第107話 微妙な反応
二回目の授業の日。
今日から、サティエルが本格的に指導を行う。
出席を取り、助手のシルヴィアとセレネを学生たちに紹介する。
ざわつく空気の中、サティエルが一歩前へ出た。
「今回は初めての授業なので、《柔気流気功術》がどんなものか見てもらいます。
まずは、さわりだけ――実演します」
呼び出されたシルヴィアが前に出て構える。
二人は《気功鎧》を展開し、互いに軽く礼をした。
サティエルの合図とともに、シルヴィアが素早く踏み込み拳を放つ。
その拳をサティエルが掌で受けた瞬間――
シルヴィアの体が宙を舞い、サティエルの背後に倒れこんだ。
「……!?」
何が起こったのか、学生たちは理解できずに目を見開く。
サティエルは表情一つ変えず、シルヴィアを起き上がらせる。
もう一度。
シルヴィアが踏み込み、今度は蹴りを放つ。
サティエルはそれを避けると同時に、脚を軽く掴む――次の瞬間、またも宙を舞うシルヴィア。
完璧な受け身を取り、静かに立ち上がった。
「今の……何だ?」
「ただの演技じゃないのか?」
「人って、あんな簡単に投げられるのか?」
ざわつく学生たち。
多くのものが芝居じみた演出だと疑った。
マクシムが小さく息を吐く。
「……あんなものを一年も習うのか」
その横で、バティストが首を振った。
「違う。あの先生はただ者じゃない。今の動きには何か意味があるはずだ」
実はバティストもそう言いながら、演技を見せられているのではないかと疑っている部分もあった。
「お前、あの先生を知ってるのか?」
「前回、お前が休んだ剣術の授業で手合わせした。……信じられないほど強い」
「そうなのか……でも、正直、あれはちょっと怪しいぞ」
バティストは反論できなかった。
彼は“先生をかばいたがったが、それをどう説明すればいいのか言葉が出ない。
サティエルはそんな学生たちを前に、穏やかに微笑んだ。
「これが《柔気流》の投げ技です。投げられた後は、きちんと受け身を取ることが大切。
ですから次回からは、投げる練習の前に“受け身”を中心にやっていきます」
彼女の静かな声が響く。学生たちはやや困惑したな顔つきをしているのだった。
授業を終えたあと、サティエルたちは自室に戻り、シルヴィアとセレネと感想を話し合っていた。
「今日の授業、一応、学生は言うこと聞いてくれたけど……反応はいまいちだったね」
「そうだね。受け身の練習って、見た目が地味だからかも」
「うーん……。受け身の重要性を、まだ分かってもらえてないのかな」
三人はそんな風に意見を出し合いながら、授業の改善策を考えていた。
翌日。
相談係のエステル先生が、少し気まずそうな表情で部屋を訪れた。
「サティエル先生……昨日の授業ですが、ちょっと学生の評判が良くないようでして」
「……そうなのですか?」
直接、サティエルのもとに苦情が届いたわけではない。
だが、どうやら別ルートを通して、上の方に報告が入っているらしい。
「どんなところがダメだったんでしょうか?」
「そうですねぇ……“格闘術を習いたいのに、よくわからないことをやらされる”とか、“強くなりたいのに、あんなの習っても意味がない”って意見が多かったですね」
“多かった”ということは、それなりの人数が文句を言いに行ったということだ。
サティエルは少しだけ眉をひそめた。
……ちょっとまずいかも。
沈黙するサティエルに、エステルが控えめに尋ねた。
「あの、どんな授業をされたんですか?」
「投げ技を見せて、それを受ける練習をしたんですけど……」
「投げ技、ですか。なるほど……」
エステルは腕を組んで少し考え込む。
「私は格闘術には詳しくないですが、その技を教えたいなら、まず“どう役立つのか”有用性を説明した方がいいかもしれませんね。学生たちも納得しやすいでしょうし」
「わかりました。考えてみます。ご助言ありがとうございます」
エステルが去ると、三人は再び集まって話し合った。
シルヴィアが真っ先に切り出す。
「有用性とか言ってたけど、どうするサティエル?」
「うん――ガツンとやっちゃおう」
「えっ、どうするつもり?」
「私の投げ技を“体験”してもらうの」
「……大丈夫かな、それ」
「怪我したらセレネに治してもらうから。いいよね?」
「まぁ、構いませんけど……ほどほどにしてくださいね」
「もちろん!」
セレネは苦笑し、シルヴィアはため息をついた。
どうやら、次の授業は少し波乱の予感である。




