第70話 ヒュドラ討伐
翌朝、ろっくんの視界にヒュドラの姿が映った。村まで残り三キロ。
サティエルが先頭に立ち、ろっくんの視界で選んだ場所へ一行を導いた。そこは予想進路上でもっとも開けた場所だった。
「ここで迎え撃ちましょう」
「承知した」
エナメルの旅人は迷いなく従ったが、トールヴァルド隊長は半信半疑だった。とはいえ戦うには悪くない地形、黙って頷く。
やがてオフィーリアが目を細めた。
「……見えた。ヒュドラ接近!」
セレネが即座に詠唱する。
「プロテクティブウォール・ウィズ・ピュリフィケイション!」
二十メートル四方の透明な壁が立ち現れ、淡い光を放ちながら浄化の力を帯びる。続いてサティエルが風を呼ぶ。
「ワイド・レンジング・ブリーズ!」
穏やかな風が結界の外へと流れ出す。ヒュドラの吐く毒霧を押し流すためのものである。
ヒュドラは巨体を揺らしながら速度を上げ、こちらへ突進してくる。
「ライトジャベリン・スリー!」
オフィーリアが光の槍を放つ。しかし三つの首が同時にブレスを吐き、掻き消された。
「……魔法には敏感に反応するのね。利用できそうだ」
そうこうしているうちにヒュドラは結界の目前にせまり、毒のブレスが襲いかかる。しかし、それは結界に触れた瞬間に光となって霧散する。すかさずヒュドラは結界を砕こうと体当たりするが、壁はびくともせず、逆に苛立ちを募らせていった。
「今だ!」
魔法使いたちが胴体や尾に狙いをつけて魔法を撃ち込み、注意を引きつける。その隙に剣士たちが斬りかかる――が、二つの頭に察知され、浅手しか与えられない。
二度目の突撃、今度はシルヴィアの前にチャンスが訪れた。
「――天罰斬!」
交差した双剣が一閃し、右端の首が吹き飛ぶ。
「今よ!」
「フレイムランス」
オフィーリアが炎槍を放つ――だが、別の頭が横から防ぎ、切断面は瞬く間に再生してしまった。
「くっ……やはり厳しい!」シルヴィアが悔しげに唇を噛む。
戦況は膠着し、セレネの顔色も次第に青ざめていく。結界の維持に魔力を削られているのだ。
このままじゃ、まずい……。
サティエルはオフィーリアの元へ駆け寄る。
「風魔法、交代して。私が少し試してみる」
「……了解」
サティエルは剣士たちに声を張り上げた。
「今からヒュドラを拘束します!止まったら、一気に首を落として!」
「なに?どういうことだ?」
「いいから見てて!」
サティエルが最近マスターした憧れの魔法。それを使うのにちょうどいい相手だと判断した。
結界を抜け出すと、サティエルは手を前にだし、意識を集中する。
その魔法は、メーディアの書で上級に分類され、邪竜ファーブニル戦でメーディアが使った魔法。
「いでよ不断の光鎖、その輝きにて敵を拘束せよ――ルミナス・チェイン!」
ほとばしる光が無数の鎖へと変わり、五つの首を絡め取り、胴体を大地へ縫いつけた。ヒュドラが咆哮をあげるが、鎖は輝きを増し、びくともしない。
「今よ、斬って!」
剣士たちが一斉に飛び出し、刃が閃く。落ちる首、五つ。
「みんな下がって! オフィーリアお願い!」
「わかった。ファイア・ピラー!」
轟然と炎の柱が立ち上り、切断面を灼き尽くす。再生は阻まれ、ヒュドラの巨体が地を揺らしながら崩れ落ちた。




