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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
リートス学園・指導と求知

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第112話 魔法戦士?

特別講演をしたモニク先生との面会日時が決まり、サティエルは先生の部屋を訪れた。


トントントン――。


「面会をお願いした武術科のサティエルです」


「どうぞ」


扉の向こうから落ち着いた声が返ってくる。


サティエルは入室を促され、部屋の中へ足を踏み入れた。


上質な香木の香りとともに、整然とした書棚と研究器具の並ぶ室内。

魔法科の研究室らしい静けさが漂っていた。


「こちらへどうぞ」


ソファーに案内され腰を下ろすと、初老の女性――モニク先生が柔らかく笑った。


「武術科の先生から突然面会の申し込みが来たものだから、どんな方かと思っていたの。

まさかこんな若くて、しかもおきれいな先生だなんて」


「突然で申し訳ありません」


「いえいえ。たまには他の学科の若い先生とお話しするのも楽しいものよ。

今、お茶を入れるわね。ちょうどセイリン地方の香り高い茶葉が届いたの」


すぐに使用人が香り立つお茶を運んできた。


琥珀色の液体がゆるやかに揺れ、湯気が優しく立ち上る。


サティエルは一口飲み、微笑む。


「とてもいい香りです。それに深みもあって美味しいですね」


「やっぱり、あなた貴族でしょう? その所作と話し方、どう見てもね。

けれど社交界では見た覚えがないわ」


「貴族ではありません」


「へぇ……なるほど。表向きは、ね?」


モニクは意味ありげに目を細めた。


「でも、その若さで教師になれて、その立ち居振る舞い。

どこをどう見ても貴族育ちでしょ。

しかもグランフェルト家の推薦で来たと聞いたわ。

今ごろ第二王子派の先生たちが、あなたの素性を嗅ぎまわってるでしょうね。気をつけて」


やはり、学内ではそういうことに気をつけねばならないのかと思いつつも、サティエルは軽く頷くだけで答えた。


「それで、今日は何のご用かしら?」


やっと本題に入れた、と内心で息を整える。


「この前の公開講座を拝聴して、魔導文字を刻んだ魔石の魔導具の入手についてお聞きしたいと思いまして」


「あら、あの講座を聞いてくれたのね。嬉しいわ」


モニクは楽しげに頷くと、少し身を乗り出した。


「実はね、私、昔から“魔法と気功の両方を扱える戦士”――いわゆる魔法戦士に憧れているの」


もしかして自分のことを探っている?そんな思いもあったが、平静を保ち真意を探る。


「魔法戦士、ですか? 実在するんですか?」


「いないわよ」


あっさり言い切るモニクに、サティエルは思わず目を瞬かせた。


「私は気功を身につけられなかったけど、魔導具を使えば気功術士でも魔法を扱えるでしょう?

それって立派な魔法戦士じゃない。あなた、やってみない?」


予想外の提案に、サティエルは一瞬言葉を失う。


だが――この話に乗ったほうが、こそこそと自分で準備するよりも、堂々と魔法を使えるのではないか。

そう考えると、悪くない。

いや、むしろ好ましい展開だ。


「……いいかもしれませんね」


「でしょ? じゃあ決まりね。あなた、私の授業《魔法と魔法陣》を受けなさい」


「そこからですか? 完成した魔導具を使って、魔法戦士を試すというのでは?」


「ダメね」


モニクはにこりと笑うが、目だけは鋭い。


「魔導具を使いこなすには、魔法そのものの特性を理解していなきゃ危険よ。

自分で使いたい魔法を選んで、それを魔法陣にできるようになって初めて“応用”ができるの」


なるほど……理屈はわかるけど、これは……押しが強い。


「若いうちに学ぶのが一番なのよ」とモニクは続ける。


「今は必要なくても、基礎を知っていれば、将来必ず役立つわ。

魔導具を使いたいなら、魔法の知識は絶対に必要。

機会があるうちに学んでおくべきよ」


サティエルは黙って聞いていたが、やがて小さく息を吐いた。


確かに、アルティマータの習得に集中していたせいで、一般的な魔法理論や魔法陣の知識に欠けている部分がある。

それに、魔法陣を扱えるようになれば、逆行の魔導具の仕組みも少しは理解できるかもしれない……。


「わかりました。受けてみます」


「いい返事ね」


モニクは満足そうに頷くと、すぐさま机の上の書類をまとめ始めた。


「では、あなたを私の研究協力者として登録するわ。

特別聴講生として、私の授業に出席してちょうだい」


「協力者……ですか?」


「ええ。本当は武術科の学生に魔導具を使わせてみるつもりだったけど、

先生のほうが話が早いわ。代わりに、こちらも全面的にバックアップしてあげる。悪い話じゃないでしょ?」


やっぱり……自分の研究目的なのでは......。


「まあ、そうですね……」


「それと、授業のときは学生服を着てきて。あなたなら違和感ないもの」


モニクが手を叩くと、従者が入ってきてサティエルの身体を計測し始めた。

一連の流れがあまりに自然で、断る隙すらない。


「ただ、まったく魔法の知識がない状態だと授業についていけないでしょうから、

しばらくはここで基礎を学んでもらうわね」


そう言って、一冊の分厚い本を手渡してくる。


『魔法の基礎理論・初級編』と刻まれた表紙を、サティエルは軽くめくってみた。


「これくらいなら、わかります」


「えっ……そうなの?」


モニクの眉がぴくりと動く。


興味を惹かれたのか、次々と質問を投げかけてくるモニク。


サティエルはそれらに落ち着いて答えていった。


やがてモニクは、感嘆の息を漏らした。


「本当に基礎はできてるのね。魔法陣はまだ触れてないようだけど……。

ちょうど授業も初期段階だから、次回から出ても問題ないわね」


そう言って、もう一冊『魔法陣基礎』の本を差し出した。


「次の授業までに読んでおいてね」


完全にモニク先生のペースである。


だが、どうせ学ぶなら――しっかりやろう。

サティエルは小さく微笑み、差し出された本を受け取った。

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