第76話 援軍
応答がしばらく途切れたので女王が口を挟んだ。
「そこのお嬢さんが直接答えてくれて構わん。遠慮はいらぬぞ」
それを聞いてサティエルがあっさりと口に出す。
「ありがとうございます。では、援軍を出してください」
オフィーリアは青ざめながら女王の顔色をうかがう。
「はははっ。そう来るか、面白い。だが援軍は出せぬ。
しかし、まだ雇っていない百人規模の傭兵団がおる。そいつらを紹介しよう。交渉してみればよい。
一か月分の雇用費は出してやる」
「わかりました」
女王は補佐官へと顔を向けた。
「確か、わが軍に加わりたいという傭兵団の団長を待たせていたな。ここへ連れてこい」
「かしこまりました」
先ほど援軍要請を断ったばかりの相手に、再び要求してくるとは。女王は少しサティエルの振る舞いを試してみようと考えていた。ただし、交渉が行き詰まれば自ら口添えすればよい--そんな腹積もりでもあった。
やがて、傭兵団と思しき男女が謁見の間へと現れる。
「あれ? ベルンハルト団長に、パトリシア副団長……。傭兵団って、黒鉄傭兵団のことだったの?」
その言葉に、即座に反応したのはパトリシアだった。
「……姫?」
その場の誰もが思った。やはりサティエルはお姫様だったのか、と。
実際にはそうなのだが、口にしたパトリシアも、当のサティエルもその真実を知らない。
「もしかして、雇い主は姫なのか?」
「うん。いい?」
「もちろんだ」
「女王陛下、黒鉄傭兵団をご紹介くださりありがとうございます」
交渉らしい交渉もなく、あっけなく話がまとまってしまい、女王は拍子抜けした。
「なんだ、知り合いだったのか?」
ベルンハルトが一歩進み出て答える。
「はっ。このサティエルこそ黒鉄傭兵団の救世主にして、真の団長にございます」
「なに? その娘が団長だと? 本当か?」
アレクサンドラ女王の鋭い視線がサティエルに向かう。
サティエルは涼しい顔で答えた。
「初耳です」
「どういうことだ」
視線はベルンハルトへ移る。
「黒鉄傭兵団の規則では、正式な決闘で団員が団長に勝てば団長の座を継ぐことになっております。このサティエルは私に勝利した後、団を離れましたので、今は私が代理を務めております。しかし、真の団長は彼女なのです」
「なるほど……。まあ、傭兵団の規則などはどうでもよい。それより、先ほど“姫”と呼んでいたな。どういう意味だ?」
パトリシアが一礼して答える。
「黒鉄傭兵団の“姫様”という意味です」
「なんじゃそれは……。だが、これほどの気品や力は、ただの傭兵団育ちでは身につくまい」
再びサティエルへと視線が戻る。
「私の出自はわかりません。傭兵団に入る前は森で暮らしていました。ただ、私の面倒を見てくださった方々がとても優秀だったので……おそらくそのおかげです」
「ふむ……。訳ありの令嬢、という可能性もあるか。まあよい。今日は力になれなかったが、また困ったことがあれば訪ねてこい。後ろ盾くらいにはなってやれるだろう」
こうして、無事に女王との謁見は終わり、援軍としてかつての仲間、黒鉄傭兵団と再び行動を共にすることになったのだった。




