第123話 こだわりの魔法戦士
そして、再び魔法陣の授業の日がやって来た。
今日は野外魔法演習場に全員が集合している。
前回作成した魔法陣を実際に発動させる――それが今日の目的だ。
前回の授業で描いた魔法陣の魔法は「ファイヤーボール」。
演習場の的をめがけて発動する。
的は五つしかないため、学生たちは順番に交代で試すことになっていた。
サティエル以外の学生たちは、自分の描いた魔法陣に直接魔力を流し込んで発動させる。
一方、サティエルは魔導具を使っての発動だ。
最初の組が並び、次々に魔法を放つ。
放たれたファイヤーボールの大きさも速度もまちまち。
その差は魔法陣の精度、魔力供給の量と速度、集中の度合いなど、さまざまな要素によるものだ。
そして、ジネットの番。
サティエルは息をのんで見守った。
放たれたファイヤーボールは――大きさ、速度、どちらも申し分ない。
うまく魔力が流れてる……。よかった。
サティエルがほっと息をついたそのとき、周囲の学生がざわついた。
何人かがジネットを見て怪訝そうな顔をしている。
モニク先生も少し驚いた様子で声をかけた。
「ジネット、今のは魔導具を使いましたか?」
「いえ、自分の魔力です」
「そう。では――もう一度やってみてください」
ジネットは頷き、再び魔法陣を構えた。
魔力を流すと、先ほどと同じ大きさ・速さのファイヤーボールが一直線に飛び、的を撃ち抜く。
「……素晴らしい。文句なしです。見違えるほど魔力操作が上達していますね。
何か特別なことでもあったのですか?」
ジネットは嬉しそうに微笑み、答える。
「サティエル先生に治療してもらいました」
「サティエル先生に?」
モニクは驚いたようにサティエルの方を向く。
「ええ。魔力の流れが滞っている箇所があったので、気功術で治しました」
「気功術で……。そんな使い方ができるのですね?」
「ええ、以前にも似たことをしたことがありまして」
自分自身のことだけど......。
モニク先生は「なるほど」と納得したように頷いた。
気功術には明るくないようだが、納得はしたらしい。
「ということは、他の魔法も問題なく使えるのですか?」
「はい。これまで習った魔法はすべて、正常に発動できるようになりました」
「それは良かったですね」
モニクの顔に、安堵と喜びが同時に浮かんだ。
きっとずっと気にかけていたのだろう。
そして、サティエルの番。
「サティエル先生は――」
モニクがにっこりと笑いながら、しかし妙な注文をつけてきた。
「魔法戦士を目指してもらいますから、物理攻撃からの流れで魔法を発動してください」
……え? 物理攻撃の流れで?
それが、それがモニク先生の魔法戦士像なのだろうか?サティエルは苦笑いしながら構えた。
気功掌を放つ動作で手を突き出し、その勢いのまま魔導具のスイッチを押す。
――が、少し遅れて、ファイヤーボールが飛び出した。
モニク先生の眉がわずかに動く。
「今のは美しくありません。技の決めポーズと同時にに魔法を出してください」
……初回から容赦ないなぁ。
その後も五回ほど試したが、タイミングがそこそこ合ったのは一度だけだった。
モニクの表情はいまひとつ冴えない。
サティエルはため息をつきながら言う。
「この魔導具、ボタンを押してから魔法が発動するまでのタイムラグが、個体によって違うみたいです。
ちょっと扱いが難しいですね」
「なるほど。では、使う魔石の品質やホルダーの精度を統一してもらいましょう。
ジョルジュ先生に伝えておきます」
そこまでこだわらなくても……。
サティエルは苦笑しながら、授業を終えるのだった。
授業が終わり、自室に戻る。
サティエルはシルヴィアに魔導具について話しをする。
シルヴィアの目が輝く。
実は、サティエルが気功術と魔法の両方を扱うのを間近で見てきた彼女も、自分でも魔法を使ってみたいと思っていたのだ。
サティエルはふと気づく。
確かに……シルヴィアのような魔法の使えない人のために、魔導具を用意しておくのはいいかもしれない。
二人で意見を出し合ううちに、思わぬ発想が生まれた。
「発動のタイミングが難しいなら、そもそもタイミングを気にしなくていい魔法を使えばいいんじゃない?」
「たとえば……剣に炎をまとわせる魔法とか。戦闘の前に発動させておけば、効果が続く限り“炎の剣”として戦えるよね」
「なるほど……そういう使い方もあるね」
ただ単に魔法を“発動させる”だけでなく、魔導具によって戦い方自体も変えられる。
その発想は、サティエルにとって新しい考え方だった。
魔導具という存在が、単なる補助具ではなく、
「戦術を広げるための新しい可能性」だと気づかされる。
最初はただ、魔法を使えることを隠すための“カモフラージュ”とするつもだった。
だが――新しい学びが、自分の知らなかった世界を開く扉になりつつあった。




