第100話 食事会2
雰囲気を変えるためギャスパルが、話を変える。
「うむ。――実は皆のことをいろいろ調べさせてもらった。
セレネ殿、あなたはルーナ教の聖女のようだが、なぜ傭兵団に?」
セレネは姿勢を正し、落ち着いた声で答えた。
「ええ。モルキアのルーナ大神殿で奉仕する予定でしたが、ゲルデン軍の襲撃を受けました。
そのとき、このサティエルに救われたのです。
大神殿が壊滅してしまったので、サティエルたちの護衛でシュレスタインの大神殿を目指しましたが……そこも破壊されてしまい、今はこうして同行しています」
「……そういう事情なら、ここに滞在しても構いませんよ」
「ありがとうございます。でも、私はサティエルと共に行動したいと思っています」
「理由を聞いても?」
セレネは一瞬、視線を伏せた。
――ルーナ人であるとは言えない。正体を明かせば、面倒どころか危険もある。
「月はルーナ教と深い関係があります。
できることなら、私も月に行きたいのです。
そして――そのためには、私の知識も役に立つと信じています」
ギャスパルは感心したように頷く。
「なるほど、そういう背景があるのですか。では無理強いはできませんな」
話が一段落したところで、デザートが運ばれる。
甘い香りが漂う中、ギャスパルが最終確認をするように言った。
「さて、学園での皆の立場だが――セレネ殿はサティエルの侍女、シルヴィア殿は護衛ということでよろしいか?」
セレネとシルヴィアがうなずき、オフィーリアに視線を向ける。
ギャスパルが言葉を添えた。
「申し訳ない。オフィーリア殿はエルフィリア王国所属のようなので、こちらから正式な推薦は出せぬ」
オフィーリアは穏やかに微笑んだ。
「お気遣いありがとうございます。推薦は不要です。問題ございません」
「助かります。では、そのように手続きを進めよう」
サティエルは深く一礼した。
「よろしくお願いいたします」
* *
食事会が終わり、客人たちが部屋を去ったあと。
グランフェルト侯爵ギャスパルとその妻リシュエンヌは、静かな応接間で向かい合っていた。
窓の外には月が上り、白い光がテーブルを照らしている。
「どう感じた?――あのサティエルという娘を」
ギャスパルの問いに、リシュエンヌは少し考え込み、ゆっくりと答えた。
「どう見ても普通の娘じゃないわ。
あれで傭兵で、冒険者だなんて信じられない。
所作も礼儀も完璧に近い。……まるで、どこかの王族か王妃教育を受けたような仕上がり。
とても十三歳の子ができることではないわ。
でも、性格そのものは純粋で真っすぐ。そこだけは年相応に見えたわね」
ギャスパルは軽く頷き、資料を思い出すように目を細めた。
「そう言う評価か。……だが、武術でいえば“ガルターニュ十剣”クラス。
学力もリートス学園の三年に編入できるほどの実力らしい」
「本当に、何者なのかしらね。
それに――ときどき、どうしてもエルネスタを思い出してしまうの。
仕草というか、空気というか……どこか似ているのよ。
血のつながりがあるのかしら、なんて思うくらい」
「……ああ、確かに不思議な娘だ。
まるで、“彼女”が戻ってきたようでもある」
二人はしばらく言葉を失い、月明かりの中で静かに沈黙した。
外では夜警の足音だけが、遠くに響いていた。




