第114話 司書からの提案
色々なことに手を出しながらも、サティエルは当初の目的――月への行き方を探ることを決して忘れてはいなかった。
授業の合間を縫い、今日もまたシルヴィアやセレネと一緒に図書館へ通う。
この学園の図書館は、王国随一の蔵書を誇る巨大な建物だ。
高い天井と整然と並ぶ書架、そこに漂う古書の香りは、どこか落ち着きを与えてくれる。
そんな中で、最近ちょっとした噂が立っていた。
――「毎日のように現れる新人の美人先生が、いつも難しそうな本を探している」と。
それはもちろん、サティエルのことだった。
ある日、司書の一人がついに声をかけてきた。
「先生、よくこちらでお見かけしますね。何かお探しの本があるのですか?」
「月やムーンゲートに関するものを探しています。
特に、月の住人――ルーナ人やモアネ人、あるいはそれに関連する古代遺跡の記録があればと思いまして」
司書は少し驚いたように目を丸くし、それから丁寧に頷いた。
「なるほど。ずいぶん具体的なのですね。でしたら、こちらでもお調べ出来ます。
少しお時間をいただきますが、よろしいですか?」
最初からお願いすればよかったのか……。
そう思いながらも、サティエルは軽く会釈をして答えた。
「お願いします」
「承知しました。先生、このあとどちらかへ行かれますか?」
「いえ、閉館までここにいる予定です」
「わかりました。結果がまとまり次第お持ちします。
もしお帰りになる際は受付にお声を。後ほど先生の部屋へお届けいたしますので」
そこまでしてくれるの……?
どうやら、この学園では教師という立場が思っていた以上に厚遇されているらしい。
臨時教師である自分には、そんな説明は誰もしてくれなかったけれど。
しばらく自力で本を探し、見つけた一冊に目を通していると、先ほどの司書が再び姿を見せた。
「お探しの本ですが、どうやら天文学科のニコル先生の研究室に多数所蔵されているようです。
図書館よりも、直接先生にお願いされたほうがよいでしょう」
「なるほど……ありがとうございます。ニコル先生にお願いしてみます」
礼を述べ、司書に見送られて図書館を出る。
探している本が個人の研究室にあったなんて……声をかけてもらわなければ気づかなかったわね。
その足で事務所に寄り、ニコル先生への面会依頼を出した。
数日後、返事が届く。
面会の日時は――一週間後。
理由は、今週行われる公開講座の準備で多忙とのことだった。
先生には今後も協力してもらうかもしれない。
ちょうどいい機会だから先生の事を知る上でもその公開講座も聞いておこう。
講義内容を確認して、サティエルは目を瞬かせた。
『衝撃の事実――宇宙の中心は太陽。テラエは太陽の周りを回っている』
「……何それ?」
思わず声が漏れる。
どう考えても、太陽のほうが動いているようにしか見えない。
シルヴィアとセレネにも話してみた。
「意味わかんないよね」
シルヴィアが即座に反応する。
「毎日、太陽が動いてるのを見てるし、太陽がテラエの周りを回ってるって聞いてるけど?」
しかし、セレネが少し首をかしげた。
「あの……月から見るとわかるんですけど……。テラエは中心を通る軸を軸にして、自分で回転しているんですよ」
「えっ、そうなの!?」
「はい。たぶん、テラエ中の人から見て太陽の方を向いたときに昼になって、
反対を向いたときに夜になるんだと思います」
「それだと……太陽もテラエも、どっちも周りを回ってなくてもいいことになるけど?」
「そうですね。どういうことでしょう……」
「やっぱり、公開講座を聞いてみないとわかんないね」




