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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
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第88話 サティエル目で脅す

セベリアーノ国王はこのまま押し切ろうと、力のある声で続けざまに問いかけた。


「これに何か反論はあるか?」


サティエルが一歩前に出て、堂々と答える。

「ございます」


「ほう、一番若そうなお主が申すか。言ってみよ」


「我らは任務通り、町から離れた魔物を討伐したまでのこと。魔物が多くいたため、ゲルデン軍を利用したにすぎません」


エサイアス将軍が険しい目で問い詰める。

「では敵将ディートリントを討ったのはどう説明する!」


「たまたまです。彼女が攻撃してきたので、返り討ちにしました。反撃してはいけない規則など、ありませんよね?」


「たまたま倒せる相手ではない! しかも奴は魔族だったのだぞ!」


「それが何だというのです? 倒した事実は変わりません」


セベリアーノ国王が愉快そうに笑った。

「はははは。若き身で堂々たる答弁よ。普通ならエサイアスの迫力に怖気づくところだが」


「はい? 別に怖くはありませんが」


「なるほど……ただ者ではないな。エサイアス、この件、決闘で白黒つけるのはどうだ?」


「はっ。異存ございません」


「そちはどうだ? 勝てば軍法違反は不問とするぞ」


「負けたら?」

サティエルは負けるつもりはなかったが、相手の狙いを知ろうと問い返した。


「負けても報酬は与える。ただし、しばらくエサイアスのもとで修行せよ」


――やはりこちらを取り込みたいのか。


「わかりました」


決闘の場が整えられる。エサイアスが進み出て叫ぶ。

「結界を張る! 他の者は下がれ!」


オフィーリアが下がりながら声をかけた。

「本気は出さないでよ」


「うん。わかってる。本気を出したら城が壊れちゃうからね」


エサイアスが鼻で笑う。

「ははは、結界がある限り全力を出しても城は無事だ」


「……この程度の結界、簡単に壊せますけど」


「ほう、大言壮語で脅すつもりか?」


「事実ですけど」


ここで国王が面白そうに割って入る。

「ならば結界を破壊してみせよ。できれば軍法違反は帳消しにしてやろう」


セベリアーノもエサイアスも、結界が破られるなど有り得ぬと踏んでいた。

世界の常識では不可能なのだ。


サティエルはため息をつき、国王を正面から見据えた。


「……よろしいですか?」


ほんのわずかに殺気を放つと、王は一瞬ひるみながらも平静を装う。


「うむ」


サティエルは手を握り込み、魔力を凝縮させる。掌を結界へ向けて開いた。


「――プチアルティマータ」


閃光が走り、強固なはずの結界はあっさりと崩れ去った。



セベリアーノ国王は目を見開き、驚愕した。

――さきほどの視線は、いつでも私を殺せるという合図だったのか……。


勘違いである。ただの「面倒を押しつけるな」という抗議にすぎなかったのだが......。



エサイアス将軍も衝撃を受けた様子を見せたが、すぐに動く。瞬時にサティエルの前へ躍り出ると、他の護衛たちも国王の前に立ちふさがった。結界が消えた今、万が一の事態に備えたのだ。


「よい」国王が手を上げて制する。

「結界を壊せと言ったのは私だ。その気があるなら、先ほどの一撃で余を討つこともできたはずだ」


結界術師が慌てて新たな結界を張り直す。


「恐れ入った。貴殿の力を甘く見ていたようだ。まさか、この結界をいとも容易く砕くとは……。今の術、なんと申す?」


「秘密にございます」

――余計なことは言わない、とエルネスタが即座に判断した。


「ふむ……まあ、そうであろうな」


国王は咳払いひとつして、場を仕切り直した。

「では、軍法違反の件は不問と致す。それと、今回の報酬を受け取るがよい」


「ありがとうございます」


配下が差し出した金袋はずしりと重い。黒鉄傭兵団なら数年は安泰に暮らせるほどの大金だった。だが本来なら王国が費やすはずだった軍資金を思えば、安い支出である。


セベリアーノ国王はそこで言葉を続けた。

「それでだ。貴殿のその力、我が国のために使ってみる気はないか? 爵位を授けてもよい」


サティエルは国王をまっすぐ見返した。目にはっきりと「しつこい」と書いてある。

「やりたいことがありますので、お断りいたします」


「即答か……。よかろう。だが、それが終わってからでも遅くはない。気が向いたら訪ねてくるがよい」


国王はサティエルの視線に圧され、これ以上の勧誘は危険と判断し、引き下がるしかなかった。


「はい」


こうして、王との謁見は無事に幕を閉じた。

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