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見捨てられた姫様は国を亡ぼす資格があるらしい  作者: サチオウ
リートス学園・指導と求知

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第104話 初出勤

初出勤の朝。


寮では、オフィーリアが鏡の前で髪を整え、服の皺を丁寧に直していた。

その姿を見て、シルヴィアとセレネは顔を見合わせ、すぐにサティエルの身なりを整え始める。


「ちょっと、年齢が高めに見えるようにしないと舐められちゃいそうね」


「平気だよ。格闘術の先生だから、ガツンとやれば大丈夫」


「まあ、そうかもしれないけど……。あとは男の子たちから人気が出そうだから気をつけてね」


「そうなの? ガツンとやれば大丈夫でしょ」


「全部ガツンとやるのもどうかと思うけど……」


「あはは、そこらへんはどうにでもなるから大丈夫だよ」


「……そうかもね」


確かに、サティエルほどの実力があれば、やろうと思えば何でも力ずくで押し通せる。


だが、そうならないように――自分たちがブレーキ役になるしかない。

シルヴィアはそんな風に思いながら、サティエルの襟元を整えた。


寮を出て校舎に着くと、まず事務所に寄って簡単な説明を受ける。


その後、サティエルとオフィーリアは別々の場所へ向かった。


サティエルが向かったのは武術科の職員棟。


格闘術のほか、剣術、槍術、弓術、棍棒メイス術、長柄武器ハルバード術――

武術系の授業を担当する教師たちの拠点だ。


職員棟のミーティングルームに入ると、数人の視線が一斉に集まった。


だが、サティエルは物怖じせず、そのまま武術科主任のマルスランのもとへ進む。


「おう、来たか。みんな、こっちに注目してくれ」


マルスランの声に、部屋のざわめきが静まる。


「新しく入った臨時教師のサティエルだ」


「格闘術の臨時教師となりましたサティエルです。


こちらは助手のシルヴィアとセレネです。よろしくお願いします」


「「「よろしく」」」


と一斉に返事が返る。だがその直後、小声のつぶやきも聞こえてきた。


「ずいぶん若いな……」「美人すぎる」「どこの家の娘だ?」

――好奇の混じった視線が刺さる。


サティエルは特に気にする様子もなく、静かに頭を下げた。


武術科の教員はサティエルを含めて十人ほど。

助手を入れると二十人を超える。


朝のミーティングは新人紹介のために全員が集まっていたが、

普段はそれぞれが個室で研究や準備をしているらしい。


挨拶を終えると、若くて同性という理由で弓術担当のエステル先生が、

サティエルの相談係に指名された。


必要があれば主任のマルスランにも直接相談して構わないとのことだった。


ミーティング後、マルスランに連れられて小さな会議室へ移動する。

ここで武術科の規則や授業の仕組み、時間割などの説明を受けた。


授業は一日おきの週三コマ。


この学園は七日を一週間とし、そのうち六日が勤務日――思ったよりも余裕がある。


授業がない時間は、研究や鍛錬、学内の見回りなどの雑務を行うという。


一通り説明を受けた後、サティエルが質問した。


「他の先生の授業を見ることはできますか?」


「そうだな。見学するのは構わん。勉強になる。

授業を受けたい場合は、俺に言ってくれれば手続きを取る」


武術科の授業には、剣術・槍術など多くの種類がある。


教員でも授業を受けられるというのは朗報だった。


「ありがとうございます。魔術や天文学の授業も見てみたいのですが……」


「ん? 他の学科か。それは少し難しいな。なぜ受けたいんだ?」


「興味があるからです。本当は、学生としてこの学園で学びたかったので……」


「なるほどな。なら、担当教員に直接話してみろ。

事務所に届けを出せば、面会日を調整してもらえるだろう。拒否されるかもしれんがな」


「わかりました」


「そういえば“公開講座”というものもあるぞ。

研究成果を分かりやすく発表してくれる場で、他学科でも参加できる。

興味があるなら、そっちも覗いてみるといい」


「ありがとうございます。ぜひそうします」


マルスランは「そうだ、大事なことを忘れてた」と言って、資料を手渡した。


「格闘術は今まで代理で俺が教えていた。これが学生の情報だ。

能力評価や指導メモが載ってる。確認しておけ」


「ありがとうございます」


「最初は俺も授業に立ち会う。慣れたら好きなように教えていい。

成果を出せば、誰も文句は言わん」


「わかりました」


説明を終え、自室へ戻る。授業は明日から。


今日は他の先生の授業を見学しようと考えていたところ、ノックの音がした。


ドアを開けると、二人の教師が立っていた。


一人は相談係のエステル先生、もう一人は若い剣術教師のアラン。


エルネスタの記憶を探っても、アランの名はない。

私がいた頃にはいなかった先生ね。就任はその後か.


「相談係にもなったし、話を聞こうと思って来たの。

ついでに年の近いアラン先生も連れてきたわ。

サティエル、見た目若いけど私たちと同じ二十代よね?」


えっ、上に見られてる?

少し返答に迷っていると、エステルが顔をぐっと近づけてきた。


「あれ? もしかして十代なの?」


「はい、十三歳です」


「えええっーーー!?」


「エステル、声が大きい」


「ごめんなさい! 本当に?」


「はい」


「学生より若いじゃない!」


「本当は学生として編入しようと思ったんですけど、年齢が足りなくて……」


「それで教師になるって、さすがにおかしいでしょ」


「でも、教師には年齢制限がなかったみたいで」


「そんなことが……。納得いかないけど、まあいいわ。

でも学生は皆年上よ? ちゃんと教えられるの?」


「それは――相談係のエステルさんに相談すれば大丈夫じゃないですか?」


この軽口をたたけるのは、エルネスタとしての経験があるからだ。

三年間学園に通った記憶が、自然にサティエルを助けている。


「あら、思ったより余裕がありそうね。なら大丈夫ね」


「いえ、大丈夫じゃないです。どうすればいいか、教えてください」


「素直でいいわね。

……まあ最初からそのつもりで来たのよ。

まずはこのアランの剣術授業を見て、雰囲気を掴むのがおすすめ。

弓術だと格闘術と勝手が違いすぎるし」


「はい、ぜひ見せてください」


アランが笑う。


「おう、いいぞ。見て参考にしてくれ。

ただし、学生より強くないと教えるのは難しいぞ。そこは大丈夫か?」


「学生がドラゴン並みの強さじゃなければ大丈夫です」


「そんな学生いねーよ」


「じゃあ大丈夫です」


アランが吹き出す。

「ははっ、腕には自信ありってわけか。

それにその物怖じしない態度なら心配いらねぇな。

じゃあ後で授業を見に来い」


「はい、ありがとうございます」

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