その1の3
「お祖父ちゃんの家にはいつーー? 」
「もう直ぐ着きますよ〜。そこの角を曲がれば……。いつも迷子になっちゃうんです、この子……。この曲がり角を間違えて……。」
俺の質問に敬語のお友だちくんが答えてくれた。
「何故か、ね。」
もう一人のお友だちくんも念を押すように続けた。
「何故だかはわたしにも分からない……。どうして何でいつも曲がると違う道ーー? 」
打ちひしがれているようだーー?
幼女は宇宙に投げ出された宇宙飛行士の様に途法に暮れている様子だ。そんなにいつも曲がり角を間違えてしまうのだろうか? (ーー俺は今回は間違えていたかもしれない。この山には関与せずーー否、愚痴は止めよう。)
「そうだね、止めた方が良いよ。ため息と同じでさ、幸せが逃げちゃいそうだから。ーーあと、ここからは心の声、気をつけた方が良いかな。心した方が良いよ。オレより感度の高い悟りが居るから……。」
「僕のことかな? 」
「うん、今オレ口に出したもんね。」
「この人がーー? 」
悟りーーもとい、この子たちの祖父……。(長男君に似ている!! だから能力も似てーー!? )
「その子は母親似なんだよ。僕の娘によく似ているだろう? 」
「!! 」
早速心を読まれてしまった。
「ーー成る程。」
「とうとう来たんだねぇ……。」
子供たちの祖父が納得し、祖母が呟いた。
「監査官か。それで、調査の報告ーーレポートはどうかな? 」
「やっだ、この人上司……。ン、ゴホンッ、ーーこの方は警察等の総括のーー」
正直パニックになっていた。パニックになり子供たちに向かって子供たちの祖父の紹介をし始めた俺は何を血迷ったのか……。
目の前に居るのは上司ーー子供たちの祖父は何を隠そう調査の仕事を依頼した本人だった。祖母の様子だと祖母は調査依頼のことを知らなかったのだろう。
「そうだよ。」
「そうだね。」
子供たちの祖父と祖母が肯定してくれた。子供たちの雰囲気から『知っている』といった回答が見て取れた。
「お兄さん諦めて心の声まで喋ることにしたんだね。懸命だと思うよ。」
「本当、それが一番だと思うよ。」
「お兄さん、お姉さんだった? 」
「今はオネェ、になっただけ、だよーー……。」
「緊張の糸、切ってあげようか? 」
「切れたら粗相をーーそんな事態になったら大変だからいいかな〜。必要ないよ。ありがとう、うん。」
あ、いけるぞ。オネェ言葉使えるぞこれは。
「うん。頑張って。その意気。」
「うん、語尾が柔らかいね。子供たちーー孫たちに気を遣ってくれてありがとう。」
「あ、はい……。」
「それで、君から見て、どうだったかな? 二人はーー」
「えぇとーー、その、普通のご夫婦に見えました……。」
「普通の? 」
「あ、はい。至極普通でーー。仲睦まじい様子とありましたが、その通りにも見えました。」
「ーーそう、か……。なら、良かった。周りの人間にも、監査官にもそう見えるのならーー……。」
「だって。良かったわね! 」
「姉さん……。」
子供たちの母親に、母親の姉が喜びの声を上げた。まるで受験に合格した妹とそれを喜ぶ姉の様だ。
「君たちのその話とはまた別件だよ? 」
「もうっ! お父さんの意地悪っ! 」
「母さんお前みたいになってる。」
「うん。」
次男が幼女の先程の様子を例に挙げていた。幼女は素直に肯定した。
「? 」
「ーーあのね? (父さんと母さん、結婚してないの。)」
幼女が小さな声で恐らくはシークレットである事柄を俺に伝えた。
「えーー? (それって? )」
どういう事? どうしてーー?
「(お祖父ちゃんが許してくれない、からって。)」
「! ーーどうして、」
「ーー聞いてしまったか。なら話をしようか。」
『少し込み入った話になるよ』ーーと前置きをされた話は、余りにも絵本や物語の様な話だった。
二人はそれぞれ、別国の王と王女にあたる。
その二人の娘が調査対象②の婦人ーーこの子たちの母親だ。つまりーー
「お姫様だよ。」
そう、姫だ。ーー皇女と言うのが正しいらしい。
そして調査対象①の背高のっぽのーー子供たちの父親は、また別の国の王子らしい。王と王女と交流も深く、古くからの友人ーー旧友と言える王がこの王子の父だという。ならば話は円満なのではないか?
俺は『なら円満解決では? 』と聞いた。
「そう思うでしょ? 」
「わたしもそう思ってた……。」
沈黙の中、母親の姉、そして長女が応えてくれた。
「僕らの仲が良くてもね、国はそうもいかない……。」
あ……。
「何とかはしようとしてくれてるんでしょ? ね? そうよね? 父さん? 」
「何とかーー出来たら良いんだけどね……。」
「今は難しいでしょうね……。お二人の居る場所もーー原因の一つかと……。」
俺は両国の現状を思い出し、苦言を述べ、さっきの自分の言葉を自ら打ち消していた。
「冷戦状態だからね。」
「うん……。」
「あの、何でこの国に?? 」
他の国であれば円満とも言える様な状況に、疑問を懐いた。
「ーー呼ばれたのよね……。」
「亡命だよ。僕らは別国の王と王女と言っただろう? 僕らのそれぞれの国もーー啀み合いがあったからね。」
それは確かに、だ。
その点もこの話の肝なのだろう……。この祖父母の恋愛時代には日本はパッとしないーー印象の少ない国だった筈だ。それ故に亡命や隠れ蓑には最適の国だった……。しかし時を経て、周囲の国からすれば厄介ともされる国となってしまった。
「目の上の単瘤なんだと思う。」
「ーー(確かに……。)」
「されど敗戦後、冷戦後、この国は新たな新天地となり得るでしょう。ーーそう、日本という観光の名所として。」
『されど』ーー??
「はい、これプラン。」
ん???
「ワタシたちは考えました。」
「自分たちでも、解決出来るように。」
「その話、僕らも噛むんだーー含まれるんだった。」
「発案者1、2です。」
「ワタシたちは補佐。」
「参謀の方々です。」
プレゼンテーションが始まったぁあああああ!?
「こんな小さな国を観光の名所にするーーというのはどういう事かな? 」
言語とは裏腹に多分興味津々だこのお祖父ちゃんーー!
「やだもう面白くなってきた……。」
「オネェ言葉全開だね、お兄さん。」
「やってらんねぇ〜〜〜〜〜っって気持ちを吐き出すと共にな? 」
でも面白くなってきたというのも事実だ。何ならもう二人の結婚式まで見守りたいーー見守る覚悟だ。
「凄い覚悟を決めてくれてありがとう。お兄さん、味方になってくれたね。」
『ここに来たらなってくれる気がした』と長男君は、はにかんだ。君、年相応な笑顔もあるじゃないか。
「ーー! 」
「ねぇ、お一人でここに来られた? 」
「一人でーーあ、いや、もう一人いたなーー? 」
「その方、危険は無い? 」
「知らない人物で」
バタンッーー!!
扉が喧しく開かれるなり、拳銃の銃口がこちらに真っ直ぐ向けられた。
「みんな伏せてっ!!! 」
誰よりも早くそう叫んだのはやはり悟りの長男君だった。
「エマージェンシーね? 」
母親は意外にも冷静になっている。こういった事柄に慣れているようだ。
「待ってあれ拳銃……。」
長男くんが顔を青白くさせて呟いた。
「父さん!! 何とかしてっ!! 」
長女が直ぐに父親に叫んだーーと思った。叫んだのはどうやら母親の姉で、祖父に向かって言ったらしかった。
「僕が何かをしなくてもーー」
「もう何とかなってら。」
臨戦態勢をふぅっと解いた父親。
「ーーほら、やっぱり」
「森羅万象ーーですね……。」
相手は銃口をこちらに向けたまま硬直し、動けない様だ。
「引き金も引けないのかーー? 」
「金縛りみたいなものかな。」
「ん! 植物を生やしました! 」
幼女が元気に説明した。て、え!? 幼女ーー!?
「植物をーー!? 」
「わたしは木々とお友だちなので! ーーお昼にさくらんぼ食べてみたい。敵の人。」
幼女も臨戦態勢を解いて説明を加えた。
「敵か分からないよ? 銃口の先がーー」
俺ーーだ?
「スパイを消しに来た? 」
「俺はーー確かにスパイだ……。状況的に見て……。」
依頼を受けて、この子供たちーーそのご両親たちの調査をする為に来ている。来ていた。
「マジ? 本物初めて見た! 」
「『目の前に居んぞ? 』」
「父さん以外で! 」
「はぁ!? あんたもスパイ!? 」
「ん!! 縛りが解けますーー姉さーー兄さーー」
言葉と共にフッと体の力が抜けたらしい幼女が倒れるのを母親が受け止めた。
「オーケー。」
「時間稼ぎ、ありがと! 」
幼女の消え入る言葉に長男くんが了解し、長女が感謝した。
「後は兄さん姉さんに任せてーーワタシたちに任せてね? 」
「そうね、子供たちが相手する場面じゃないわね。ーーどうかしら? 」
妹の落ち着きに影響を受けてか、母親の姉も腹を据えたらしい。自身の父、子供たちの祖父に状況を聞いているようだ。"この状況をどうにか出来るか"を聞いているのかもしれない。
「どうだろーー? 」
長男くんの言葉と共に緊張が流れる。相手は次の策を練っているのか、こちらに向かっては来なかった。
というか、玄関先で硬直しているーー?
「んぁ、もう大丈夫だな。」
「木偶こらぁ!!! 何じゃ此奴は!! 」
玄関の外から荒々しい怒声が聞こえて来たーー聞いたことのある声だーー、それに、木偶ーー?
「(木偶の坊ってね? 父さんのあだ名だったんだって。)」
「(まだ呼ばれているみたいだな……。)」
『だった』と過去系で話す幼女に俺は現在系であることを伝えた。
2026.6.19




