第103話 別れと出会い
グランフェルト家に戻ると、サティエルは臨時教師として合格したことを報告した。
しかしそれは、初めから決まっていたかのようにすでに屋敷の使用人たちが準備を始めてくれていた。
学園で着る服、部屋の備品――どれも「グランフェルト家の推薦にふさわしいもの」を用意すると言われ、サティエルたちはしばらく屋敷に滞在することになった。
サティエルたちは、少し余裕ができたこともあり、
以前リシュエンヌに言われた通り――エルネスタの墓を訪ねることにした。
墓は近くのマルス教会の敷地内、グランフェルト家専用の礼拝堂にあった。
案内してくれた使用人に導かれ、中へと入る。
静寂の中、白い石棺の上に横たわるのは、生前のドレスをまとったエルネスタの彫像。
まるで眠るような穏やかな表情をしていた。
――家族に、大切にされていたのだな。
サティエル(エルネスタ)は胸の奥に温かいものを感じながら、どこか遠い他人を見るような、不思議な感覚にも包まれていた。
「私って……こんな顔だったかしら?」
心の中で小さくつぶやき、複雑な思いで像を見つめる。
花を捧げ、そっと膝をついて祈りを捧げた。
自分で自分の墓を参る――
なんとも奇妙なものだ。
信仰していたマルス教の教えでは、魂が他者の中に宿るなどありえない。
けれど、それでも自分はここサティシアの中にいる。
あの時、彼女が手を引いてくれたおかげだ。
だから――この命は、サティシアのために生きよう。
そう、改めて心に誓うエルネスタ。
だが、そのサティシアの想いは違っていた。
――あの時、死んだはずの私を、蘇らせてくれたのはエルネスタ。
だから、この体は二人のもの。だからどちらか一方のための人生であってほしくないのだ。
互いの想いは知っている。
けれど、なぜかその点だけは、どちらも譲らなかった。
* *
その後、学園への出勤が始まるまでの間に侯爵家からは学園や貴族社会の内情についても教えられた。
第一王子派、第二王子派、そして中立派――三つの勢力が学園にも及んでいるという。
第一王子派筆頭であるグランフェルト家の推薦を受けている以上、何らかの接触を受けるかもしないので注意しておくようアドバイスを受ける。
エルネスタとしての記憶を持つサティエルは、当時の学園でも派閥争いはあったから、対処法は心得ていた。
数日後、どこかへ出かけていたオフィーリアが戻ってきた。
「無事に合格したようね。おめでとう」
彼女はいつもの落ち着いた笑みを浮かべている。
「私は皆と一緒には行けないから、別行動を取ろうと思うの」
「ごめんね、オフィーリア。その間、私の監視はいいの?」
「その辺は大丈夫。冒険に出る時はまた同行するわ」
「その時、どこに連絡すればいい?」
「まだ住むところが決まってないから、後で知らせるわ」
「わかった」
「じゃあ、少し早いけど――ここで一旦お別れね」
「今までありがとう」
「ちょっとの間お別れするだけよ。じゃあ、またね」
オフィーリアは軽く手を振り、背を向けた。
その姿が門の外に消えるまで、サティエルは黙って見送っていた。
シルヴィアが不満げに口を開く。
「エルフにとって“ちょっとの間”って、どのくらいの感覚なのかしらね。
お別れの前に、一緒に食事くらいしたかったな」
「そうだね。それにしても、あっさりしてたね……」
少し寂しさの残る別れではあったが、学園へ持っていく荷物の準備は順調に進み、やがて出立の日が来た。
たくさんの荷物を馬車に積み込み、引っ越しの作業員も連れて学園の寮へ向かう。
寮ではちょうど隣の部屋でも荷物の搬入が行われており、廊下は人と箱でごった返していた。
そんな中、一人の声が響く。
「あれ、なんでサティエルたちがここにいるの?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには――オフィーリアがいた。
「……え?」
最初に反応したのはシルヴィアだった。
「それはこっちのセリフよ。なんであなたがここにいるの?」
オフィーリアは少し得意げに微笑む。
「ちょうどこの学園で、魔法の臨時教師の募集があったの。
サティエルを監視するのにちょうどいいと思ってね」
「……それを早く言いなさいよ。あっさりいなくなったと思ったら、そんなこと考えてたなんて」
「それで、そっちは?」
「年齢的に編入できなかったから、格闘術の臨時教師になったんだよ」
「ということは――同じ臨時教師ってわけね。
それに部屋は隣同士。ふふ、ちょうどいいじゃない。私も一緒の部屋にしてもらうわ」
「そうね。それがいい」
オフィーリアはエルフの助手を二人連れており、
最終的にサティエルたち三人と合わせて、六人で二部屋を使うことになった。
こうして、思いがけず再び集うことになった仲間たちは、
新しい学園での生活を――それぞれの思惑を胸に、静かに始めるのだった。




