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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
リートス学園・指導と求知

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第121話 ジネットの魔法

トントン――。


「ジネットです」


控えめな声とともに扉がノックされる。

サティエルの部屋を訪れたジネットは、うつむき加減で元気がない。


「どうぞ」


サティエルは微笑んで席を勧め、お茶を差し出した。


「どう? 今日は魔法を使えそう?」


「……すみません、サティエル先生。私、やっぱり魔法がうまく使えなくて……。

他の人にお願いすることはできませんか?」


その声には、焦りと諦めが混じっていた。

どうやら、自分と組まされたこと自体も彼女にとって大きなプレッシャーになっていると感じた。

だからといって、他の人にお願いするのもいいこととは思えない。


「もちろん他の人に頼むこともできるけど……」


サティエルは穏やかに微笑む。


「せっかく縁があって一緒になったのだし、困っている学生を突き放すのは先生として気が引けるの。

もしよければ、一緒に原因を探してみない?」


ジネットは申し訳なさそうにうつむき、小さな声で言った。


「でも……先生、魔法は使えませんよね?」


まあ、そうだよね。

魔法を使えない人に相談しても仕方がない――そう言いたいのだろう。


それはもっともだ。ここはセレネを頼るのがよさそうだ。


「大丈夫。私の助手に、とても優秀な魔法使いがいるの。彼女に見てもらいましょう」


「武術科の先生に、魔法使いの助手が……?」


「ええ、ちょっと変わった縁でね。――セレネ、来て」


「はい、何でしょう?」


「この子、魔法の調子が悪いみたいなの。魔力はあるのに、どこか引っかかる感じがするの。

ちょっと見てあげてくれる?」


「わかりました」


セレネが優しく頷き、ジネットの前に立つ。


「ジネットさん、何か簡単な魔法を使ってみてください」



「はい……。では――《マジックサークル・チェック》!」

テーブルに出してあったサティエルの描いた魔法陣に向け魔法を放った。

ジネットが詠唱を終えると、右手首のあたりで魔力がわずかに歪んだ。


……やっぱり。右手の流れが乱れてる。


「セレネ、どう思う?」


「そうですね。魔力の流れが悪いですね。少し見てもいいですか?」


セレネがジネットの右手を取って《ヒール》を唱える。

淡い光が右手首を包み込んだ瞬間――ジネットが小さく声を上げた。


「痛っ!」


セレネは手を離しながら静かに言う。


「ほんのわずかですが、何かが回復しました。……もしかすると、今まで痛みが麻痺していた部分を回復させてしまったのかもしれません」



ジネットは右手首を押さえ、不安そうに見つめた。

それを見て、サティエルは確信する。


「……ちょっと見せて」


そう言ってジネットの手を取り、気を流す。

すると――確かにあった。魔力の滞留と、石のように固まった気の塊。


「やっぱり。――あなた、魔力石化症って言われたことない?」


「……え? ま、魔力石化症?」


「知らない? 魔力が多すぎて、魔力が体の中で石化してしまう病気よ」


「……私、そんな病気だったんですか……?」


驚きと戸惑いが入り混じる声。


サティエルはうなずく。

自分と同じ病気の人初めて見たし、世間ではあまり知られていないのかも......。


「治療してもいいかしら?」


「お、お願いします……」


サティエルは気を練り、魔石を砕く。


内部の魔力の滞りが消え、流れがすっと通った。

石化していた周辺部分を正常に戻すためセレネが癒しの魔法で整える。


「はい、終わり。――さあ、試してみて」


ジネットはおそるおそる手を上げた。


「……《マジックサークル・チェック》」


魔法陣が淡く光り、滑らかに起動する。

彼女の瞳が大きく見開かれた。


「……発動した……! 本当に……!」


何度か魔法を試すうちに、魔力の流れが完全に安定していく。

今まで感じていた重さが嘘のように消え、胸がいっぱいになったジネットの目から涙がこぼれた。


「サティエル先生……ありがとうございました……!」


サティエルは微笑み、ジネットが落ち着くのを待ってから尋ねた。


「ねえ、右手首の魔力石化に心当たりある?」


「――そういえば、小さい頃……病気で寝込んでいたときに、手首がすごく痛くなって……

それからずっと我慢していたのですけど、次第に痛みは感じなくなっていたので忘れていました」


「なるほど。体が弱っていたときに魔力の許容量を超えて、内部で石化したんでしょうね。

でももう大丈夫。他に魔石も出来ていないみたいだし再発はしないはずよ」



ジネットは何度も頭を下げた。

その目には、長い間の不安から解き放たれた安堵の光が宿っていた。


彼女は早速、魔法を使ってサティエルの魔法陣をチェックする。

結果は完璧。問題なしだった。


口には出さなかったが、ジネットは密かに驚いていた。

――武術科の先生が、魔法を使えもしないはずなのに、こんな正確な魔法陣を描くなんて。


もちろん、サティエルが“ノーモーションで魔法を使い修正しながら描いていた”ことなど、彼女は知る由もない。


最後に、ジネットは魔法陣を魔導文字に変換する魔法を使い、無事に変換を成功させた。


「……うまくいったわね」


「はい……!」


このあと二人は、魔導具科のジョルジュ先生との面会予約を済ませる。

このとき、ジネットの表情には、かつて見せたことのない笑顔が浮かんでいた。

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