第113話 魔法陣の授業1
魔法陣の授業の日。
モニク先生から届けられた学生服に袖を通す。
格闘術の教師としての姿とは少し雰囲気を変えたくて、髪を後ろでまとめ、伊達メガネをかけてみた。
鏡に映る自分は、どこか落ち着いた印象で――思っていたより“学生”っぽく見えた。
教室に入ると、すでに多くの生徒が席についていた。
サティエルはモニク先生の横に並び、少し緊張した面持ちで待つ。
「皆さん、今日は紹介があります」
モニク先生の声に、教室の視線が一斉にこちらへ向いた。
「私の研究協力者、サティエル先生です。
彼女は気功術士ですが、今日から特別聴講生としてこの授業に参加してもらいます。
悪目立ちしないよう学生服を着てもらっていますが、身分は先生です。そのつもりで接してくださいね」
ざわ、と小さなざわめきが広がる。
サティエルは、教師用のバッジを胸につけていたが、それが逆に周囲の好奇心を刺激したらしい。
一礼してから口を開く。
「サティエルです。本職は格闘術の指導ですが、しばらく皆さんと一緒にこの授業を受けることになりました。よろしくお願いします」
微妙な空気が流れる。
敵意ではないが、好奇心と警戒が入り混じったような――そんな視線を幾つも感じた。
「では、サティエル先生、好きな席へどうぞ」
「はい」
軽く頭を下げてから、比較的空いていた教室の隅の席に腰を下ろす。
机に広げられたノートの隣では、隣席の学生が落ち着かない様子で視線を逸らした。
どう接していいのか、わからないのだろう。
授業が始まる。
内容は、魔法陣の基本構造と属性式の理論。
モニク先生の授業は丁寧でわかりやすい――けれど、サティエルにとってはどこか物足りなかった。
丁寧すぎる……。でも、こういう教え方のほうが普通なのね。
思い出すのは、メーディアの容赦ない指導。
雑な説明のあとに無茶な課題を突きつけられ、それを乗り越えなければ次に進めなかったあの日々。
厳しかったが、今となっては懐かしい。
あの魔女の下で学べたことが、どれほど幸運だったか――今になって実感する。
授業が終わると、何人かの学生が興味津々といった様子でサティエルの席に集まってきた。
だが、彼女はあくまで“先生”である。
笑顔を浮かべつつも一歩引いた対応を取り、軽く会釈をして教室を後にする。
出口へ向かう途中、ふと教室の隅に一人の学生の姿が目に留まった。
ノートを閉じたまま俯いている。
気にはなったが、今は立ち止まらなかった。
……そのうち話す機会もあるでしょう。
そう思いながら、サティエルは静かに教室を後にした。
その背中に、数人の学生たちの視線が残っていた。




