第67話 山道は厳しい
エナメルの旅人一行は北上を続け、ジエンデンの町へとたどり着いた。
この先の街道を進めば、ゲルデン帝国の北東に位置するラップレリア王国へ入れる。
そしてその国を西に横断すれば、目的地であるシュレスタイン王国へ至るはずだった。
だが――運悪く、その街道は封鎖されていた。
門兵に事情を尋ねると、彼は丁寧に答えてくれた。
「ついこの前の満月の日、ムーンゲートが開いてな……魔物が大量に流れ込んだ。その被害で、街道を管理する領主様が通行を禁じられたのだ」
オフィーリアが一歩前に出る。
「我々のような冒険者でも、通行は許されないのですか?」
「無理だな。領主様から完全封鎖の通達が出ている」
「封鎖がいつ解かれるか、見通しは?」
「わからん。ただ、かなりの被害が出たと聞く。数か月はかかるだろう」
オフィーリアは小さく息を吐き、さらに尋ねた。
「……この街道以外に、ラップレリア王国へ行く道は?」
「南に回ってゲルデン帝国を経由する方法がある」
「……ゲルデンを通らずに行ける道は?」
「まあ、あるにはあるが……おすすめはせん。山道でな、坂がきつい上に魔物や山賊が出ることも多い」
「その道の場所を教えていただけますか」
門兵は渋い顔をしたが、それでも教えてくれた。
「ここから北へ二時間ほど行けば、“ヴィアドル方面”と書かれた道標がある。そこを左に折れれば封鎖区間を迂回できる。ただし、山道だぞ」
「ご親切に、ありがとうございました」
一行は兵士に礼を告げて門を離れた。
「……ということのようね」オフィーリアが皆を見回す。
「ゲルデンを通るのはリスクが高すぎる。ここで封鎖解除を待つか、山道を進むか。どうする?」
視線を向けられたセレネは、少し考えてから口を開いた。
「もし私の希望を聞いていただけるのなら……早く目的地に着きたいです」
サティエルは頷き、少し微笑む。
「じゃあ、山道に挑戦してみよう」
そう決めた一行は、その夜はジエンデンの町に宿を取り、翌朝、山道へと向かうことにした。
* *
朝早く、一行は封鎖された街道を迂回するため山道へ向かった。
二時間半ほど進んだころ、道標が見つからず不安を覚え始めた矢先、ようやく「ヴィアドル方面」と刻まれた木の標を見つける。
そこから先は狭い山道が続いていた。
登りは厳しく、一時間ほど進んだところでセレネが力尽きる。
「ごめんなさい……私が急ぎたいと言ったのに……」
セレネは研究者、月では何時間も山道を歩くことなどなかったので無理もない。
靴を脱いだ足には、大きなマメがつぶれていた跡が痛々しく残っていた。
「こんなになる前に言ってくれればよかったのに」
シルヴィアが顔をしかめる。
「すみません……まさかここまでとは……でも、魔法で治せます」
セレネがヒールを唱えると、つぶれたマメはみるみるうちに消えていった。
「すごい! 回復魔法って初めて見た」サティエルが目を丸くする。
「はは……でも、体力までは戻らないんです」
サティエルが提案する。
「ねぇ、シルヴィア。交代でセレネをおんぶして進もうよ。一時間ごとなら身体強化ももつでしょ?」
「いい考えだね。じゃあ、私からやるよ」
「そんな……悪いです」セレネは慌てて首を振る。
「気にしないで。久々に荷重訓練になるし、ちょうどいいよ」
そうして二人は交代でセレネを背負いながら進んでいった。
しばらくすると、前方から二人の男がやって来た。
粗末な身なりに、オフィーリアはすぐ警戒する。
「……山賊かもしれない。気を付けて」
男の一人が近づき、口を開いた。
「おや、病人連れか。ちょうどこの先に俺たちの村がある。休んでいけ、案内してやるよ」
警戒心が解けるはずもない。だが――サティエルが一歩前に出た。
「ねぇ、おじさんたち……山賊?」
残りの三人が固まる。
そんなストレートに聞く!?
シルヴィアは心の中で思わず突っ込んだが、声には出さなかった。
「はは、違う違う。俺たちはリッジ村の住人だ」
「じゃあ案内お願いします」
いやいや! それだけで信じる!?
シルヴィアは再び心の中で突っ込む。
男たちは頷き、一行を導き始めた。
「兄貴、町へ行くのはどうする?」
「村に戻ってから出直せばいい。ほっとけんだろ」
「……お人好しだなぁ」
サティエルは何の迷いもなくついていく。
残りの三人は顔を見合わせ、しぶしぶ後に続いた。
「ねぇ、本当に大丈夫?」シルヴィアが小声で尋ねる。
「大丈夫だと思うよ。悪い人たちじゃない」サティエルは即答した。
「なんでわかるの?」
「なんとなく」
……おいおい。
シルヴィアは頭を抱えそうになる。
「もし悪人だったらどうするのよ?」
「その時は消えてもらうだけ」
その一言に、オフィーリアとセレネは思わず引いてしまうのだった。




