第75話 女王への謁見
謁見の間に入ると、女王の座する玉座の周囲に城の役人が控え、玉座の前には強力な透明な結界が張られていた。これは、魔法などによる攻撃を防ぐためである。
サティエルの内にいるエルネスタは侯爵令嬢であり、第二王子の婚約者でもあるため、こうした場での礼儀作法を心得ていた。
諜報員のオフィーリアも礼儀の訓練は抜かりがない。
聖女として迎えられたセレネは一通りの訓練を受けてはいるが、なおぎこちなさが残る。
騎士の家系のシルヴィアも最低限の作法はわきまえているが、やはり少し硬さがあった。
女王アレクサンドラは、この冒険者たちがトールヴァルト隊長からの報告にあったものだと承知していた。報告では、フードを深くかぶった魔法使いが並外れていたという。ということは、あの少女こそがその魔法使いに違いない。外から見ただけでも高位者の気配があるが、その正体はいかなる者か--女王はそう考えを巡らせた。
「まず確認しておく。シュレスタイン王国からの使者カルメロとその護衛、冒険者『エナメルの旅人』の者たちで相違ないか?」
「はい」
「はい」
名乗ってもいない護衛の正体を女王側が把握していることに、エナメルの旅人の面々は驚きと警戒を同時に覚えた。
「エナメルの旅人は三人組と聞くが、その神官はどなただ?」
オフィーリアが答えた。「この方はルーナ教の聖女でございます。私どもがシュレスタイン王国の大神殿へ護送する任を負っております」
「ほう、聖女か。それならば護衛がつくのも道理。しかし、なぜカルメロ殿の護衛もしているのだ?」
「ゲルデン帝国がシュレスタイン王国の王都へ進軍しているとの話を耳にしたため、我々だけで行動するよりカルメロ殿と行動した方が目的を果たしやすいと判断した次第です」
「なるほど。では、カルメロ殿の用件を聞こう」
「はっ。アレクサンドラ女王陛下宛てに、我が国王よりの親書を預かっております。ご確認ください」
カルメロが親書を差し出すと、結界の端から一人が出て受け取り、女王補佐官へと渡した。
「確かにシュレスタイン王国の封印である」
「開封して中を確認せよ」
「はっ」
女王補佐官が封を解き中身を読み上げると、要請は援軍の派遣だった。
「やはりか。申し訳ないが、今は無理だ。我が国にもゲルデンの侵攻の兆しがあり、戦力を割けぬ。むしろそちらに援軍を頼みたい。エナメルの旅人は、三人でアースドラゴンを討ったと聞く。そなたら我が配下に加わらぬか。相応の地位は約束しよう」
恐れていた展開だった。女王とサティエルの間に折り合いがつかなければ、ここで事が険悪になる可能性もある。オフィーリアはそんなことを考えながら、恐る恐る小声でサティエルへ意見を尋ねた。
「どうする?」
「配下にはならないよ。自由がなくなりそうだもん」
思った通りの返事だった。オフィーリアは女王の機嫌を損ねぬよう、返しを考える。
「ありがたい申し出ですが、我らにも果たすべきことがあり、この国に留まることはできません。どうかご容赦ください」
アレクサンドラ女王は、オフィーリアがサティエルの意向をうかがっているのを見て、主がサティエルであると誤認した。
しかもサティエルは動揺の色を見せず、自然体でありながら気品を備えている。報告書にある戦闘力だけではないらしい--女王の勘は、強引に事を進めぬ方がよいと告げていた。
「はははっ、すまぬ。気を遣わせたようだ。身分を隠しているようだが、明らかにどこかの高位貴族だろう。本気で引き抜こうなどとは思っておらんよ。
それよりも、ヒュドラ討伐と魔族の捕縛では大いに世話になった。
ちなみにあの魔族、どうやらゲルデン帝国の意向で動いていたようだ。
お主たちの助力がなければ、大変な事態になっていただろう。
褒美を取らせよう。望みはあるか?」
オフィーリアがまた小声で囁く。
「お金をもらうのが無難だと思うけど、どうする?」
「援軍がほしい」
「いや、それは今断られたでしょ」
「断られたのはシュレスタイン王国で、私ではないよ」
その言葉にオフィーリアは固まる。これをどのように女王へ返答すべきか......。




