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Noch ungestimmt -調律前の2人-  作者: 梨/なし/ナシ
I. ― Scherzo innocente
10/13

第9話 自己紹介!

 お昼休みが終わり、四限目。ケイラとアルベルトはどこか疲れ果てた様子で僕達と合流した。

 四限目:芸術科目2(弦楽器)

「「「「ようこそ!弦楽器クラスへ!」」」」

 すごく賑やかな上級生たちが僕たち新入生を歓迎してくれた。賑やかな上級生集団の中から1人、女子が歩いてきた。

「今年の新入生も皆んな真面目君だなー、今日は歓迎会だよ?楽器いらないよ?ふざけてんの?殴るよ?」

 圧が強い。

「ちょ、殴るって…新入生にそんなこと言ったらダメでしょ…」

「いや、これくらいしないと私舐められちゃうの!リスペクトが欲しいのリスペクト!」

 めんどくさそうな人だな。上級生になったらあんなふうにはならないようにしよう。


「ふふっ、めんどくさそうな上級生ですね」

「ああ、そうだなーってアヤさん?どうしてここに?これ、弦楽器クラスですよ?指揮科のアヤさんは…」

「このクラスは弦楽器クラス兼指揮科実技。フルオーケストラのクラスにも入ってますよ!ちゃんと指揮できるようになると、このオーケストラで練習させてくれるそうです!といっても、最初のセメスターは実技というより雑業がメインだと思いますけどね。まだ指揮のしの字も習ってませんし」

「あ、へー。アヤさんの指揮、楽しみだなぁ」

「そ、そんなに期待しないでくださいよ?恥ずかしいですし…」

 アヤさんは頬を赤らめる。かわいい。

「うんうん、何言ってるのかわかんないけどイチャついてるのは理解した」

 先程の上級生がいつの間にか僕達の背後に立っていた。

「君たちちゃんと話聴いてた?」

「すみません、ちょっと無意識に無視してました」

「おお、ひどいね。まあいいよ。まだ何も始まってないし。そうだな。。。

 皆ー!とりあえず各学年お互いに自己紹介してもらうから、君たち新入生はスミス先生のオフィスの角に行ってねー。ちゃんと親睦を深めるんだよ?これから君たちは四年間!一緒にこのオケを楽しむんだから」


 ーーー


『…』

 気まずい沈黙が部屋の一角を埋める。自己紹介というのはコミュ力最強の人たちが2,3人ほど集まって成り立つものだ。そして、弦楽器演奏者はコミュ力最強の対義語と言っても過言ではない。このまま数時間立っても、誰も口を開くことはないだろう。しかも、僕達は新入生だ。つい最近まで中学校という小さな島に住んでいたのに、とある日突然でけえ大陸に放り込まれた身だ。自分の心配をするので手一杯なんだよこっちは!

「うわっ、今年も静かだなー」

 沈黙を割ったのは先生だった。

「お前らそんなオドオドしてんじゃないよ、これは単なる自己紹介だ。名前、楽器、好きな曲とその理由。それだけで大体は会話が弾む」

『…』

 僕達は沈黙したまま。


「仕方ないな、私から時計回りに始めよう。私はライアン・スミス。今年で42になったかな。この四季校オーケストラの指揮者で、好きな曲はリヒャルト・シュトラウスの『死と変容』。異論は認めない。だれか質問ある人?」

 異論も質問も無いようだ。


「それじゃ、次。君!」

 隣に座っていた女子がビクッとする。

「はい、たって自己紹介!」

 平均身長でものすごく細い女子が席からたった。整った顔、綺麗な金髪、眩しい白い肌、細く長い指。まるで人形そのものだった。隣でクレアが小声で驚愕の声を出しているのが聞こえた。

「はじめ、まして。オリビア、エマリー、です。バイオリン弾いてます。えっと、好きな曲…好きな曲…ぱっと思い浮かんだのはコダーイ・ゾルターンのガランタ舞曲ですね」

「うおっ、面白いチョイスだね。ガランタ選んだ理由は?」

「まあ、最近よく聞いてて、クラリネットのソロが、好きだから…」

「ははっ、ガランタといえばクラリネットだよね。まだ聴いてことない人たちがいるなら、絶対一回聴いてみると良い。ジプシーや民謡局がふんだんに使われた、とても楽しい曲だ。そしてとてつもなく難しい。それじゃあ、次!」


 今度はすげえ筋肉ムキムキの白人系のイケメン男子がたった。背も高い。羨ましいなクソ。

「あ、はじめまして!ガブリエル・ウッド、ガブリエルって読んでね!バイオリンで、好きな曲はーチャイコフスキーのピアノコンチェルト一番!とにかく冒頭が大好きなんだ!」

「無難だが、チャイコフスキーといえばの音が濃密に詰め込まれた良い曲だね!次!」


「あ、私か。はじめまして、クレア・ジョンソンです。バイオリンで、好きな曲は、ラフマニノフの交響曲二番、かな。三楽章の美しさと、四楽章の全部詰め込んだ感じが大好き!」

「ラフマニノフ、良いね。私は交響曲二番だと、二楽章のホルンが大好きかな。この曲は生で聞いたことある?」

「まだないですね」

「チャンスがあったらぜひ行くべきだ。ホルンが弾くたびに頭蓋骨が振動するのを感じられてとっても楽しい。次!」


「はじめまして、アルベルト・リッチーです。チェロです。好きな曲はシュトラウスのドン・キホーテです。」

「チェロのソロが有名なやつだね。弾いたことは?」

「無いです、流石に。いつかオーケストラと弾くのが夢ですけど、まだまだ先になりそうですね。」

「そうか。うむ。次!」


「はい、はじめまして、ケイラ・スーです。ビオラです。好きな曲は、ショスタコーヴィチのビオラソナタです!」

「あの人、ビオラソナタ書いてたの?」

「はい、彼が生涯最後に作曲した曲です。重くてある意味すごくグロい曲です。聴いてみるとよいですよ!最後の楽章では15の交響曲全部モチーフにしてて、なかなか興味深いものです。」

「少し調べてみるよ、興味が湧いてきた。次!」


「あ、あ、アヤ・北颪、です。指揮科です、えと、好きな曲は、ブルックナーの9番、です。」

「面白い。理由は?」

「三楽章の、美しいメロディが大好きで、あの、未完成というのも、すごく、面白くて。二楽章の楽しいシュケルツォも、大好きです。」

「私も、ブルックナー交響曲の中だと9番が一番好きだな。彼の弦楽器の使い方が本当に素晴らしいんだ。次!」


「はじめまして、秋人・鶺鴒です。バイオリンです。好きな曲はシュトラウスの4つの最後の歌、ですかね。とにかく華麗で美しくて、僕はほぼ毎日聴いています。」

「大賛成だ。次!」


 隣に立っていたのは小柄な女子。髪は巻いていて、なんというか、ロリ味が出ている。

「こんにちは、グレイ・グリーンです。バイオリンを弾いてます。好きな曲は、バルトーク管弦楽のための協奏曲ですね。四楽章がすごく面白くて、お気に入りです。」

「あー、ショスタコーヴィチの七番をバカにしているやつだね。その協奏曲自体も、なかなかバルトーク味が出ていて面白いよな。次!」


 次に立ったのはこれまたムキムキな高身長の男性。とにかくでかい。

「はじめまして!マシュー・プライスです!チェロ弾いてます。好きな曲はー、えーと、ドヴォルザークの新世界、ですね。二楽章の、弦のトリオのとこを弾くのが夢です!」

「あそこは、良いよね。どんどん演奏者が減って、最終的にはバイオリン、ビオラ、チェロのソロになる。これほど美しい場面が出会ったことがない。次!」


 また、高身長の男性が来た。しかし、今回はすごく細い。モデル体型みたいな感じだ。ドイツ系なのかな。

「どうも、フィリックス・テイラーです。ビオラ弾いてます。最近よく聞いているのはブラームスの二番ですね。特に第1楽章、ビオラとチェロが調和するところは、本当に美しいと思います」

「ブラームス自身もビオリストだったからね。自分の楽器をどうにかして引き出したかったのだろう。次!」


 勢いよく立ち上がったのは金髪の女子。背は低いが、声はでかい。

「やっほー!!ローラ・グレイです!グレイちゃんと被っちゃうから、ローラって呼んでね!チェロ弾いてまーす!好きな曲は、えっとー、ショスタコーヴィチの交響曲十番!力強くてハッピーな曲、あたし大好き!」

「そうだな、ショスタコーヴィチ十番はレーニンの死後に書かれた曲だから、ショスタコーヴィチにしてはとても明るい曲だ。機会があったら君たちにショスタコーヴィチのレクチャーをしてやりたいな。次!」


 ローラさんに呆気を取られたのか、次の人は立ち上がるのに少し時間がかかった。のっそりと立ち上がった彼は、とにかくデカかった。

「どうも、ヴィンセント・ルークです。ベースを弾いてます。好きな曲は、マーラーの五番、第四楽章。あれを超える曲は、今後でないと思っています。弦とハープだけであれほどの重さ、美しさ、本当に、素晴らしい曲です」

「君にも、大賛成だ。その第四楽章も、最初は一つの独立した曲だったらしいな。交響曲五番の作曲中に、マーラー本人が四楽章に詰め込んだ、と言われている。次!」


 また、勢いよく立ち上がったのは金髪の男子。背は高いし、声もでかい。

「やっほー!!リアム・グレイです!ローラの双子の兄です!ビオラ弾いてまーす!好きな曲は、グラズノフの四季!あんまり知られてない曲だよ、とにかく高級そうな重厚音が50分間ずっと続く、素晴らしい曲だよ!」

「グラズノフかー、あんまり存じ上げないな。今度聴いてみることにするよ。次!最後!」


「はじめまして、セレーナ・ブラウン、です。チェロを弾いてます。好きな曲、ストラヴィンスキーの春の祭典、かな。聴いてて落ち着く」

「落ち着く…のか?まあ、これで全員だな。良し!みんな、これから四年間、ズッ友になるんだぞ?楽しみか?」

『…』

「ちょっと、沈黙に戻るなよ、気まずいじゃないか。ほら、もっと何か話してみないと。このまま静かなまま四年が終わると、私もなくぞ?お互い質問とか無いか?」


ローラさんが手を挙げる。

「じゃあ、あたし質問!あのね、アヤちゃん?だっけ?」

アヤさんが少し驚く。そして僕に隠れる。

「は、はい…?」

「髪!サラサラ!ねえ、シャンプー、何使ってるの?」

この人、さらっとキモい質問をしたぞ。

「ちょ、ローラ、その質問は流石にキモいよ…」

リアムが止めに入る。良かった、兄はまともだな。

「え?キモい?なんで?あたしって可愛いじゃん」

「いや、俺のほうが可愛いから。それに、質問のしかたも一方的で良くない。アヤちゃん、ごめんね?ローラはデリカシー皆無だから。こういう質問されたときは無視でいいよ無視で」

「えー、無視はひどいよー、あたし泣いちゃう!」

アヤさんは少し戸惑いながら口を開ける。

「あ、えと、無視は、しませんよ?私に興味持ってくれるの、嬉しいですし」

ローラさんの目が輝き、アヤさんに一気に近づく。

「え、やだ、ちょっと、この子可愛い!ねえ、彼氏さん、恵まれてるねー。秋人?だっけ?ちゃんと大事にしてやらなきゃだよ。それで、アヤちゃん、シャンプーは?ていうかスキンケアどうしてるのッキャーお肌プルプル!!」

「いや、僕、彼氏じゃ…」

グレイさんとオリビアさんが割って入る。

「わ、私も、気になってる。洋服、どこで買ったの?」

「顔可愛い、まつげ長い、指細い、綺麗…家においておきたいです…」

「え、だよねだよね、秋人、アヤちゃん借りていい?」

答える暇もなくアヤさんが三人に攫われる。

「うえへへ、私もアヤちゃんで好き放題したいなぁ。混ざってこよ」

「あ、ちょっ、クレア」

そう言ってクレアとケイラもローラさんとグレイさんに加わる。仲間はずれになったかと思ってたセレーナさんは黙々とアヤさんの写真撮影をしている。女子組の中心にいるアヤさん。どこか満更でもなさそうな表情しているのは気のせいか?


「いやぁ、秋人くん、ごめんね?うちのローラが彼女さん取っちゃって。」

女子組から外れたリアムが謝ってくる。

「いや、そもそも僕達付き合ってないから、気にしなくていいよ。それに、アヤさんが楽しんでるようね何よりだ。」

「付き合ってない?あの距離感で?」

ガブリエルが驚愕の声を上げる。

「わ、悪い。あまりにもいちゃついてるし距離感近いから、てっきり恋仲なのかと。」

「あ、俺もそれ気になってた。」

フィリックスも加わった。

「え、待って、まだ一日目だよ?そんな限られた情報で決めつけちゃうの?早くない?」

ヴィンセントが静かに言う。

「初対面のお前にこういうことはあまり言いたくない。だが、言わないと俺を含む数々の男が許さない」

彼は僕の肩に手をそっと乗せて言う。

「死刑」

「あ、ははっ」

初日で死刑判決。この学校、厳しすぎやしませんか?


「「おうっ!」」

突如、後ろから二人組の男の声がした。アルベルトとマシューだった。

「急に大声出すなよ、チビッたじゃねえか」

ガブリエルが反応する。

「それで、何事?」

「いや、俺らその会話の輪に入れなかった同士でゲーム対戦してたんだよ」

「ゲーム?」


「トラスタ。やってる?」


途端、場の空気が凍る。カラーからモノクロに変わる。劇画調に変わる。アスペクト比が16:9から4:3に変わる。

新入生男子全員が携帯を取り出し、フレンド申請を済ませる。


「1戦、やろうや」

リアムが言う。

「ああ、俺が勝つけど、良いか?」

フィリックスが応える。

「寝言は寝て言え、ボケナス」

ガブリエルが挑発する。

「はっ、お前こそ、現実の筋肉じゃあゲームでは勝てねえんだよ。それともその筋肉はBluetooth接続できるのかな?」

ヴィンセントが煽る。

「それを言うならお前も、身長だけじゃなんにもならんぞ?」

リアムが対抗する。

「お前ら黙って部屋入れ。そしてつまらんことで喧嘩すんな!」

マシューが一喝入れる。

「どうせ勝つのは俺だからな」


ーーー

Trial Strike、通称トラスタ。最大12人対戦ができるシンプルで緩いサードパーソン・シューティングゲーム。様々なゲームモードがあり、今回我々が遊ぶのはシンプルなバトルロイヤル。最後に生き残っていたものが勝つ。

ーーー


僕達男子七人は円になって床に座る。隣に座ってるゲームホストのマシューに聞く。

「CPU無しだよな?」

「もちろん。あんなん歩くアイテムボックスでしか無いから。」

「マップは?」

「とりあえず工場にした。」

僕に向かって座ってるリアムが文句を垂らす。

「えっ、工場?まじかよ俺そこいちばん苦手なんだけど」

「苦手がある時点でお前の負けだな」

ガブリエルが誇らしげに言う。

「そろそろ始めるぞー、全員入ってるな?」

「「もちろん」」


ーーー数分後

「うわっ、お前らよっわ。弱すぎて引くわ。え、ゲームルール理解してる?銃って相手攻撃するためにあるんだよ?えっ、弱くない?流石に弱者すぎるんだけど。もしかして、みんな緊張してる?そりゃするよねー、高校初日だもんね、怖いもんね。」

最終的な結果はガブリエルの圧勝。ゲームが始まった瞬間全員ヘッショを食らってご愁傷さまだった。

「あーあ、このゲーム楽しい。ねえ、もう一戦しよ?今度は手加減してあげるからさ?ね?あ、でももしかしたら手が滑っちゃって皆倒しちゃうかもだけどね。まあ、もう一戦、しようよ。」

「「死んでもするか!」」


「お前ら、盛り上がってるな」

クレアが僕に携帯を渡す。

「今さ、フレッシュマンのグルチャ作ってて、皆電話番号入れてね」

「あ、了解」

全員が番号を入れ終わると、僕の携帯に着信が来た。


ーーー

ローラ:四季校同級生、これからよろしくね!

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