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「でね、裏の奥さん、気付いていないみたいなんだよ」
「何が?」
「どうもね、自分を怒っているのは旦那さんだと思っているみたい」
「…まじなの?」
親は小さく頷いた。
「裏の奥さん、近くのコンビニによく行くみたい。五百円玉一枚だけ財布に入れて。メロンパン買いに」
「五百円玉一枚? メロンパン? それって……」
「おやつだか、食事だかは知らないけど、たっくんが毎日来る度に五百円玉一枚だけ持たせているみたい」
「それで何か食べろってこと? そりゃ、呆けてたんじゃ、料理とかで、火とか使わせたら危ないだろうけど……」
「奥さん、その五百円を旦那さんに貰っていると思っているみたい。近所の人にも私にも道であってお話ししてみるとそんなこと言うよ」
そこで親は眼を逸らして続けた。
「『うちの旦那様は優しい』って……」
背筋が少しぞくっとした。
「毎日、怒られていることはわかっているみたいだけど、口振りからすると、自分を叱っているのは旦那さんで、まさかたっくんに怒鳴られているとは思っていないみたいでね……」
「ま、毎日怒られている訳じゃん。しかも、今日みたいな感じで。いっつも」
「うん?」
「だったら、毎日どんな感じなの? おばさん。メンタルとかヤバいんじゃないの? だって、傍から聞かされているあんたが嫌で鬱になるくらいなんだよ」
「それがあんまり何を怒られたのか中身は覚えていないみたいでね。ケロっとしているよ」
「ケロっと……」
「そう」
「そ、それでも、何を怒られたか中身は解らなくても、怒鳴られたってこと自体は覚えているんでしょ?」
「その辺は少しは解っているみたいだけど、あくまでも旦那さんの愛情や思い遣りで叱られていると思っているみたいでね……」
親は悲しそうな顔をしていた。
「私、あんなの嫌だよ。長く生きたらあんな風って……。いくらやることなすこと危なかしくなっったって……」
「…あんなふうに怒ると思う? あんたの子は。あんたに。親に」
「それは……」
「絶対にしないよ。するわけないじゃない」
「そ、そう……」
「ここまでこんなに迷惑ばかりかけてきて、そんな恩を仇で返すようなことが出来る筈なんかない」とは言の葉には登らせない。
その一方で「果たして、私がそこまで長生き出来るものだろうか?」とも内心考えてもいた。
(私は確かに当然のことだが親よりも若い。三十年近くも。だけど、ただそれだけのことに過ぎない。老化はしていないかもしれないが、色々とそこら中身体がぶっ壊れていて、健康からほど遠いのは間違いなく私の方だ。親は節制しているというが、振り返ってみるに私はというと……。そこまで生きていられるような気はしない。というか、生きられる感じがしない。それに多分無理だろう。寿命というのはおそらくはそういうものだろうし)




