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その2の2


天罰術式が完成してしまっていた。


これは神の力に近いらしく、人間からしたら殆ど神らしかった。


俺は一介のスパイから神に昇格してしまったらしい。


ーーいや、何だそれ。


俺は自分で自分にツッコミを入れた。


「お兄さんそれね、天罰術式ーーあんまり使わない方が良いかも。多分リターンあるよ。悪い方のリターン。」


そうなのか……。


「そ、そうか……。(やっぱりそうなんだな……。)」


「特に悪しき心では、使わない方が絶っっっ対に良い。わね? そうよね? 」


子供たちの母親が言葉をたっぷりと溜めて言い、さらに問い正した。


「それは確かだよ。」


「天罰なんてーー神様が使うものだもん。」


「神様が怒る? 」


「かもしれない。」


子供たちが口々に喋る。


俺は神ではなかったです。済みません。ただの一介のスパイに心を戻します。ーーと、心の中で独り言ちた。いや、だから何だこれ。


「『何だこれ? 』ってこと、いっぱいあるよ。家うちに居ると。」


長男くんが飄々と言った。


「俺たちと居るとーー関わると全員『何だここ? 』とかってなる。」


次男くんも。次男くんはこう、素直そうな口振りだ。


「なりそうだな。人数が多いしーーな。」


俺は周囲を改めて見回した。ーー多い。大人数が集まっていた。


「人数が多いからじゃないよ……。大体が、ーーまたアンタの所為だろ!? 父さん!! 」


急に長男くんが切れた。怒髪天だ。


「ーー分かんねぇな……。」


そんな豹変した長男くんとは正反対に、父親はボソッと呟いて答えた。


「森羅ちゃんがーー……。」


「森羅ちゃんの体に障るので、怒鳴らないでください、お兄さん。」


お友だちたちが心底心配そうにしながら声を上げた。


「俺は怒鳴っていませんよ〜。」


一応、俺も巻き込まれよう。うん。


俺は態と言った。


「貴方ではなく……。そちらのーー小さなお兄さんの方……。」


おずおずと遠慮がちに長男くんの事であることを告げるお友だちくん。


「ーー分かった。オーケー。父さん、外に出ようか。オレ先に出てるから。」


「はい、外でやってください。喧嘩は外で。」


「森羅ちゃんのお兄さん、親子喧嘩何回目? 」


「何回目だろうーー? 行って来るよ。今日こそは勝つ! 」


長男くんの体がまた光った。揺らめく光を纏った姿になった。気合を入れたからだろう……。


「ーー意外と激情型なんだな……。」


俺は言葉を隠さずに呟いていた。まぁ、長男くんはこれを指摘されてこっちにまで怒りを向けるタイプでもないだろう。そう思った。


「意外過ぎますよねーー」


「静と動なら静を極めた感じに見えるもんね、普段の森羅ちゃんのお兄さん。」


今日加わったばかりの俺でも、『そう思う』と賛同した。


「森羅〜? そろそろ起きよ〜う? 」


お姉ちゃんが優しく声を掛ける。


「おはよ〜? 」


長女は声を掛けることを続けるーーけれど、目を覚ます様子がない……。


「寝入ってるね……。今日は泊まっていったら良いよ。」


祖父が声を掛けた。全員、事態に動揺はあるけれど、特別というわけでもなさそうだ。場の雰囲気から、普段から孫たちがお泊りしているのであろうことが垣間見える。


「帰る組は? 」


「森羅ちゃんが心配ですけどーー帰ります……。」


「僕たち、おうち違いだからね。」


お友だちくんたちがすっと立ち上がった。『今席を立たないとーー立ち上がらないと、居座ってしまって帰れなくなってしまうので』という呟きに『兄さん、同じだよ。』と同意する。そして、『双子だから同じです。』と目を合わせ頷き合う二人ーーそうか、双子だったんだな、お友だちくん二人は。だから雰囲気が似ていたのだ。


「森羅ちゃんのおうちの人たちは、居てあげてください。」


「ーー成長したよね。前までは『森羅ちゃんと居ます!! 』って梃子でも動かなかったのに。」


「君もですよ……。お互いにーー成長してます。」


やはりどこか大人びている双子の二人。ーーと、チャイムが鳴った。


冷や汗が出て来た。


まさかあの状態から敵がーーしかもチャイムを鳴らして現れるだろうか、と頭を捻り掛けた。


長男くんが『なんだ。』と安堵した様子で扉を開いた。


「ーー 大彳建 がやられたと聞いた。居るか? 」


「居るよ……。大丈夫……。」


来訪者に鈴の鳴る声がした。


「森羅ちゃん! 」


「意識がーー! 」


「起きたな。もう眠っても良いぞ。おれが代わりに起きて居てやる。」


来訪者はーーその男の子は、長男くんにしっかりと挨拶をしてからこちらまで小さく、けれど、悠々と歩いて来ていた。


「頼もしいです。ーー任せます。」


「あぁ。二人は帰れ。親が心配する……。」


冷ややかに冷たいーークールな印象かと思えば、その瞳に心配性の色を乗せ、気遣いの念が感じ取れる。

また大人びた子供が増えたようだ。


「来て早々『帰れ』だよ。君は本当にブレないよね。ーーそこが君の」


「良いところです。行きましょう。この人が来たら、僕らのする事はありません。」


「する事が無いーーという事は無い。すまん、口が過ぎた。」


なにか、緊張が解けた様子で謝罪する男の子ーー同級生だろうか?この少年たちは……。敬意などが窺えるが、対等に見える関係性ーーきっと上下関係、先輩後輩というものではないのだろう。


「お気になさらず……。いつもの事で慣れていますから。」


そう言葉を残してーー静かに場を後にする双子くんたち。何だろうか、本当に細やかな動きに見えたのは小さいからだけではないような気がした。


「(ねぇ聞いて、)」


「(何だ? 今彼奴等と話をしているーー何? そうだったのか……。)」


待て今どんな会話した??


「(ーーで、ーーがーーだから……。)」


「(分かった。)ーーそして新しくここへやって来た来訪者たるそこの救世主もとい元スパイの監察官の方、」


へぁ???


「ーーーーーー俺か?? 」


「感謝する。ーー森羅万象の命を救けていただき、ありがとうございます。」


深々と丁寧な言い回しに合わせてお辞儀をした男の子の姿に、圧倒されてしまった。


な、何だ?この仰々しさは!


「お、おぉ……。いや、そこまでの事はーー……。」


ーーしたか? 命救ってたか? ーー救ったんだな、救えたんだな、この小さな命を……。


「? (半身半疑の様だが? 本当に此奴がお前を救けたのか? 痛い、止めろ。能力でーー植物でおれを痛め付けるな。おい、これが急遽ーー取り急ぎ来てやった奴への仕打ちか? 来るのが遅い? 何処から駆け付けたと思っているんだ! 否、何処からでも駆け付けるがーー……。)」


「ありがとーーぅ……。」


赤面!? えっ!? ここで赤面ーー!?!?


姫ぇ〜〜〜! 赤面の場面違うくないですかぁあああ!? 恩人ここですが!!


「ーーふぅ……。俺は疲れているみたいだ……。」


「その様だな。ゆっくり休んで頂きたい。ホテルの手配はーー? 」


大人より大人だわこの子。この男の子、少年。


「これからだ」


そして俺は俺自身のことなんて、すっかり忘れていた。

え〜、どうする〜?どこ泊まろ〜?


「ならば此方がーー此方でします。感謝の意として。」


「君はーー何者なんだ? 」


「おれはーー……。何者でもありませんが、此奴のーー痛っ、」


幼女よ、今その少年の頬を叩く必要はあったのかい??


「違う、違うんだーー! それは相手が勝手にーー『泣かせるな?? 』おれが泣きたい……。泣く……。うわぁん! 」


泣いた。


えぇ〜……。嘘ぉ〜……。泣き始めたよどうする〜?


「な、泣かなくても……。」


「ーー(お前が浮気をしたら此方も浮気をしてやる。)」


「(彼氏でもない癖に)」


拗れ出した!!


「(お前がそう思っているだけだ。ーー気付いてからだと遅いからな? )」


「(何なの!? いつも君は!! もうっ!! )」


あ、分かった。察した。ーー幼女、意外とあの婦人に似ているぞ。


「あー、えー、ところで二人はどんな関係なんだ? 」


「おれたちーーはーー……。」


「同級生です。」


「そうーーだな。同級生だな。同級生だ。」


見るからに気を落としている様子の男の子。ドンマイ!

なんてったって、命の恩人はこっちだからな!な〜んて!


「ーー同級生? お友達? 」


一応、良心の呵責から助け舟を出してみる。この男の子から幼女を取り上げてはいけない気がする。何故だか。


「お友達ですっ! 」


疑うようにして聞けば、幼女はそう強い口調で答えた。良かった。良かったな男の子ーー少年くん。君は毛嫌いされていないよ。


「ーーあ、あぁ。お友達でもある……。」


男の子は残念そうな、けれど安心したような雰囲気で言葉を捻り出していた。


「『友達じゃない』って言われなくて良かったね、妹に何時もいつもアタックしては否される君。」


「ど、どうしてそれを!? 」


「見え見えだよ君。」


立ち去ったはずの双子くんたちが『忘れ物をしました』と荷物を取りに戻って来ていた。『そそっかしいんです、親に似て。』という発言に、双子くんたちーー双子のお兄さんの方は長男くんと同じところがあると瞬時に俺は察した。


この子も親と何かあるのだろう。『親』の言い方に強調を感じた。


「兄貴、」


「ん? 」


「俺、気づかなかった。」


「うん、ちーちゃんは恋愛方面、疎いから。」


「また負けた……。」


肩を落とす次男くん。そっちまで拗れ出したらお兄さん、手一杯になるな〜!


しかし、……。


(成る程? このいえの子たちは上に勝ちたがりでいつも負けているんだな……。)


「お兄さん、ーーその通りだよ。」


長男くんがこちらに顔を向けて言った。


「負けず嫌いなんだーー全員。」


向けられた顔に何も返せずにいると、長男くんはそう続けた。


「一番の負けず嫌いはーーこいつ、ーー森羅、かもな……。」


「名前呼んだ? 」


幼女が大きなくりくりとした目で男の子をまじまじと見詰めた。


「あ、あぁ……。悪かった……。」


「謝らなくて良いよ、ーー晴明くん。」


生命くん?また名前まで大仰しいのだな君は。


「そうか。……。ーー!? 」


「(もう帰って良いよ……。)」


「今晩一緒に居て欲しいって。うちの妹。」


「あぁ。一緒に居てやる。」


「(ちょっと!! お兄ちゃん!! )」


長男くんが男の子の気持ちの後押しをした。お兄さんも何か後押ししてあげたいな、そうだ、気づいたのだが、確か君はさっき双子くんたちを帰らせてしまっていたんだ、だから幼女は多分ーー……。


「(確かに、来て早々『帰れ』とーー言ったな、おれが……。彼奴等に……。)」


いや〜、顔似てるなと思った、やっぱりこの子もーー男の子も親戚確定だ〜、悟りが増えた〜。


「(あの子たちは先に居たでしょ。ーー来て直ぐ帰らせてないよ。)」


「(ーーそうだな。)」


「……。」


「……。」


……。(ーー甘酸っぱ〜〜〜い!! 何だこの甘酸っぱい間は!? 幼女、園児、こんな恋愛するのか!? え!? 俺が奥手なだけ!? いやいや早くないかこんな恋愛はーー!! )


「(よし、お兄さんにはお引き取り頂こう。)」


「(うん。珍しく意見が合ったね。)」


え〜駄目〜?お兄さんが君たちの甘酸っぱい恋愛見ているのは駄目かい??


男の子と幼女のみならず、双子くんたちまで、息ぴったりに『駄目』と言われた。


「ーーだって。お兄さん、ご退場しようか。寂しいだろうからオレたちが家でおもてなしするよ。」


「おぉ。俺もーー帰る。森羅、生きるんだぞ? また明日な。」


幼女のお兄ちゃんたちが席を立つようだーー長男くんは外から戻って来ていて、次男くんは立ち上がった。


「お休みなさい。お兄さんたち。」


「うん、森羅のこと、宜しく。」


「! はい。」


「よろしくな〜。」


「はい……。」


(頑張れ、少年ーーえぇと、せいめい君! 途中で気づいたが生命じゃなくて晴明だな多分!そっち寄りの名前な気がする!安倍晴明と同じ名前だな、凄いな!漢字は確定できないが!)ーーそう胸中で俺の方が拳を握り締めながら、せいめい君にエールを贈りつつ調査対象の祖父母の家を後にした。

正直出歯亀心が無かったと言えば嘘になるが、あの二人はそっとしておいてあげた方が良いだろう。間に入って茶化したりしたら、拗れーー刺されそうだ。せいめい君に。あの子は刺して来そうな気がする。何故だろう、確信めいたものがある……。


「あの二人はね、それで正解。ーーやっぱりお兄さん、鋭いね。」


「ーー君はよく褒める言葉をくれるみたいだが……。」


夜道を歩きながらの雑談ーー長男くんは中々お喋りだと窺える。


「ん? お小遣い頂戴とかじゃないよ。オレは事実を言いたいだけ。世界が虚実に塗れているから……。」


「あ〜……。兄貴の話聞いてると、何だっけ? 取り込まれる? から、あんまり魅入って聞かない方が良いよ。」


次男くんは説明を付け加えてくれるようだ。正直に助かる。


「! ーーそうなのか? 」


そしてその次男くんの言う通りだった。


確かにーー魅入られそうだ……。


月と星が浮かぶ真っ暗な夜空の下、魔の様な、闇の様な、それでいて、天の使いの様なーー不思議な魅力というやつが、長男君にはあった。整った顔立ちや、ほっそりとした体躯が相まってか、一層そう見える。


ーーふと、鬼太郎を思い起こした。

背格好や雰囲気がピッタリだ。

長男だし、太郎というのも合っている……。


「鬼太郎は止めてよ……。」


「ならーー太郎君と呼べば良いかな? 」


「まださっきまでのーー"長男君"って方が良いや。」


「あ〜……。兄貴そのネタうんざりしてるとこあるもんな。長男イコール太郎ネタ。」


「そう、うんざり。だよ。」


「そ、そうだったのか……。なら何と呼べばーー? 」


雰囲気に飲まれて語尾が変になっていた。


「普通に名前で。」


「名前ーーを教えて貰えるなら、名前で呼ぶ事が出来るのだがーー……。」


「調査資料にあったでしょ? ーーそれとも何? オレたちの事は書いてなかった? 」


あった。ーーたが、名前なんて幾らでも書かれていた上に、数人のファミリーデータが載っていた資料だ。数十の人名や地名が書かれていてーー……。


「あ〜〜〜、分かった! もう良いよ。オレのこともあだ名で呼んで。森羅もそうだから。」


「あだ名? 」


「ーー"バンビ"」


バンビーー?


「"幼い"または"初心者"ーー? 君はそう呼ばれていた頃よりは大きくなったんじゃないのか? 」


「分かった、アンタはイタリアに居たんだーーイタリアから来たの? 住んでるのもイタリア? 」


「ああ。イタリアから来た。出身国は別だな。イタリアは隣の国だーーが、住んではいる。」


「へぇ? ーー本当みたいだね。」


長男くんの口振りはさながら尋問官の様だった。周りの大人に居るのだろう、尋問官も。


「日本には探し物をしに来た。」


探し物はこっち側のトップシークレット。長男くんでも、その秘密には触れてはもらいたくないな……。


「じゃあ探し物ついでだ。オレたちのーー父さんと母さんの事は……。」


「ああ。」


「ついでならさ、静かにしててよ。」


「"静かに"ーー? 」


「大人しくしててってこと。」


「成る程ーー……。それは、約束出来ない……。」


何故なら既にお騒がせしてしまったのだ……。調査員ーースパイとして俺が来てしまった所為で、連れて来てしまったくらいの事柄だろう……。


もしも、俺が来ていなければ、さっき襲って来た敵が君たちと何某かの接触ーー交流を経て、事態は回避されたかもしれない。


いや、そもそも、俺たちのような調査員自体が君たちに関わりさえしなければーー……。


「何で? ーーあぁ、気になるのか……。結婚とかさ、そういうのも、二人の事だから。」


「ーー達観しているな。随分君はーーその、大人の様だ……。」


「色々あってね。」


大人びている自覚もあるようだった。長男くんの周りには随分大人しめの物静かな大人が多いからだろうーーと思ったが、何か他にもあるらしい。


「ーー色々あったから。」


ふと、今まで見守っていた長女が口を開いた。


「姉さんなぁに? 今まで黙ってたでしょ? この人に興味ある? 」


「興味ーーというか、知り合いな気がして……。」


! そうか……。


「『何処かで? 』と、よく言われる。体質らしい。」


「ーー分かった。姉さん、この人父さんに似てる。そうだ、スパイだからだ。」


「スパイはみんなそう? 」


「! ーーそうかもしれないな……。同期が同じ事を言われていたのを見た事がある。」


「だってさ。ーー姉さん、ファザコン? 」


「ファザコンは卒業したはず……。」


「じゃあ興味持たないで。折角仲間になれたのに、味方になって貰ったのにーー毛嫌いしちゃいそうだから。」


「私も嫉妬してるけど? 」


「うん、気づいてるよ? 」


えぇえええ〜〜〜〜〜〜……。


「お兄さん、二人は置いて行こう。もうあんた揶揄われてるよ。二人に。」


「あ、からかーー揶揄われているのか……。」


「ちーちゃん、」


「何だ兄貴? 」


「気をつけて帰ってね。襲われないでねって意味。」


「ーーあ、了解。」


「襲わないがっ!? 」


何を言い出すんだ長男くん!!


「どうだろ? アンタ調べたけど分かんないから。」


「襲いそう? 襲われそう? 私の弟ーー」


「妹も危ない、危ないかなぁ……。」


「だからっ!! 襲わないがっ!? 」


確かに長女のーーこの子は可愛らしい学生に見えるし、幼女は幼女らしく可愛いーー、可愛いが!!流石にそれは!!


「ほら、揶揄われてるだろ? 」


「ーー! か、揶揄われているんだな?? 」


「多分……。」


揶揄られているのだと言う次男くんの言葉を信じるしかなかった。本気で疑われていたら、何だろうーー大人として自分が情けなくなりそうだ。

2026.6.24

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