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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
リートス学園・指導と求知

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第122話 魔導具科

魔導具科のジョルジュ先生との面会の日。

サティエルはジネットの案内で、魔導具科の敷地へと向かった。


魔導具科の区域に入ると、雰囲気が一変する。

あちこちに工具や素材が積まれた作業場や倉庫があり、

整然とした武術科や魔法科の校舎とは違う風景があった。


約束の時間より少し早かったので、サティエルは周囲を見て回る。

ふと、広場の一角で何やら実験をしている中年の男性と数人の学生が目に入った。


三メートルはあろうかという飛竜の翼のようなものがついた何かにロープがつながれ、その男性が魔法で風を送り込んでいる。


ジネットが小さくつぶやく。

「ジョルジュ先生……」


あの人が。

サティエルは邪魔にならないよう、少し離れた場所から様子を見守った。


風を受けた飛竜の翼の付いたものは、ゆっくりと地面を離れ、浮上する。

やがて風を弱めて静かに着地すると、見ていた学生たちが拍手を送った。


「先生、成功ですね!」


「ああ。これぐらい安定すれば、第一関門は突破だな」


どうやら実験がうまくいったようだ。


ジョルジュが振り返ったとき、サティエルと目が合った。


年若い女性――だが、学生服ではなく、どこか落ち着いた雰囲気をまとっている。

魔法科の学生を連れているが……誰だろう?


そう思っていると、相手の方から声がかかった。


「ジョルジュ先生、はじめまして。武術科のサティエルです。

面会時間まで少し時間がありましたので、実験を拝見させていただいておりました」


「ああ……そういえばそろそろ時間ですね。あなたがサティエル先生でしたか。

助手に準備させてありますので先に私の部屋へどうぞ。」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


魔導具科棟の二階にあるジョルジュの研究室を訪れると、

先ほど言われた通り、助手が出迎えてくれた。

お茶をいただきながら待っていると、ジョルジュが姿を現す。


「お待たせしました」


「先ほどの実験、あれは何ですか?」


「空を飛ぶ魔導具すよ。将来的には人を乗せて飛ばしたいのですがね」


「それはすごいですね。」


ジョルジュは苦笑する。


「いえいえ、まだ“人を乗せて飛ぶ”にはほど遠い。

今は、風を受けたときにどれほど安定して浮かべるか――その実験です。

最終的には、魔導具で風を噴射して自由に空を飛べるようにしたいのですが……

安定して飛ばすには、あと十年はかかるでしょうな」


サティエルは興味深げに頷いた。

ろっくんで空は飛べるけど、魔導具で空を飛ぶのも面白そう。


「いまの課題はどのあたりに?」


「一番の課題は、魔力消費量です。

いまの風魔法では、膨大な魔力を消費してしまい実用的ではないのです。

ですから、機体の軽量化や推進特化の魔法陣の開発が鍵ですかね。

まあ、その他にも気になることはいっぱいありますよ」


「なるほど……。まだ課題は山積みということですね。

――では、そろそろ本題に入りましょう」


「ああ、モニク先生から聞いています。

“魔法戦士を志す先生に、魔導文字を刻んだ魔石を渡してほしい”とね」


……やっぱり、モニク先生、そこを推してくるのね。


サティエルは心の中で苦笑しながら、ジネットに目で合図した。

ジネットが魔導文字を記した紙を差し出す。


「これがお願いしたい魔導文字です」


「ふむ……。これはジネットさんが変換を?」


「はい、私が行いました」


「なるほど。魔法の行使も正確ですね。問題ないでしょう。

ジネットさんのほうも、魔導具が必要ですか?」


ジネットは少し照れたように微笑む。

「いえ、大丈夫です。最近、魔法の調子が良くなったので」


「それは何より。実は、モニク先生から“もし不完全なら私が補助しろ”と言われてましてね。

おまけに、“ジネットさん用の魔導具も作っておけ”と。まったく、師匠ながら困った人ですよ」


……モニク先生、そんなところまで気を配ってくれていたのね。


サティエルは小さく息をついた。


きっとジネットの不調を心配していたのだろう。

だが、それが同時にプレッシャーにもなっていた――難しいものだ。


そんな思考の隅で、ジョルジュが助手に指示を出す。


「オットマー、この魔導文字を魔石に刻んでくれ」


助手――先ほど部屋で出迎えてくれた青年が、素早く準備に取りかかる。

転写装置の上に魔導文字を描いた紙を固定し、その下に小型の魔石を設置。

レンズの焦点を調整すると、魔法を唱えた。


「《トランスクリプション》」


紙の文字が光を帯びて縮小し、魔石に転写される。

ジョルジュが横から覗き込み、頷いた。


「うむ、問題なさそうだ。では十個ほど用意しよう」


オットマーは黙々と作業を進め、十個の魔石を次々と刻んでいく。

次に、それらをホルダーに嵌め込みながら説明した。


「このホルダーのスイッチを押すと、魔石の魔力が流れて魔導文字が展開され、魔法が発動します。

安全装置も付いていますので、解除しない限りは作動しません」


すべての魔導具が完成し、机の上に整然と並べられた。


「お待たせしました。こちらが完成品です」


「ありがとうございます」


ジョルジュは笑みを浮かべて言った。

「今後、サティエル先生の魔導文字を刻む作業は、このオットマーが担当します。

いつでも頼んでください」


「助かります。何から何まで、ありがとうございました」


一礼して研究室を後にする。


魔導具科の敷地を出たところで、サティエルはジネットに向き直った。


「案内ありがとう、ジネット。助かったわ」


「いえ……こちらこそ、楽しかったです」


そう言って、ジネットは嬉しそうに微笑んだ。

その表情には、以前の陰りはもうなかった。

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