第109話 ガツンとやってみた2
マクシムが宙を舞い学生たちがドン引きしている中、
その沈黙を破るように、一人が前へ出た。
バティスト――剣術の授業でサティエルと手合わせした少年だ。
「先生、俺も体験させてください」
「ええ。全力でお願いします」
バティストは気功を最大まで高め、足元の砂を巻き上げながら構えた。
前回の剣術の時の彼女とは違う。今度は“格闘術のサティエル”を見たい。
「――《旋風脚》!」
疾風のような回転蹴りが放たれる。
しかしその蹴りもまた、サティエルの掌に受け止められ――
一瞬の間に、体が浮き上がる。
ドン、と鈍い音。
次の瞬間、バティストもまた地面に叩きつけられていた。
「ぐっ……はぁ……」
なんだ!?今の感覚。自分も投げられたのだろうと直感する。
しかし、何が起こったのかまるでわからない。全力での蹴りがいとも簡単にあしらわれたことで改めてサティエルの強さを認識するのだった。
「セレネ、治療をお願い」
「サティエル、早いです! まだこの子の治療が終わってません!」
「ごめん、バティスト君、ちょっと待ってね」
学生たちは完全に言葉を失っていた。
けれど、好奇心と恐れの混じった視線が次々とサティエルに向けられる。
それでも二人――ロザリーとポールが勇気を出して前へ出た。
その二人も軽く投げ飛ばされる。
「これで、《柔気流気功術》がどういうものか、分かってもらえたと思います。
投げられたとき、きちんと受け身が取れれば――今のようなダメージは受けません。
実戦では、受け身ができるかどうかで生死が分かれることもあります。
だから、ぜひ身につけてください」
その穏やかな声に、学生たちの表情が変わっていく。
先ほどまでの冷ややかな視線は消え、そこにあったのは尊敬と憧れ。
――彼らは初めて理解した。
この先生は、本物の達人なのだと。
授業後。
練習場の片隅で、マクシムとバティストが話し込んでいた。
二人とも、まだ体の奥に残る衝撃を感じながら。
「……バティスト。お前が“あの先生はただ者じゃない”って言った意味、よく分かったよ」
「だろ? 剣術のときもそうだったけど……本当に強い。
正直に言えば、俺の親父より強いと思う」
「お前の親父って……ガルターニュ十剣のひとりだろ? それよりも、か!?」
「ああ。だけど、俺程度じゃ先生の強さを測り切れない。次元が違う」
「なるほどな。……にしても、この授業を取って正解だったな。
強くなれそうだし、なにより――先生が美人だから、やる気が出るぜ」
「確かにな。どこかのお姫様って言われた方が、しっくりくる」
「ああ、その通りだ。……もうすでに、良からぬことを考えてる奴もいそうだな」
「だな。……なあ、マクシム。俺たちで先生を守らないか?」
「守る? どういうことだ?」
「この学園、身分の高い貴族の子も多いだろ?
先生にちょっかいかけるようなやつが出てくるかもしれん。
そういう連中を、俺たちの方で牽制するんだ。陰から先生を守るんだ」
マクシムは思わず吹き出した。
「……“先生に手出しさせない会”とか言い出すなよ」
「ネーミングはともかく、そういうことだ」
二人は顔を見合わせ、笑った。
だが、目には本気の光が宿っている。
こうして――
「サティエル先生を陰から守る会」が、密かに結成された。
その判断は、まさしく英断だった。
なにせ、もし誰かがサティエルを本気で怒らせたなら――
被害は、その一人どころか、学園ごと、国ごと消し飛ぶ可能性があるのだから。
こうしてサティエルの“体験授業”は、学生たちの信頼を勝ち取る結果となった。
この日を機に、《柔気流気功術》の授業は一変する。
もはや、柔気流気功術の強さを疑う者はいなかった。
それ以降の授業は、バティスト達の協力もあって驚くほどスムーズに進み、
誰もが熱心に“柔気流気功術”を学ぶようになるのだった。
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