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Noch ungestimmt -調律前の2人-  作者: 梨/なし/ナシ
I. ― Scherzo innocente
9/13

第8話 オフィストーク

 ―お昼休み

 カフェテリアなんてものはこの校舎にはなく、生徒は各自自由に校舎内でご飯を食べることができる。僕以外の4人は9階のおしゃれな椅子がすげえ置いてあるとこに座り、弁当を広げていた。僕は適当な口実をつけて一時退却した。

 学校初日に呼び出し。まだ何もおかしなことやってないと思うけどな。せいぜい鍵を一つ壊してしまったことくらい。でも、それは鍵の劣化によって起こったものであって、僕の不注意というわけではない。多分。

 10階、オーケストラのリハーサル室の隅っこにスミス先生のオフィスは鎮座する。

 2回ノックすると、中の先生が手招きをして僕は戸を開けた。


「ウェルカム!ようこそ私のオフィスへ!アキト・セキレイくん」

 スミス先生は見せびらかすようにバッと両手を挙げる。

 床には書類が散らばっており、先生の後ろには本棚が2つ。楽譜がたくさん置いてあるな。ドアの横にも棚があり、ここにはCDとスピーカーがびっしり入っている。

「CD羨ましいだろ?ベルリン・フィルのやつはだいたい全部あるぜ。あ、そこのUSBの棚にもね。ほしかったら貸すよ。一週間だけね」

 わっ、サイモン・ラトルのコレクションもある。これ高いやつじゃ。。。

「ま、座って座って。君とは少し話がしたかったんだ」

 僕は椅子に腰をかける。

「話って、僕なにかしました?というか、鍵の弁償は大丈夫ですか?」

「あれ。鍵壊したの君だっけ。まあ金はあるから大丈夫だよー」

 大丈夫だった。

「あの、じゃあなおさらなぜ?」

「君が噂通りの人なのか確かめたかったんだ」

 噂?

「僕噂が立つほどの人ですか?」

「秋人、ご存じない?君州内の高校ではそこそこ有名だよ。去年、そこら中のコンクールを総なめしたじゃないか。」

「そうですけど、それだけで噂は立つんですか?それに参加したもの比較的小さいものばかりですし」

「この、少し西の方の学区がそういうのに敏感でね。少しでも自分より上手い人が現れると、悪い噂流したり陰口言ったりするんだよ」

 性格悪ぅ。

「性格悪いでしょ?それで、この噂によると君は。。。」

 スミス先生はタブレットを眺めてリストを読み上げる。

「女子二人といつも一緒にいるから二股クソ野郎、家から一歩も出ない引きこもり、低身長、バカ、楽器が高価なだけ、弓が高価なだけ、顎当てが高いだけ、親がめっちゃ美人、ちび、チビナス、女たらし、のようだ」

 なんか一つあんま関係ないのなかった?

「え、すごい言われようですね。ちょっと参加するだけでこんなに言われるんですか?」

「残念ながら、そういう世界だ」

「それで、僕と実際に会ってみてどう思いましたか?」

「もちろん、大反対だ。身長以外はな」

 ひどい

「あ、親はまだ会ったことないから不問とする」

「はあ…」


 そうこう会話していると、先生は時計をみて言う。

「じゃあ、そろそろ本題に入るとするかな」

「本題?」

 と、言われても大体は想像がつく

「アヤさんのことですか?」

「その通り。君が彼女に音楽のノウハウを叩き込んだんだろ?」

「まあある程度は教えてたと思います。もちろん、僕も完全理解しているわけではないのですが…」

「いや、君は十分過ぎるほど彼女の音楽性を発揮させた。これをみてほしい」

 先生はタブレットを僕に渡す。

「これは?」

「指揮科の最初の授業でテストを渡したんだ。とりあえずどれくらい音楽のことを理解しているのか知りたくてね。それで大学教授の友人にこの高難易度のテストを作成してもらったんだが…」

 先生はどこか遠い目をして言った。

「満点だった。あー、満点。私でさえ苦労して90点ぐらいだったテストが、彼女は満点だった。これはどう言う感情が知っているか?」

「嫉妬と屈辱…ですか?」

「そんなわけない。」

 先生の目はキラッと輝き椅子から飛び立つ。

「喜びさ!!」

 突然大声で話し始めたぞこの人。

「まさか、こんな、素晴らしい才能の持ち主が現れるなんて!!!!!私は嬉しい!ああ、早く彼女がオーケストラを指揮する姿を見てみたい。あれだけ知識を持っていると、きっと素晴らしい音楽を創り出してくれるだろう。私はそれが楽しみなんだ。音楽の未来が、楽しみになってきた!!」

「あ、はい。よかったですね?」

「うん。じゃあ、昼食べてきて良いよ。」

 先生は椅子に戻って普通の声で話した。

「え?」

「いやー、この喜びをどうにかして吐き出したくてね。話し相手が欲しかったんだ。ありがとう、もう十分だよ」

「えっと、あの…アヤさんの話と聞いて、てっきり…」

「イマジナリーフレンドとやらのことか?」

 先生は真顔で問う。

「っ…はい…」

「私は彼女には架空の友達がいる、とだけ聞いているが、それ以外の事情があるのかな?」

 先生はアヤさんの過去とか事情とかあまりご存じない様子だった。

「どこから話せば良いのか…」

 そして情報を共有した。いじめ、友達、現実への影響、親の願望。


「なるほど…大体理解した。要は親は架空の友達に囚われる生活を恐れて、早く5人とお別れ会をして欲しいってことだな」

「はい。でも、その肝心のお別れ方法がわからなくて…」

 先生は少し考える素振りをして、ハッと思い出したかのように本棚に手を伸ばす。

「あの…先生…一体何を?」

「…置き換えるんだ…」

「え?」

「これを見てくれ」

 先生はよくわからんドイツ語の本を取り出した。

「あの…これは…」

「私の親しい友人の書いた学位論文だ。心理学と音楽の関係性を書いたもので、実に興味深い内容なんだ。この中に、君の求める答えがあるだろう。」

「先生、僕、ドイツ語読めませんけど―」

「アキト、君は音楽院に行くのだろう?ならばドイツ語は履修しなければならない。とりあえず携帯の翻訳アプリと―この辞典を貸す。これを使って一通り読破してみなさい。質問があればいつでも私に聞いて、読み終わったらこの話の続きをしましょう。」

「あ、え、はい」

「それじゃあ、お昼休み、残り20分を満喫してきなさい」

 僕はオフィスを退室した。


 ――――


「秋人、おかえり!!!すげえ長いトイレだったね!!!」

 クレアは凄まじい声量で僕を圧倒する。

「デカい声出すな、バカ」

「いやあ、秋人は本当に運が悪いね。この30分の間で私たちはアヤちゃんのすごーい情報を手に入れてしまったよ」

「え、例えば?」

「小学三年の時、魔法少女に憧れるあまりに―」

「あ、わ、くr、クレア、その話は口外禁止って!!!」

 アヤさんは慌ててクレアの口をふさぐ。クレア、そこ変われ。

「仲良くなったようで何よりだよ。それで、ケイラとアルベルトは?」

「なんかオーケストラの先輩方に拉致られてた。10分ぐらいは戻ってきてないかな」

 あいつらも大変なんだな…

「秋人さん秋人さん」

 アヤさんが僕の持っている本を指さす。

「これ、何ですか?」

「あ、ああ。スミス先生から渡された。先生の友人の学位論文らしい。もっとも、ドイツ語だから肝心の内容は理解していないがな」

「私、ドイツ語少しなら理解できますよ?」

「えっ」

「翻訳、お手伝いしましょうか?」

この人、何を食べたらこんな優秀になれたんだ?

でも、この学位論文は直接的な表現が含まれているのか?アヤさんが翻訳の手伝いをしてしまったら、肝心のイマジナリーフレンド消失作戦が勘づかれてしまうのでは?っていうか学位論文ってなんだ?

「秋人さん?」

アヤさんは可愛い上目遣いで僕を見つめる。この可愛さで僕の思考回路は短絡した。

「えと、お、お願いします」

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