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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
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第71話 背後にいた者

倒れているヒュドラを見ながらオフィーリアは思った。――やりすぎだ、と。


あの「ルミナス・チェイン」という魔法は常軌を逸している。巨体と怪力を誇るヒュドラを、あれほど完璧に拘束してしまうのだから。上級魔法の域を明らかに超えている。


それもそのはず、かつてメーディアが「とっておき」と呼んだオリジナル魔法のひとつ。邪竜ファーブニルをも縛り上げた鎖なのだから。


――調査隊に余計な詮索をされなければよいのだが。


トールヴァルト隊長も驚きを隠せなかったが、魔法の素養がない彼には、そのレベルがどれほどのものかまでは理解できていなかった。だが、部下の魔法使いが囁く。


「隊長……今の鎖の魔法、尋常ではありません。あのヒュドラを完全に封じられる術など、聞いたことがありません。使った彼女も……ただ者ではないかと」


「……ふむ。やはり、あの神官といい、どこか裏がある連中だな」


そう呟き、まずはヒュドラの死を確認するために部下を動かした。


息絶えているのを確かめると、隊長は冒険者たちに深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。これでこの村、いえ周辺の村々は救われました。

それで、礼をさせていただきたのですが、その前に、あなた方の名を伺ってもよろしいでしょうか?名も知らぬままでは――」


その時だった。


「――ウォーターフォール!」


唐突にサティエルが詠唱し、隊長の方へ魔法を放った。


「サティエル!?」

オフィーリアとシルヴィアが同時に声を上げる。


しかし、それは隊長の頭上を越え、後方に滝のような水の壁が生じ、轟音と共に蒸気が立ち昇った。


水壁には複数の火球が叩きつけられていた。サティエルが咄嗟に防いだのだ。


「何事!?」


皆が目を向けると、物陰から黒い影が空へ舞い上がった。


「魔族……!」

トールヴァルト隊長が叫ぶ。


それは人間のようでありながら、頭からは二本の角、背からはコウモリのような翼を広げている。異形の存在――この世界で魔族と呼ばれる者だった。


「そいつ、ずっと物陰からヒュドラに向かって何かしてたよ」


「ヒュドラが妙な行動していたのは……こいつに操られていたからか!」


サティエルは即座にろっくんを呼び、飛び乗って空へと舞い上がる。


「ストーム・エッジ!」


無数の風刃が嵐のように巻き起こり、逃げる魔族を切り裂いた。


「ぐっ……!」


翼の一部が裂かれ、魔族は制御を失い、地面へと墜ちていった。


皆が魔族を取り囲んだ。


「気をつけろ! 魔族は気功術こそ使えんが、生まれつき人間をはるかに凌ぐ身体能力を持ち、さらに魔法も使う!」


「ふむ……まさか、これほどの戦力が来ているとは」


魔族は冷ややかに笑い、三人の剣士を無視して後方のサティエルを指さした。


「そこの魔法使い。あなたは危険ですね。しかも、私に傷を負わせた……万死に値します」


「そうはさせない!」


シルヴィアが先陣を切り、鋭い剣撃を浴びせる。しかし魔族は鋭い爪で受け流す。


すかさずトールヴァルト隊長らも斬り込み、三対一の攻防が始まった。だが即席の連携は噛み合わず、押し切れない。


サティエルは後方で戦況を見ながら首をかしげる。

思ったほど強くない……。

神殿で戦ったヴォルフ隊長の方が、よっぽど手強かったな。


やがて、魔族が隙を突いて詠唱した。

「――フラッシュ!」


閃光が走り、剣士たちの動きが止まる。その瞬間、魔族は目の前の敵をすり抜け、猛スピードでサティエルに迫った。


「魔法使いはこの速さに対応できまい!」


だが次の瞬間――。

サティエルがそれを超える速度で迎え撃つ、爪を防ぎつつ手首を掴むと、魔族の巨体を地面に叩きつけた。


続いて麻痺の呪いをかける。

「パラリシス・カース!」


魔族は呻く間もなく地に伏したまま動けなくなる。


――何が起こったのか。

攻撃を仕掛けたはずの魔族が、瞬きの間に逆に倒されている。トールヴァルト達は理解できず、ただ唖然とした。


「い、いったい今のは……?」

トールヴァルト隊長が困惑気味に問う。


サティエルは肩をすくめ、拘束された魔族を見下ろした。

「そんなことより、この人が何をやっていたか聞きたいんだけど」


「ああ、そうだな。このヒュドラを操っていたのはお前か?」


「……」


「何を企んでいる!」

隊長が拳で脅すが、魔族は黙したままだ。


「無駄か。とりあえず町へ運んで、専門の者に任せるしかないな」

隊長は息を吐き、オフィーリアたちに向き直る。


「我々はまず村に報告した後、この魔族をヴィアドルの町へ搬送する。あんたたちも来るか? 道案内にもなるはずだ」


オフィーリアがうなずく。

「それは助かる。同行させてもらおう」


こうして、一行は次なる目的地――封鎖された街道の先にあるヴィアドルの町を目指すことになった。

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