第78話 とある剣の修行風景
黒鉄傭兵団がシュレスタインへ向かう道中、サティエルはクスターを見つけて声をかけた。
「クスター、久しぶり。あれから剣と気功術、ちゃんと修行してた?」
不意に話しかけられたクスターは、なぜか彼女を直視できず、どぎまぎしながら答える。
「あ、ああ……」
「じゃあ、少し実力を見せてもらえる?」
自分の都合で黒鉄傭兵団を戦いに彼を巻き込む以上、サティエルは気になっていた。
「……わかった」
二人は木刀を構え合う。
「思い切りかかってきていいよ」
サティエルの言葉に従い、クスターは全力で斬りかかった。
サティエルは何度か剣を受け、その感触を確かめる。
――なるほど。気功の制御はかなり安定してきた。剣の振りも前よりは堂に入っている。まだまだ未熟だけど……弱い魔物くらいなら十分に渡り合える。
サティエルが軽く反撃すると、クスターはすぐに体勢を崩した。
「うーん、やっぱりまだまだかな。でも前よりずっとよくなってるよ。ちゃんと修行してたんだね」
そう言って、彼女は柔らかく微笑む。
「でも、戦場では無理はしないで。自分の身を大事にしてね」
クスターは視線を逸らしながら、短く答えた。
「ああ、わかってる」
そんなやり取りをしていると、それを眺めていたシルヴィアが歩み寄ってきた。
「サティエルって剣も使えるんだ。ねえ、ちょっと手合わせしてみない?」
彼女は軽く笑ってみせたが、その胸の奥では、あの時――刺客を取り逃がした悔しさが燻っていた。自分を鍛え直したいという思いが、彼女を突き動かしていた。
「えっ? いいけど……剣は昔習ったくらいで、それほど得意じゃないよ」
サティエルはそう答えた。
それは、昔の感覚のまま特に考えずにでた言葉だった。
エルネスタとして翠嵐流の剣を学び、学内でも一番の実力を誇っていたものの当時、騎士団には自分より強者がいくらでもいたからそう返事をした。
――けれど今は違う。サティシアの体はかつての体より優れ、さらに武神ジューベーから授かった気功術で、身体操作は飛躍的に高まっている。その事実を、本人はまだ十分に認識できていなかった。
「じゃあ、お願い」
シルヴィアは二剣を構える。
サティエルの体術は超一流。あのゲルデン最強と謳われた白き狼ヴォルフ隊長さえ倒した猛者だ。そう思いシルヴィアは遠慮なしに全力で挑む。
一瞬で間合いを詰め、二剣が嵐のように襲いかかる。
サティエルは受けに回りながら、その鋭い斬撃をいなし続けた。そして気づく。
――あれ? 剣でも柔気流の技術って応用できる……?
力を逃がす受け方、崩れにくい体のさばき……素手で培った感覚が、そのまま剣に乗せられる。
気づけば、以前よりもずっと戦いやすい。
「なるほど……」
彼女は一歩踏み込み、剣で受けながら崩し技を仕掛ける。シルヴィアの体勢が一瞬乱れる。その隙を突いて攻撃に転じた。
「……っ!」
シルヴィアは即座にもう一方の剣で受け止める。激しい打ち合いが続き二人の剣がぶつかり合う音が響いていた。
「おーい、出発するぞー!」
団員の声が響き、二人は同時に動きを止めた。
シルヴィアは息を整えながら、満足げに笑う。
「サティエル、剣も十分強いじゃない。まだまだ本気じゃなかったでしょ? これから、しばらく私の稽古に付き合ってよ」
「うん、いいよ。私も剣からはしばらく離れてたけど……今の戦いでいろいろ気づきがあって、面白かった」
二人は微笑み合った。
だが、その様子を見ていたクスターの胸中は複雑だった。
圧倒的な二人の攻防を目の当たりにし、自信を失いかける。けれど同時に――
もっと……もっと強くなりたい。
その思いが、これまで以上に強く芽生えるのだった。




