第7話 Streichquartett Nr. 3 B-Dur op. 67
学校二日目。今日から本格的に授業が始まる。
「秋人さん、一限目はなんですか?」
「僕は音楽理論。アヤさんは?」
「よかった、私もです!」
僕とアヤさんは学校の玄関で話す。
「教室、何階にあるのでしょうか」
「番号が802だったから、多分八階じゃないかな」
「八階…エレベーターって、使えましたっけ」
「残念ながら、エレベーターはでかい楽器専用。指揮棒のアヤさんとバイオリンの僕は、階段だ」
アヤさんは絶望の表情を浮かべる。顔には出していないが、内心僕も同じ表情をしている。無理だ。死ぬ。
二人でどうにか八階に登り、教室に入る。教室が階段のすぐとなりで良かった。
一限目:音楽理論。
教室に入ると、クレア、アルベルト、ケイラの三人を見つけた。アルベルトと同じクラスがあるのはとてもうれしい。中学時代は、音楽以外全部違ったんだぞ?
アルベルトと喜びを分かち合っていると、ドアが開いた。
「遅れてすみません。はじめまして!音楽理論を担当します、チルドレスです!」
話し始めたのは背が低めの女性の先生だった。
「今日は特に勉強の予定はないけど、まあ、私の自己紹介と、授業の説明かな」
チルドレス先生はプロジェクターにパソコンを繋げ、授業解説を始めた。
「音楽科に入学した皆さんは、音楽理論を三年、音楽歴史を一年が必修科目です。そして、どれも私が教えているので、これから四年間、ほぼ毎日私と会うことになるます。仲良くしましょう。
今回の音楽理論1では、基礎を学びます。スケール、キー、和音の基礎、ダイアトニックコードを主に学んでもらいます。パッと見難しいけど、結構コツ掴めば簡単だから、気楽にね。今んとこ質問ある?」
沈黙
「うむよろしい。あ、そうだそうだ。ごめんみんな、前言撤回、今日やっぱちょっとだけ勉強するわ。」
チルドレス先生は焦りながらプリントを渡す。
「テスト!15分!ちょっとみんなどれくらい基礎を理解してるか、クラスのレベルを把握するためのやつ。別にわかんなかたっら空欄でいいよ。成績には入らないから」
周りがぼつぼつ文句を言って、テストが始まる。
*
「秋人さん、テスト、どうでしたか?」
「まあ、8割はわかったかな。コード進行だけ苦手なんだよ…歴史は全然わかったけどな」
「そうでしたか。私は6割くらいでした…少し、音楽歴史が弱いかもですね。音楽理論は問題ないと思いますが…」
「はは、正反対だな」
「そうですね。ところで、秋人さん、二限目は何だったんですか?」
「僕は―数学…」
「奇遇ですね!私も同じです!」
クレアはぬっと僕の背後から現れてきた。
「あれ、アヤちゃんたちもアルジェブラ?やった!次も同じだね!」
2限目:数学(アルジェブラ2)
「はい、席ついて。どこでもいいよー」
ガラガラな声を教室中に響かせながら、中年男性が言う
「えっと、よろしくお願いします。ヘルナンデスです。このクラスは―アルジェブラ2だね。そうかそうか」
先生は何か唸り声をあげながらプリントを配る。授業説明、カリキュラム、単元が事細かに書かれていたものだった。
「めんどくさっ」
クレアはつぶやく。僕も同感だ。こんな細かく書いてくる先生、外れに違いない…
そう思っていると、アヤさんがとある指摘をする。
「秋人さん、クレア、ここ…」
アヤさんが指さしたところを読んでみると、これはびっくり。
『宿題:ありません。不必要だと思うからです。皆さんは各々の芸術に集中してください。
テスト:納得がいく点数まで間違い直し可能。しかし、追加で問題の解説を書く』
あ、あ、あ、あたりだ!!!!
僕はクレアと熱い握手を交わし、授業は終わる。
*
「よし、秋人、三限目行くよ!」
クレアは僕の背中に腕を回す。怖い。
「え、なんで僕?」
「あれ?次、芸術科目1でしょ?室内楽だよ」
「ああ、そっか。10階だっけ?めんどくせえ」
後ろからアヤさんのオドオドを感じ取る。
「あ、アヤさんは次の教室、わかる?」
「はい、おそらく、指揮の授業かと…おそらく先生と個人レッスンですかね。少し緊張してます」
「うひゃー、先生って、多分あのスミス先生でしょ?厳しそー。アヤちゃん、頑張ってね!」
クレアはアヤに励ましの言葉をあげる。
「よし、それじゃ、秋人、私たちも教室行こうか」
そして僕はクレアに引っ張られて階段を昇った。
三限目:芸術科目1(室内楽)
どうやらこの学校では「芸術科目」という授業が三つあり、どれも少し長めになっている。通常授業が45分で、芸術科目が一時間半だっけか。
「よし、全員集まってるなー。とりあえず、今日は曲決めと譜読み。一か月後の演奏会に備えるように。じゃ、解散!」
出席を確認されると、僕たちは各自リハーサル部屋を割り当てられた。
*
「ねえ、質問を一つ、していいかな」
クレアはリハーサル部屋に入って最初に聞いた。
「一か月後の演奏会って…なに?」
どうやら彼女は、学校入学前に何百通も来ていたメールを一切読んでいなかったようだ。
「四季校音楽祭。今日から一か月後の九月二十八日に行われるの。半日中音楽で埋め尽くされてて、吹奏楽、オーケストラ、ピアノ、室内楽とかいろいろ演奏してるの。それに向けて、一曲完成させろってこと」
「ええ、聞いてないよ。そういうのあったら早くいって?」
「クレア、メールはちゃんと確認しとけよ」
「そんなんだから中二の時も―」
「その話は!忘れよう!ね!」
クレアは顔を真っ赤にして立ち上がって僕の言葉を遮った。
ケイラは話を戻す。
「それで、次の曲、どうしようか」
「ベートーヴェン?」
とアルベルト。
「いや、ベートーヴェンはもう三つやったでしょ?今度こそブラームスを」
クレアは反抗する。
「えー、ブラームスやるくらいならバルトークやりたい…」
そして僕も、反抗する。
ケイラはため息をつき、言う。
「とりあえず、ここに今まで弾いた曲をまとめたから、ここに書いてあるやつ以外をお願いね」
ケイラはタブレットを僕達に向けた。そこには可愛い字で我々の曲リストが書いていた。
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―シュテルンクラングカルテット、曲リスト―
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第4番 ハ短調 作品18-4
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第7番 ヘ長調 作品59-1《ラズモフスキー第1番》
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調 K.465《不協和音》
モーツァルト:弦楽四重奏曲 第16番 変ホ長調 K.428
ボロディン:弦楽四重奏曲 第2番 ニ長調
プロコフィエフ:弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 作品92
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第6番 ヘ短調 作品80
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 作品96《アメリカ》
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「こうしてみると、結構弾いてるな…」
「悩ましい、全体的に見てみると、秋人の言うバルトークも悪くないかも…」
「何気にハイドンをまだ弾いていないな…」
「いや、でも、シューマンとかシューベルトも捨てがたい…」
四人して悩んでいると、突然扉が開き、超低い声が脳内で響く。
「ブラームスを弾いてみなよ」
『!?』
全員ビビる。声をかけてきたのは指揮者のスミス先生。あれ?今はアヤさんとの授業じゃ…
「驚かせてすまないね。今、指揮の生徒に音楽を聞かせているから、挨拶がてら、各グループの様子を伺っているんだ。」
スミス先生はニコニコ笑って近づいてくる。
「それで、君たちの曲決めの会話が聞こえてね。失礼ながら、全部聞かせてもらった!そしてリストも少しチラ見した。チラ見したうえで、もう一度言おう」
スミス先生はどこからか楽譜を取り出し、僕に渡した。
「ブラームスを弾こう!」
スミス先生が渡したのはブラームス:弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 作品67。あまり有名ではないが、ブラームスの作曲した最後の弦楽四重奏であり、僕が思うにとても濃密で美しく、楽しい曲だ。
「一度譜読みしてみるといい。君たちにとても合う曲だと思うし、それに…」
スミス先生は少し止まる。
「いや、なんでもない。まあ、ともかく、一度グループ全員で聴いてみて!楽しいし、なによりビオラのソロがたくさんある!」
そういうと、スミス先生は部屋を退室した。
僕らは少し沈黙してからお互いを見て、楽器を取り出す。
*
―ブラームスとは?by秋人―
僕はホワイトボードに書く。アヤさんは小さく拍手をする。
「ブラームスさんは有名ですね!ハンガリアマーチ五番とか、悲劇的序曲とかはよく聞きます!あと、ブラームスさんの四つの交響曲とかも、とても素晴らしいですね」
「うん。アヤさん、すでにブラームスを聴いているとは、とても嬉しい。ブラームスを聴いた時の第一印象はどうだった?」
「そうですね。とにかく、音が分厚くて、濃厚です。肉汁たっぷりで程よく硬いようなステーキですね。美味しいです」
「うむ、美味しい。ブラームスはとにかく音の高級さと濃厚さで知られている。そして、それを可能にするには、演奏者はとにかく重く、どっしり弾く必要がある。交響曲三番とかはすごく良い例だね」
スピーカーから音楽を流す。音圧がすごい。
「この最初のイントロから、すでに濃厚でジューシー。もう、音が強すぎて普通にスピーカーが破裂しそうなくらいだよ。オーケストラはこの音を出すために、とにかくホール全体を自分で音で埋めるように弾く必要がある。隙間がないように、満遍なく、太く」
「でも、それだと音がデカくなりすぎちゃいません?」
「デカく弾くのと、太く弾くのには違いがあるんだ。少なくとも弦では、ビブラートをたくさんかけて音の濃密さを増したり、できるだけ弓を滑らかにしたり。とにかっく、音が止まらず、美味しいままずっと繋がるようにしたいんだ」
「なるほど」
「そして、さっきも少し触れたけど、弦もビブラートもすごく大事。とにかくビブラートをかけまくるんだ。音がずっと歌うように。重くするために。ブラームスは、聴く側も弾く側も胃もたれ寸前まで濃厚にしなければならない」
「ブラームスはとにかく太く、デカくってことですね」
「うん。でも、例外もある。ブラームスの弦楽四重奏やバイオリン協奏曲では軽めな楽章がある。でも、これはあくまでブラームス基準で軽めなだけで、モーツァルトのような軽さで弾くと痛い目を見てしまう」
「それらの曲は、なぜ他と比べて軽いんでしょうか?」
「いくつかの理由があるけど、弦がメインっていうのと、スタカット、短めに、跳ねるように弾く曲調だから、かもね。こればかり作曲者の気分次第だ」
「作曲者の気分…それも、曲を弾くにあたって考えなければいけないことなんですか?」
「もちろん!特にブラームスは、気持ちの上げ下げが激しくてね。曲にはさまざまな感情がこもっている。それに、作曲タイミングも考えるべきことだね。例えば、彼の最初の交響曲。ブラームス交響曲一番。これは彼が何歳の頃に作曲したか知ってる?」
「そうですね。20代前半…でしょうか?有名な作曲者は皆、若い頃から作曲をしているようなイメージを持っているので」
「不正解!これが実は、ブラームスが43代の頃に作曲されたものなんだ」
「43歳!?すごいおじさん…ですね」
「驚きだろう?それで、なんでこんな遅くに作曲したと思う?」
「やる気がわかなかった、とか、オーケストラの作曲経験が少なかった、とかですか?」
「違うかな。オーケストラの作曲経験が少ないって言うのは本当だけどね。実際、交響曲一番はブラームス最初のオーケストラ曲だ。でも、僕が思うに、ブラームスがこの年まで交響曲を作曲しなかったのは、もっと、外的な要因があったんだと思う。それも、結構偉大な要因」
「偉大?」
「ブラームスの前の作曲者を考えてみろ」
「モーツァルト、ハイドンですか?」
「前すぎる。ちょうど中間点くらい」
「あ!ベートーヴェンですね?」
「そう!ベートーヴェン第九。ブラームスの世代はちょうどベートーヴェンで大盛り上がりでね。もう、これ以上良い曲は出ないだろう、ベートーヴェン以上の作曲者はもう来ないだろうって言われてたくらいだ。それで、多分、プレッシャーを感じていたんじゃないかな。ベートーヴェンと自分の曲が比べられてしまう、そんな公開処刑状態に」
「この時代、交響曲を作曲する人は、少なかったんですね」
「そう。みんな諦めちゃったの。でも、ブラームスはおよそ20年かけてこの交響曲一番を完成させた。そして、それが大成功だった。ブラームスは43という熟成しきった年齢で交響曲を書いたせいか、モーツァルトやベートーヴェンのような有名作曲者の交響曲一番と違って、とにかく音楽として落ち着きがあったんだ」
「年齢がプラスに働いたんですね」
「そう。そして、ブラームスはベートーヴェンからの影響もたくさん受けてきたとされてる。ブラームス交響曲一番が「ベートーヴェン10番」って呼ばれるくらいだ。」
「すごい、名誉なことですね」
「ああ。ブラームスもきっと喜んでいたさ。
まあ、そんな感じでブラームスの心情は音楽に多大な影響を与えている。交響曲二番も母親がなくなった直後に作曲してるからか、一楽章に子守唄が入っていたり、失恋を曲にしたり。色々調べてみるのも面白いかもよ」
「そうですね!気になり次第、頑張ってみます!」
―補足―
ブラームスのように、気持ちや私情を色々詰めて作曲していた時代は、『ロマン派』と呼ばれている。他にも、チャイコフスキー、シュトラウス、シューベルト、シューマンなどがいる。
ロマン派の特徴は、とにかく感情がこもっていて、音が分厚い。濃厚。
*
「とりあえず、みんなで曲を聴いてみよう」
ケイラは総譜を取り出し、曲をかける。
第1楽章―Vivace
静かな始まりから、二小節間、セカンドバイオリンとビオラが舞い始める。その音は小さく、でも確実に動きながら進行する。セカンドバイオリンはメロディを奏で、ビオラはその下でゆったりと重厚な伴奏を提供する。動きの中には微細なアクセントが忍ばせてあり、三連符の3つ目に強調されたリズムが感じられる。静かながらも動きの中で弾むような力強さがあり、全体的に軽快な感じを持っている。その後、三小節目に入ると、四人全員が音を重ねて演奏を始める。音量が一気に増し、盛大に響き渡るメロディーが広がる。音楽が一度高まりを見せると、途端にセカンドバイオリンとビオラのデュエットに戻る。
その後、再び四人全員が音を合わせると、先ほどの盛大さが戻ってくる。強弱の対比を経て、音楽はまた静けさに包まれる。ここで再び、セカンドバイオリンとビオラが登場し、三対二のリズムでメロディを奏でる。セカンドバイオリンは3/4拍子でメロディをしなやかに進行させ、ビオラは6/8拍子でリズムを刻む。まるで二つの異なるリズムが絡み合いながらも、調和を保っているようだ。この瞬間、二つのリズムの融合が音楽に独特の躍動感を与え、さらにその微妙なズレが視覚的にすら感じられるような感覚を観客にもたらす。
「ひえー、ここ合わせるの大変そう」
クレアが言う。
「この曲では3対2のメロディがすごく多いから、とにかく同じ拍を取ることが大事だね」
ケイラが応える。彼女はどんな曲も、リズムが複雑でも、全員が共通の拍を保つことこそが最も重要だと考えている。
「僕はそっちより、バランスと対比の方が難しいと思うな」
アルベルトが言う。彼はあまりリズムではなく、どちらかと言えば曲のダイナミクスやアンサンブル内でのバランス、さらにメロディと伴奏の対比に注目しているようだ。音楽の進行に合わせた力の入れ具合や、どこで音量を抑えてどこで力強くするかという感覚が特に難しいと感じているのだろう。
「たしかに。ピアノからすぐフォルテ、からの形付けがやべえくらい多い…」
ケイラも頷きながら、その点について同意する。この楽章には、音量の急激な変化が多く、ピアノから一気にフォルテに持っていく瞬間が頻繁に登場する。それが、ただ音を大きくするだけでなく、その後にどれほどスムーズに次の段階に持っていけるかが重要なポイントになってくる。
音楽はさらに進み、速弾きのセクションが終わると、また拍子記号が変更される。今度は、全員が2/4拍子に移行し、跳ねるような軽快な音をポコポコと鳴らす。この瞬間、楽器たちが互いに音を跳ねさせるように軽やかな音の交歓を繰り広げ、演奏者たちも楽しげな表情を浮かべる。リズムに乗って、音楽は一気に明るく、活発な雰囲気を帯びる。
「3から2に移動する時、変に凸凹しちゃうと観客に不思議な感覚じゃなくて不快感を与えてしまうかもね」
クレアが真剣な表情で指摘する。リズムの移行をスムーズにしないと、観客が途中で違和感を覚えてしまうことを心配しているのだろう。
「気がついたら2/4に変わってるみたいな感じだね」
ケイラが言う。確かに、拍子が変わる瞬間があまりにも自然で、気がついたらもう2/4拍子に切り替わっているような感覚になることが理想だ。その感覚を出すには、演奏者全員の呼吸を合わせ、リズムが途切れなく流れるように演奏しなければならない。
2/4拍子のまま音楽は進み、展開部に突入する。冒頭の軽やかな部分から一転し、音楽は急激に変化を見せる。強く、重く、そして太い音が奏でられ、四つの楽器が交互にリズムを受け渡しながら進行する。各楽器が前に出ては引っ込むことを繰り返し、不協和音が意図的に感じられる。まるで、音楽が無理やり一つの大きな塊に押し込められ、そこから解き放たれようとするような不安定さが漂う。しかし、それが音楽に深みを与え、聴く者の心を捉えて離さない。
不協和音が少しずつ解消され、メロディは次第に滑らかな流れを取り戻す。音楽が落ち着きを取り戻したとき、部屋は一瞬の沈黙に包まれる。静寂の中で、次に何が来るのかを予感させるような、わずかな空気の変化が感じられる。
そして、再現部が始まる。音楽は再び最初のメロディに戻り、セカンドバイオリンとビオラが控えめにメロディを奏で、4人全員でそれに応える。音楽の流れは、冒頭の軽快さを思い出させるように、穏やかながらも確実に進んでいく。そして、コーダに差し掛かると、音楽の軽やかさが次第に豪華に、豪快になっていく。チェロとビオラは力強くリズミカルに奏で、バイオリンたちはその上を華麗に旋律を流す。まるで、先ほどの静かなメロディが一気に大きな舞台に引き上げられたかのようだ。
最後には、冒頭の掛け合いが再び登場し、その響きが大きく広がっていき、第一楽章は華々しく幕を閉じる。
ー
「良い曲だね!」
僕は言う。
「そりゃブラームスにハズレは無いでしょ」
アルベルトは答える。
「まあ、とりあえず1ヶ月後の演奏曲はこれで決定かな。今日は一楽章を譜読みして、次は二、三。来週には四楽章全部譜読みしてたいね」
ケイラはスケジュールに細かくメモを書き込んでる。細かいなー。てか字ちっちゃ。読めんのこれ。
バンッ!
扉が開き、スミス先生が乱入してくる。クレアは椅子から飛び出してケイラにしがみつく。
「やあ、一楽章を聴いてくれたようだね!」
「スミス先生、急に乱入してこないでください。心臓がもちません」
クレアが一言申し出る。
「それは申し訳ない。」
スミス先生は少し微笑むと続ける。
「先程の君たちの演奏曲リストを下に、こんなものを作ってみたんだ」
そう言うと、スミス先生は僕達に紙をわたしてくる。
『コンペティション、リスト?』
四人全員で首をかしげる。
「うむ。君たちの曲で応募できるコンペをリスト化してみた。正直、この年齢でこんなに四重奏を演奏しているのは非常に珍しくてね。私も張り切ってこんなの作っちゃったんだ」
スミス先生は自分のタブレットを取り出して説明を始める。
「これは私が思う、君たちにぴったりなコンペのリスト。賞金ありと賞金無しで区別されてて、課題曲も書いといた。あと、審査員の名前と経歴もちょっとまとめてある。締切も書いてある。これに目を通して、気になるものがあったら私に言ってくれ。応募金額はすべて私が負担しよう」
うおお。すごい、すごいぞ。
「秋人、見てみて!これ、クリストファー・ホッグ・コンペティション、優勝賞金一万ドル!すごい!」
「ミシェル・ウィリアム。コンペティションの審査員も、有名音楽校の先生たちが務めてる」
スミス先生は興奮している僕達を眺め、言う。
「喜んでくれて何より。じゃ、私はこれでお暇させてもらうよ。質問かなんかあったら教えてねー、多分どっかふわふわ飛んでるから。あ、秋人」
スミス先生は小声で僕に言う。
(お昼休み、少し、私のオフィスに来てくれ。お話がある)
そうして彼はぬるっと部屋を退出した。




