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目が覚めて起きて少しぼんやりとして、それから二度寝してまた起きて、どのくらいだかぼけっとしていたら、
深く突き刺し、尚且つ抉るかのような、強い大声が聞こえてきた。
裏の家からだった。
声量は往年の父親に負けず劣らず、それでいて切り刻むような声質は全盛期の母親よりも鋭い。
何を言っているのかは解らなかったのだが、聞こえてくる怒鳴り声は、母親を叱っているのであり、何かしらを語っている訳でないのは明らかだったのだが、それはまるでどこかの独裁者の演説のように私には響いた。
「…何、これ……」
それは確かに私の知っているたっくんの声ではあったが、それは同時に私の知っているたっくんの声ではなかった。
「…こんなの、違う……」
何を言っているのか解らないのは、早口で捲くし立てているからだろうか、それとも他に何か要因があるのだろうか? 兎にも角にも、とても痛々しいものだった。母親の声は一切聞こえてこず、長男の一方的に叱り飛ばすがなり声ばかりが響くうちに、部分的に聞き取れる言葉も出てきた。
「…『嘘を吐くな!』って……」
おばさんは何かしら反論をしてはいた、或いはしているらしいのだ。ただ何も聞こえてこないだけで。
「それにしたって……」
母親が呆けていることを長男が知らぬ筈があるまい。寧ろ、そんなことは誰よりもわかっていて、それで様子を見に来たり、面倒を見ているのが長男の筈である。呆けているのであれば、そりゃ嘘を吐いているかのようなことなど言ったりもするだろうし、言うことを聞かずに腹立たしかったりはするのだろうけれど……、
「それにしたって、『嘘吐くな!』って連呼して、ただ只管に怒鳴りつけるって……」
こんなのは、ますます私の知っているたっくんではない。
そんな一方的な怒号が一頻り鳴り響いた後、裏のお宅は静かになり、というよりも静まり返り、やがて車の音がして走り去ってゆくのが聞こえた。
「…嘘でしょ……」
それから間もなくして親が部屋までやって来て、ぺたんと戸口に正座して言った。
「…凄いでしょ」
親は悲しげな顔をしていた。
「凄いけど……」
親が「怖い」と言い出すのも、「これでは無理もない」と思った。長男は地元の公立中学の体育教師なのだと聞いている。今のご時世、生徒に手を上げることなど論外なのだろうが、ここまで声を荒げ、ここまでの語気で生徒を叱りつけるのだって有り得ないこと、彼が顧問を務めている柔道部ですら、私立の強豪校という訳でもないのだから、世間で認められるレベルではあるまい。たとえ、私立の強豪校の柔道部の顧問だとしても、ここまで怒鳴りつけるのは今日日ないのではなかろうか。ましてや、彼が現在勤務している中学校でこのレベルをやっている筈がない。「それにしても」、である。これでは親が「怖い」と表現するのも尤もである、というよりも、尤もでしかない。




