第66話◇敵
――『雷槌の結晶』
――【英雄】の前世を持つシュラッドより抽出した、力の結晶。
――所有者は『身体能力強化』『剣技強化』『対亜人攻撃強化』『対魔獣攻撃強化』『雷属性魔法習得』など複数の異能を使用可能となる。
――また、伝承再演も発動可能。
――希少度『S+』
「伝承再演――雷霆継承権」
空が輝き、空が鳴き、天より雷が降り注ぐ。
俺たちのとっての敵、聖騎士を討つべくして。
聖騎士だけでなく周辺の草木も焼け焦げ、煙を上げた。
「これでも生き残りはいるだろう。みんな、頼んだぞ」
仲間たちが飛び出し、敵に襲いかかる。
「これはシュラッドの……」
レヴィアンは目の前で起きたことが、兄の伝承再演だと気づいたようだ。
「遅れてしまったようで申し訳ない」
「……! 来てくれたのですね!」
彼女は俺たちの姿を見て瞳を輝かせる。
「遅ぇぞマーナルム!」
「黙れ! 貴様と約束した覚えはない!」
ネメアはマーナルムが来たことで嬉しそうだ。
「聖騎士には、うちの者が何度かお世話になったからねー……本気でいっちゃうよ」
「争いは好みませんが……貴方がたのように亜人を金儲けの道具としか見ていいない者たちは許せません」
「旦那様の敵とあれば、斬るのみですな」
劣勢から一転、こちらが優勢になる。
「くっ……! 楽園と手を組んだだと! レヴィアン、貴様はどれだけ貴族の誇りを踏みにじれば気が済む!」
大きな盾を持った赤髪短髪の聖騎士、敵の隊長と思しき男が叫ぶが……。
「黙りなさいブロックス! 神より授かった力を、世の為に振るって何が悪いというのです!」
「わかっているのか! その者はシュラッド殿を……貴様の兄を廃人にした男なのだぞ!」
「愚兄を処分して頂き感謝こそすれ、恨みなど持ちようがありましょうか!」
レヴィアンと斬り結んでいる男には、どこか見覚えがある。
最初の一撃で倒れた者もいるようだが、立ち上がって戦う者もそれなりにいた。
一定量のダメージを軽減する『衝撃代理負担の腕輪』だけではあの魔法は防げない。
制服か、何者かの異能によるものか。
――『ブロックス』
――人間。
――【守護者】の前世を持ち、『身体能力強化』『防御力強化』『盾術強化』『防衛戦時全能力強化』『土属性習得』など複数の異能を持つ。
――特記事項・伝承再演習得者。
――希少度『S』
名前は知らなかったが、どこで見たかは思い出せた。
かつてのシュラッドの部下だ。
シュラッドもそうだが、悪行に手を染めているからといって、努力を怠るとは限らない。
この世には研鑽を忘れない悪人というものがいるのだ。
堕落し、正義の味方に倒されるだけに存在する悪役ばかりではない。
「思うに、貴殿の伝承再演によって、配下たちは雷槌を受けても戦い続けられるのではないか?」
「――ッ!?」
「その通りです! この者の伝承再演は不落堅軍守護隊! 味方に鉄壁の守りを授ける魔法です!」
シュラッドも同じだが、五年前は使えなかった魔法だ。
「……その通りだ。私がついていれば、シュラッド殿が貴様らのような賊に敗北することはなかった!」
何か事情があって、あの戦いには参加できなかったのか。
参加していればしていたで、ハーティがその未来を読み、俺たちは対策を講じただろうが……。
見れば、仲間たちは戦いを有利に進めつつも、決め手に欠けているようだ。
敵の防御力が極めて高くなっているからだろう。
クリアの不可視化からの首への一撃さえ、薄皮が一枚裂けるだけで致命傷には至らなかった。
驚異的な性能上昇だ。
「なるほど、素晴らしい」
俺が笑みを浮かべたことに、ブロックスが怪訝な顔をする。
「な、なんだと……?」
よくないクセだとは思うのだが、こればかりは前世の所為で染み付いた衝動なので仕方がない。
俺は思ってしまった。
その力が欲しい、と。
「その力があっても、あの日の結末は変えられなかったのだと、貴殿に教えて差し上げよう」
「賊が何を――」
「伝承再演――」
「なッ……!?」
「嘘……」
ブロックスだけでなく、レヴィアンまでも驚愕に目を見開く。
伝承再演とは、前世と現世二つの力を調和させ、編み出す新たなる魔法。
つまり、よほどの例外を除き、使用者は王侯貴族に連なる者ということになる。
「――天庭宝物庫仮象大展覧」
仲間たちと俺の蒐集品が全て淡く輝き、その性能が引き上げられる。
伝承再演の発動には膨大な魔力と精神力を消耗する。
それは結晶化したシュラッドの力であっても、同じこと。
雷霆継承権の方が役立つかと思い優先的に発動したが、ブロックスの伝承再演によって効力が減じてしまった。
ならば仕方がない。
更なる消耗を覚悟で、自らの力を行使するのみ。
マーナルムの毛髪がぶわりと舞い、彼女から発生した輝く爪が敵を切り裂く。
クエレの凍てつく息吹によって敵が氷像と化す。
エイールの植物魔法は敵から生命力を吸い出し、瞬時にミイラへと変えた。
ブランの複数の分身による連続攻撃により、小さなダメージが蓄積し、やがて致命傷へと至る。
クリアの透明化は透過能力へと昇華され、敵の身体を透過し心臓だけをナイフで貫くことに成功する。
「なんだこれは……なんなのだこれは……!」
「魔女めが……仲間の仇……!」
ブロックスが叫び、聖騎士の一人が俺に向かってくる。
俺は聖剣を引き抜き、すれ違いざま、敵の得物ごとその半身を上下に両断した。
破格の切れ味を誇る兄の聖剣が、俺の伝承再演で更に格が上がっているのだ。
最早、この世に斬れぬものなどない。
「ブロックス隊長……」
地面に落ちた聖騎士の上半身、その口がブロックスの名を呼んだ。
こいつが、ブロックスの最後の部下だった。
他は全員、俺の仲間と神聖騎士団の手によって命を落としている。
「あ、有り得ない。貴様は一体何者なんだ……!」
「敵だろう? それ以外に何を知るべきだというんだ」




