第102話 まさかの結果
応接室へ案内され、サティエルたちはソファに腰を下ろした。
落ち着いた色調の調度品が並び、壁際には観葉植物――いかにも名門学園らしい整った空間だった。
マルスランが一枚の書類を取り出し、サティエルの前に差し出す。
「契約書だ。確認してくれ」
受け取って目を通したサティエルは、思わず声をあげた。
「……臨時教師?」
そこに記されていたのは、まぎれもなく――
『格闘術臨時教師 雇用契約書』の文字。
「おお、何を驚いている? 格闘術臨時教師に応募したんじゃなかったのか?」
「えっ……?」
意味が分からず、サティエルはシルヴィアとセレネと顔を見合わせる。
そんな話、聞いてないんだけど……?
その時、応接室の扉がノックされた。
「失礼いたします。緊急でグランフェルト家より、サティエル様にお手紙が届いております」
「……私に?」
サティエルが封筒を受け取り、軽く会釈する。
「失礼いたします。先に確認させていただきますね」
手紙を開くと、見覚えのあるエルネスタの父グランフェルト侯爵の筆跡が並んでいた。
侯爵は数日前から急用で王都の方に出かけており、サティエル達への連絡を忘れていたことに気が付き急遽手紙を送ってきたのだった。
書かれていた内容は、要約すると次の通りだった。
学生としての編入を考えていたが、年齢が足りなかった。
そこで、ちょうど欠員の出ていた格闘術の教師に推薦しておいた。
実力さえあれば年齢は問われないということなので、君なら大丈夫だろう。
ただし契約期間は年末まで。
教師であれば蔵書の閲覧や学者との面談も問題ないはず。
また、教師には二人まで助手をつけられる。二人を助手として登録すればよいだろう。
連絡が遅れたことを詫びる。
手紙を読み終えると、サティエル――いや、エルネスタの中で静かにため息が漏れた。
……こんな大事なことを今頃.....。早く伝えてよ。お父様。
表情には出さず、できるだけ冷静に振る舞う。
読み終えたことに気づいたマルスランが声をかけた。
「何か急用か?」
「いえ、問題ありません。先ほどの契約の件――格闘術の臨時教師で間違いありません。内容を確認させていただきます」
書類に目を通すと、臨時教師の契約期間は四月から十二月末まで。
リートス学園は暦と同じく一月から十二月が一年の単位になっており、およそ九か月の在籍になるようだ。
ただし、今は二月末――四月まで準備期間として約1カ月与えられている。
「問題ありません」
「では、助手を含めて署名してくれ」
サティエル、シルヴィア、セレネの三人は二通の契約書にサインをし、そのうち一通を受け取った。
「寮は今日から使える。後で案内しよう。――何か質問はあるか?」
「臨時教師としての心得や、学園の決まりについて教えていただけますか?」
「ああ、それは正式に仕事が始まる時に説明する。細かい規定もあるのでな」
「わかりました」
マルスランが立ち上がる。
「では、寮を案内する。ついてこい」
名門リートス学園の教師用寮は、外観からして重厚で、
内部も広く、磨き上げられた廊下がまっすぐに伸びていた。
サティエルたちが入るのは女性教師用の棟で、
マルスランが受付まで案内し、そこからは寮の管理人が部屋まで導いてくれた。
案内された部屋は、かなりの広さを持つ教師用の一室。
さらに隣に使用人用の部屋が併設されており、三人で生活するには十分な空間だった。
もっとも、サティエルたちの間には上下関係などないため、
三人で共用することにした。
家具や備品の確認を終えて戻ると、マルスランが口を開いた。
「仕事の開始は一か月後だ。それまでに生活の準備を整えておけ」
「わかりました」
手続きもすべて終わったようで、最後にそれぞれバッジが手渡される。
サティエルには教師用、シルヴィアとセレネには助手用のものだ。
「このバッジは学園の関係者である証だ。学内では必ず着用するように」
「承知しました」
こうして――サティエルの“入学試験”は思いがけない形で幕を閉じた。
彼女はまだ少し複雑な気持ちを抱えながらも、新しい生活の準備を整えるため、グランフェルト家へと戻るのだった。




