第119話 柔気流気功術・身体操作
それから少し時が経ち、サティエルの本業である格闘術の授業も本格的に進展していた。
「今日からは、皆さんに柔気流気功術の身体操作について教えたいと思います」
その言葉に、いよいよ来たかと学生たちの目が輝く。
「まずは、気を維持したまま呼吸と動作を途切れさせない訓練です。これは他の流派でも基本として行われているので、慣れている人もいるでしょう」
「次に、より繊細な身体操作について説明します。
柔気流の動きでは、力を溜めたり振りかぶったりといった予備動作を極力避けます。もちろん、最大出力を出す際は溜めたほうが強い場合もありますが、そのぶん動きが遅くなり、相手に読まれてしまう欠点があります。
そうした体の使い方は、他の武術でも学べますので、ここでは扱いません」
サティエルは間を置いて、穏やかに言葉を続けた。
「この授業では――動きを読ませないまま、力強い動きを生み出す方法を学んでもらいます。
この身体操作はあらゆる場面で応用が利きます。ぜひ身につけてください」
「具体的には、自然な動作の中で体の各部分の気と力を、自分が使いたい部分だけに集めます。同時に、不要な力は排除します。
それができれば、派手な構えを取らずとも、見た目以上の威力を発揮できます」
そう言ってサティエルは、練習用の木杭に掌を軽く添え、軽く突いた。
――パキン。
あっさりと杭が折れた。
学生たちの間からどよめきが上がる。
「おお……」
「すごい……!」
「うまく力を流せば、この程度の木なら簡単です」
サティエルは微笑んだあと、言葉を継ぐ。
「さらに、正確に大きな気を扱えれば――」
再び掌底を打つ。
杭の当たった部分が粉々に砕け散った。
「――このようなこともできます。これは《気功掌》という技です」
「き、気功掌!?」とマクシムが声を上げた。
「知っているのですか?」
「もちろんです! 格闘術最高峰の技の一つだと聞いています。使える人がほとんどいないので、実際に見るのは初めてですが……」
「そうですか。ですが、あなたの知る技と同じかは分かりませんよ。
たまたま名前が似ているだけかもしれません」
「いえ、同じだと思います。話に聞いていた通りですから……」
「そうでしたか」
全部ジューベーのオリジナルってわけじゃなかったのね。
サティエルは内心でそう思う。
実際、《気功掌》は剛気流の代表的な技の一つであり、剛気流自体は広く知られた気功術の流派だった。
「先生、《気功掌》も教えてもらえるのですか?」
「この技を扱えるだけの基礎が身につけば、教えますよ」
そう答えながらも、サティエルは――自分の任期中にそこまで到達する学生はいないだろう――と内心で苦笑した。
「最後に、《受け流し》の技術です。最初のころ、私が相手の攻撃を掴んで投げたのを覚えていますね?
あれは、相手の力の流れを変える技術です」
サティエルはシルヴィアを呼び、軽く構える。
「具体的には、相手の力を円を描くように受け、方向をずらします。
慣れれば、一瞬の小さな円の動きで相手の体勢を崩すことができます。
その際、接触を通じて相手の体の状態を読み取り、場合によってはコントロールすることも可能です」
言葉に合わせて、軽やかにシルヴィアの攻撃を受け流し、くるりと返して投げる。
学生たちの間から再び歓声が上がる。
「いくつかの技を組み合わせれば、受けからではなく、こちらから先制攻撃を仕掛けることもできます」
デモを終え、サティエルは生徒たちを見渡した。
「一応、理論的な講義はここまでです。
技というものは、頭で理解するだけでは使えません。
焦らず、一歩ずつ体で覚えていきましょう」
そう言って、サティエルは実技指導へと移っていった。




