第99話 食事会1
サティエルたちの情報を得るため、侯爵が食事会を開いた。
侯爵ギャスパルの妻――エルネスタの母、リシュエンヌも同席している。
長いテーブルにはグラスが並べられ、好みの飲み物が注がれる。
緊張と静けさの混じる中、ギャスパルが口を開いた。
「今後のことを含め、少し話をしておきたいと思う。
戦での君たちの貢献に対する礼も兼ねてご馳走を用意した。
公式の場ではないから、気楽に話してくれて構わん」
前菜が運ばれ、軽い談笑が始まる。
少し場が和んだころ、ギャスパルはふと表情を引き締めた。
「サティエル嬢。――学園には年齢制限がある。
念のため、確認をさせてもらってもいいだろうか?」
「はい。確か今は……十三? 十四? くらいです」
「正確な年齢が必要でな。魔導具を使わせてもらうが、よろしいか?」
「はい」
使用人が運んできたのは、掌ほどの水晶球。
淡い光を宿すその球に、サティエルは素直に手を置く。
数秒後、球の中に浮かんだ数字――13。
「ほう……ほぼ見た目通りか。では学園の編入は問題なさそうだな」
ギャスパルはうなずき、続けて問いかけた。
「よくぞその若さで、それほどの知識と武術を身につけたものだ。
どこで学んだ?」
――さすがに、“自分がエルネスタ”だとは言えない。
サティエルは少し考えてから答えた。
「小さい頃、森で一緒に暮らしていた方々から教わりました」
「森で?」
「はい。理由はよくわかりませんが、人目を避けるように暮らしていました。
気功術の得意なおじいさんと、魔法の得意なおばあさんに育てられました」
「……ふむ。訳あり、というわけか」
ギャスパルは小さく頷く。
「して、なぜ今は傭兵団に?」
「育ててくださった方々が亡くなり、旅に出ました。
その途中で縁があり、黒鉄傭兵団にお世話になったのです。
一度離れましたが、ラップレリアで再び出会い、共に戦うことになりました」
「なるほど……」
先日の調査結果と矛盾はない。
――嘘はなさそうだ。
育ての者が一流で、この娘自身も天性の才を持つ。
……養子に迎えてもよいかもしれんな。
そんな思いを胸に秘めたとき、リシュエンヌが穏やかに口を開いた。
「うちのエルネスタにお世話になったと聞いたのだけれど……どこで会ったのかしら?」
サティエルは少しだけ間を置き、静かに答える。
「小さかったのでよく覚えていませんが……洞窟のような場所で、苦しんでいた私を気功術で助けてくれたのです」
リシュエンヌはすぐに思考を巡らせた。
エルネスタが亡くなったのは八年前。
この子が会ったのはそれ以前――つまり、五歳にも満たないころ。
小さな子供の記憶など曖昧なものだ。
それ以上、追及はしなかった。
「そう……そんなことがあったのね。
エルネスタによってこの家を助けに来てくれる方がいるなんて、うれしいわ。
でも……エルネスタは八年前に亡くなったの。あの第二王子のせいで――」
その言葉を口にし、リシュエンヌの顔が険しくなる。
ギャスパルが慌てて制した。
「おいおい、今はその話はやめておこう」
「あら、ごめんなさいね」
ちょうどそのとき、メイン料理の鹿肉のローストが運ばれてきた。
香ばしい匂いが広がる。
早速、サティエルたちも口をつける。
「これ、エルネスタも大好きだったのよ……」
リシュエンヌがそう呟いた瞬間――
サティエルの目から、ぽろりと涙がこぼれた。
「えっ、どうしたの? あなた?」
――泣くつもりなどなかった。
だが、父母と向き合い、母が今も“自分”を想ってくれていることを知った途端、胸が熱くなっていた。
懐かしい味が舌に広がり、抑えていた感情が堰を切ったように溢れ出す。
「どうしたの……? もしかして、エルネスタが亡くなったことを知らなかったのかしら?」
もちろん知っている。――本人なのだから。
だが、その事実を明かすわけにはいかない。
「いえ……うすうす、感づいていました。
でも、いつも天から見守ってくれていると思います」
「……そうだといいわね。良かったら今度エルネスタのお墓を参ってちょうだい」
リシュエンヌは微笑み、少し声の調子を和らげた。
「話題を変えましょう。あなた、お願い」




