第110話 図書館や他の授業
自分の受け持つ格闘術の授業にも目処が立ち、学生たちの信頼も得られたサティエルたちは、当初の目的――月への行き方を調べることに焦点を戻した。
向かったのは、ガルターニュ王国でも最大級の蔵書量を誇るリートス学園内にある大図書館。
高い天井と光を通すアーチ窓、書架の並ぶ大広間には、古紙とインクの匂いが満ちている。
だが、これほどの蔵書がある分、目的の本を探すのは途方もない作業だった。
もちろん、「月への行き方」と題された本など存在しない。
もしそんなものがあるなら、人類はすでに月を往来しているはずだ。
だから探すのは、それらしい手がかりのある本――
たとえば「月」や「ムーンゲート」に関する記録、
月の住人とされるルーナ人やモアネ人、
あるいは彼らが残したとされる古代遺跡や、古代ルーナ語や古代モアネ語で書かれたその文明に関する研究書などだ。
さらに厄介なのは、図書館の本が整然と分類されていないことだった。
各学科が購入、あるいは独自に執筆した本をそのまま学科別の棚に置いているため、体系性がない。
入手順に雑然と並んでいる棚もあれば、「誰々からの寄贈書」と書かれた一角もある。
――つまり、目的の本を見つけるには、地道な探索を繰り返すしかないのだ。
そんなわけで、サティエルたちは空いた時間を見つけては図書館を訪れ、
分厚い書物を手に取り、埃を払いながら一冊ずつ調べるという、根気のいる作業を続けていた。
同時にサティエル――いや、サティシアとしては、
この学園でどのような魔法の授業が行われているのかにも興味があった。
臨時教師をしているオフィーリアから、魔法科の様子を詳しく聞くことにする。
「ねぇオフィーリア、魔法科の授業ってどんなのがあるの?」
「そうねぇ……。水、火、風、土――各属性ごとに分かれていて、
初級・中級・上級って段階がある感じかしら。
上級クラスになると、先生の数が足りなくて全部の属性はそろっていないけどね」
「へぇ、私も上級魔法を習ってみたいな」
「サティエル、あなた……《ストームエッジ》や《ウォーターフォール》なんかの上級魔法を普通に使ってたじゃない。
それに、もっととんでもない魔法も。今さら授業で習うことなんてないと思うけど」
「えっ!? 私の本では《ストームエッジ》や《ウォーターフォール》は“中級魔法”って書いてあったけど?」
「一般的には上級魔法よ。
あなたの本には、それより上の魔法も載っているって事でしょ。
それは普通の魔法書じゃないわよ......。
この学園では、それ以上の魔法は授業では教えないわ。
学ぶには、魔法士団か、名のある魔法研究者に弟子入りするしかないわね」
「そうなの……残念だなぁ」
サティエルが肩をすくめると、オフィーリアは少し微笑んだ。
確かにサティエルの魔法書は名のある魔法研究者が残したもの。
この学校ではそれ以上を望むのは無理ということを受け入れた。
「ああ、そういえば――魔法科のモニク先生が“公開講座”を開くみたい。
題目は『魔導文字を用いた魔導具の可能性と無詠唱魔法への応用』。
ちょっと専門外だけど、面白そうだから私も出てみようと思ってるの。
サティエルもどう?」
「うん、私も行く!」
サティエルの目がわずかに輝いた。
――無詠唱魔法。
自分も使えはするが、発動できるのは簡単な魔法だけだ。
学べる機会があるなら、ぜひ参加したい。
それに、月へ行くためには逆行の魔導具を修理するか、作り直す必要がある。
となれば、“魔導具”の知識を学ぼうと考えるのは、ごく自然な流れだった。




