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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
リートス学園・指導と求知

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第91話 丘の上にいるので簡単です1

ガルターニュ王国とゲルデン帝国の国境にあるシュネーの丘。


冷たい風が吹き抜け、白い霧が低く流れるその丘に、二万のゲルデン軍が陣を張っていた。


その中央には、将軍ゴットヘルフ。

巨人と呼ばれる男――身の丈二メートル三十、フルプレートアーマーを身に着けながも軽々動く力の持ち主。


ゲルデン軍随一の猛将であり、力の象徴そのものだった。



対するは、ガルターニュ王国第一王子派の主力――グランフェルト家を中心とする一万五千の軍勢。


総大将は、エルネスタの叔父にあたるジェローム卿。


しかし、国内では王位継承をめぐって内乱の火種がくすぶり、かなり無理をして集めた軍勢である。


彼らに残された道は、短期決戦のみ。長引けば敗北は必至だった。



そんな折、陣中に朗報が届く。


――ラップレリア王国で、奇策を用い「爆炎のディート」率いるゲルデン軍を壊滅させた傭兵団が、味方として参戦するというのだ。


ジェローム以下、将兵はその到着を今か今かと待った。

やがて、夕暮れの薄明の中、黒鉄傭兵団が姿を現す。

人数は百名ほど。


だが、二万の軍を潰したという戦績を聞いていたため、誰もその少なさに落胆はしなかった。


むしろ、ざわりと静かな期待の気配が広がった。


先頭に立つのは、スキンヘッドの大男――見るからに歴戦の傭兵。

だが、その隣には、場違いにも見える貴族令嬢風の少女が連れ添っており、異様な存在感を放っていた。


「ようこそ、グランフェルト軍へ。あなた方が黒鉄傭兵団ですね」


ジェロームは礼を尽くし、手を差し出した。


「グランフェルト軍総大将、ジェロームです」


大男――ベルンハルトはその手を受け取る前に、ちらりと隣の少女を見て一歩退く。


「団長はこちらです」


サティエルは、思わず目を細めた。


余計なことを……。


しかしこの場で否定しても格好がつかない。

久々に叔父――ジェロームの顔をみたエルネスタの影響もあり、彼女はそのまま前へ出た。


「黒鉄傭兵団のサティエルです」


その名乗りに、周囲がざわめく。


少女が団長――?


あまりに傭兵らしくないその姿に、ジェロームも思わず息を呑んだ。

だが、凛とした立ち姿とその眼差しに、言葉にならない圧を感じる。


「まずは、報酬額を決めておきましょうか」


ジェロームが言うと、サティエルは首を振った。


「いえ、後で構いません」


「姫、終わってからでは報酬を減らされるぞ」


ベルンハルトの言葉に、サティエルは淡く微笑んだ。


「グランフェルト家の方々なら、働きに見合った報酬をくださるはずです。

――そうですよね、ジェローム様」


「……姫?」


ジェロームの眉がわずかに動いた。


姫――どこかの王侯貴族か? 確かに、この気配……ただ者ではない。

だが今は詮索している場合ではない。ひとまず話を進めることにした。


「もちろんです。この度はご助力、感謝いたします。ラップレリアでは見事な戦果を挙げられたとか。――ここの戦況をどう見ますか?」


「この戦場では、ゲルデン軍が丘の上にいるので簡単です」


「……簡単?」


ジェロームは思わず言葉を失った。


戦において丘を制する者が優位に立つ。それは常識中の常識。


報酬といい、戦術観といい、この少女は何を言っているのか――。

しかし、サティエルの目には、揺るぎない確信が宿っていた。


「それはどういう意味ですか?」


「私たちの方で、丘の一部を崩します。そうすれば、敵は壊滅的な打撃を受けるでしょう」


……丘を崩す?


何を言っているのか理解できない。

隣の大男までもが「そうなのか?」などと疑問を呈している。


しかし、団員たちの誰一人、反対をするものはいない。むしろ興味深そうにさえ見える。


ジェロームは短く息を吐き、うなずいた。


「……よかろう。明朝、我々は進軍する。その前に丘を崩し、敵の戦力を削ぐ。そういうことだな?」


「はい。明け方には崩します。危険なので、完全に崩れた後で動いてください」


「わかった。頼んだぞ、黒鉄傭兵団」

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