第120話 魔法陣の授業2
モニク先生の魔法陣の授業も順調に進んでいた。
学生たちは、魔法を魔法陣で表す基礎を学び、初級魔法程度ならば、魔法陣を描ける段階まで到達していた。
もっとも、基礎を覚えたからといって、すぐに正確な魔法陣が描けるわけではない。
少しでも線や文字を誤れば、発動が失敗することも珍しくない。
そのため、通常は描いた魔法陣を「チェック魔法」で確認し、誤動作がないか確認するのが習わしだ。
だが――サティエルは表向き「魔法が使えない」ということになっている。
そのため、この確認作業を堂々と行うことができない。
さらに、その先の工程である「魔導文字への変換」も魔法の行使が必要となる。
そこでモニクは気を利かせ、サティエルにある学生を紹介した。
「ジネットさんと一緒にやってください。彼女に魔法部分を担当してもらいます」
そのジネットという女学生は、以前からサティエルの目に留まっていた。
いつも教室の端に座り、他の学生たちとあまり関わろうとしない人物だ。
静かながらも、どこか張りつめた雰囲気をまとっていた。
話を聞くと、彼女は元平民で、魔力の多さを見込まれて男爵家に養子として迎えられ、この学園に入学したという。
だが、貴族社会にはなじめず、魔力の制御もうまくいかないせいで「落ちこぼれ」と言われ、自信を失っていた。
それでも、チェック魔法や魔導文字変換程度なら行えるらしい。
モニク先生の指示に従い、二人で課題を進めることになった。
だが、その日のジネットはどうにも調子が悪かった。
魔法が乱れて、魔法陣の確認も途中で終わってしまう。
授業の終わり、モニク先生が次回の予定を告げる。
「次の授業は野外魔法練習場で行います。
今日作った魔法陣が、実際に起動するかを確認しますので、次回は野外演習場に集合してください」
「サティエル先生は、今日の魔法陣を魔導文字に変換して、魔導具としてお持ちください。
魔導具への加工は魔導具科のジョルジュ先生に頼んであります。ジネットさん、案内をお願いしますね。
ああ、ジネットさん。もし調子が悪いようなら、あなたも魔導具を使っても構いませんよ 」
――その言葉が、ジネットにとっては追い打ちだった。
サティエルの魔法陣をチェックできなかったことに加え、“魔法が使えないサティエル”と同列に扱われたことで、彼女の顔には影が落ちた。
サティエルも、それを見て胸が痛んだ。
自分が「魔法を使えないふり」をしているせいで、彼女をさらに追い詰めてしまったのだ。
それに、ジネットの魔法の発動にはどこか妙な違和感があった。
――何かある。
そう感じたサティエルは、彼女と改めて話をしてみようと思う。
ちょうど次の授業までに魔導具を用意しなければならない。
どうせなら、その打ち合わせも兼ねて。
ただ、今日のジネットは明らかに疲れていた。
そこでサティエルは日を改め、自分の武道科の研究室に呼ぶことにしたのだった。




