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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
リートス学園・指導と求知

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第124話 月への手掛かり2

事務所から連絡が入った。

天文学のニコル先生から、面談の依頼が来ているという。


各地での出張講演も一段落し、以前サティエルが見せた「逆行の魔導具」の件について、改めて話し合いたいという内容だった。


サティエルは古代語の読めるセレネを同行させると返事をし、面会の日程を決めた。


当日になり、サティエルとセレネはニコル先生の研究室を訪れた。


「どうも、声をかけてくださってありがとうございます。今日は私の助手のセレネを連れてきました」


「よろしくお願いします」

セレネが丁寧に一礼する。


「早速ですが、本題に入りましょう。

前回見せていただいた“逆行の魔導具”――あれが気になって仕方なかったのです。

その助手さんが古代語に詳しいのですか?」


「ええ。セレネはルーナ教の聖女ですので」


「――聖女!?」


ニコルの顔が一瞬、固まる。


聖女といえば、ルーナ教でも高位の存在。

そんな人物を“助手”として連れてくるサティエル先生は一体……?


この前の、クロヴィス先生への対応でも思ったけど、やっぱり、ただ者じゃないのね……。そう内心で思いながらも、追及はすべきではないと考え、表情を取り繕い、話を続ける。


「そ、そうなのですね。それでは、古文書をお持ちします」


ニコルは机の引き出しから古文書を取り出し、セレネに手渡した。


「……なるほど。これは古代ルーナ語のようですね」


セレネは真剣な眼差しでページを繰り、少しだけ目を細めた。


「少し時間をいただけますか?」


「もちろん、どうぞ」


セレネが文献を読み解いている間、サティエルはニコルと近況を語り合った。


「講演はいかがでしたか?」


「いやあ、なかなか大変でしたよ。

賛同してくださる方はせいぜい一割。半数以上は真っ向から反対されました」


「それは……骨が折れますね」


「ええ。でも、それを覆していくのが研究者の醍醐味です。

クロヴィス先生のように、あなたの考えに強い関心を持つ方もいましたし、

この先、天文学の常識は大きく変わると思うのです。――楽しみですよ」


「そうなのですね。

ところで、先生はモアネやルーナの遺跡研究もなさっているとか?」


「ええ。実は私が天文学に興味を持ったのは“月”がきっかけなんです。

古代の記録に“月から来た人々”の伝承があり、関連する遺跡や古文書が各地に残っています。

その中に、驚くほど正確な天文の記述もあったのですよ。

太陽中心説の根拠も、その資料の一部を参考にしています」


「なるほど……その資料は、読めたのですか?」


「古代モアネ語ならある程度は。

ですが、古代ルーナ語は少ししか読めません。あの文書は特に難解でしてね。

……セレネさんがルーナ教の聖女ということですが、神殿には古代ルーナ語の資料が残っているのですか?」


「すいません。私にはわかりません。ですが、最近、二つのルーナ大神殿が襲撃され、蔵書の大半が持ち去られてしまいました。

その中に、古文書もあったかもしれません」


「そうでしたか……神殿の噂は聞いていましたが、そのような状況とは......とても残念です」


そんな会話をしていると、セレネが顔を上げた。


「おおよその内容がわかりました」


サティエルとニコルは机に寄り、彼女の報告を聞く。


「これは――“逆行の魔導具”の技術仕様書です。

まさか、最初からこんなものが出てくるとは思いませんでした」


「仕様書……ですか?」


「ええ。装置の構成や性能、使用素材が記されています。

――『テラエにてムーンゲートを誘導し、テラエから月方向への移動を可能にする装置』とあります。

内容としては、私たちが認識していた働きと一致しています」


セレネは興奮気味に続けた。


「コア部は“アストラル・ムーンストーン”。

それに刻印する魔法陣の媒体には“ルナタイト”という鉱物が使われています。

その周囲を水晶で囲い、さらに魔法陣を刻んだ“ミスリル”の台座を設置――

これらが主要構成要素です。

ただ、肝心の二つの魔法陣の記載はありません」


「なるほど……」


ニコルは腕を組む。


「“ルナタイト”も“アストラル・ムーンストーン”も、聞いたことがあるような、ないような……。

ミスリルも貴重な素材ですし、再現は簡単ではなさそうですね」


サティエルは、静かに魔法袋を開いた。


「とりあえず、これを」

取り出されたのは、かつて入手した壊れた逆行の魔導具――二セット。


「ミスリルの台座は歪んでいますが、素材としては十分使えます。

しかも、こちらの一つには魔法陣が四分の一ほど残っています。

これを手掛かりに、欠けた陣式を再構成できるかもしれません」


ニコルは身を乗り出し、魔導具を手に取った。

光を透かしながら観察する。


「……“ルナタイト”の痕跡は見当たりませんね。

そして、これが“アストラル・ムーンストーン”の欠片ですか……。

私の知る一般的なムーンストーンとは別物ですね。

水晶部分は高品質ですが、これくらいなら調達できます。

魔法陣は……」


三人は、しばらく研究者同士のように意見を交わしながら、

“再現計画”の道筋を立てていった。


結論として、ニコル先生は関連文献の再調査、魔法陣に詳しい友人に相談を、

サティエルは「ルナタイト」と「アストラル・ムーンストーン」の探索、

さらに必要素材の加工を請け負える職人の調査を担当することになった。


未知の素材、失われた設計、そして“月への道”――。

再現の道のりは遠いが、確かに前へと動き出したのだった。

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