第95話 敗戦報告再び
ゲルデン帝国皇城。
分厚い石壁に囲まれた作戦室に足音が響く。
伝令が息を切らせて駆け込み、膝をついた。
「報告いたします!
ガルターニュ王国・グランフェルト侯爵領攻略部隊――壊滅。
ゴットヘルフ将軍、行方不明です!」
再びの敗報に室内の空気が一瞬で凍りついた。
卓上の地図に身を乗り出していた参謀たちが顔を上げ、ざわめく。
「……なんだと?」
中央に座る男――皇帝ダグラス二世が、鋭く問い返す。
「ディートリントに続き、今度はゴットヘルフまでもか?
こちらに敗因などあるはずがない。何が起こった?」
伝令は冷や汗を流しながら、報告を続けた。
「はっ。それが……ゴットヘルフ将軍率いる二万の部隊が駐留していた“シュネーの丘”が、突如として崩落。
軍の大半が巻き込まれ、消息を絶ちました」
「……崩落だと? 丘がか?」
ダグラス二世の低い声が響く。
「は、はい。詳細は不明ですが、現地調査の結果、丘の上部――およそ三分の一が崩れ落ちております。
ただし、その周辺にはグランフェルト軍が布陣しており、接近が難しく詳細はつかめておりません。
また、各地の監視哨からは“空に向かう光”が目撃されております。
何らかの大規模魔法、あるいは魔導兵器によるものと考えられます」
室内がざわめいた。
報告を聞いた参謀のひとりが顔をしかめ、地図を叩く。
「馬鹿な……あの丘を崩せるなど、神の所業だぞ!」
ダグラス二世は深く息を吐き、椅子の肘掛けを強く握った。
「グランフェルト軍に、そんな力が……?」
して、グランフェルト軍の様子は?」
「無傷です。しかし、余裕はないのかこちらに攻めてくる様子はありません」
「またも、一方的にこちらがやられただと。いったいどうなっている」
「それと、関連するかわかりませぬが、グランフェルトが例の『黒鉄傭兵団』なるもの雇い入れたとの情報があります」
「それを早く言え!またしても黒鉄傭兵団!いったい何者だ!」
皆、何も言えず沈黙が広がる。
ランプの灯りがゆらめき、戦況図の上に長い影を落とす。
やがて、皇帝は低く唸った。
「すまん。少し落ち着こう。……ガルターニュ攻略はたやすいと思っていたが、こうもうまくはいかんとはな。
我が軍も戦力を失いすぎた。――方針を変える必要がある」
その声には怒りだけでなく、わずかな焦燥と恐れが滲んでいた。
彼らはまだ知らない。
“丘を崩した少女”の存在を。そして、それが帝国の命運を左右するものであることを――。




