行ったかというと――




