第62話◇自慢
「主殿、例の貴族から、パーティーの誘いが来たようです」
マーナルムが招待状を持ってやってくる。
世に複数ある偽の身分宛に届いたものは、定期的に仲間が回収し、俺のもとへ届けられるのだ。
先日、エイールの娘たちを落札した際に遭遇した貴族が、本当に招待状を送ってきたらしい。
「そうか、ありがとう」
「希少種を見せ合うという趣旨ならば、私が同行いたします」
マーナルムには、先日の件も伝えてある。
例の貴族に憤り、やはり自分も同行すればよかったと言っていた。
「ははは、俺もマーナルムに頼むつもりだったよ」
俺が微笑んでそう言うと、マーナルムが尻尾をパタパタと揺らした。
「クエレとエイール殿も立候補していますが、いかがしましょう」
「今回、ハーティの未来視は使わない。ここのところ頼り切りだったからな。そうなると、戦力になりそうなメンバーは連れていきたい」
マーナルムも妹が心配だったのか、俺の言葉に頷いた。
「私一人で充分と言いたいところですが、そういうことでしたら二人は最適でしょう」
仲間に迎えたあと、エイールが魔法を使うところを見せてもらったが、かなりの手練だった。
「それと、クリアも連れて行こうと思う」
彼女は希少種族ではないが、その透明化能力は戦力になる。
「そう、ですね……」
マーナルムは複雑そうな顔をした。
実力的には問題ないので否定できないが、気に入らないという表情だ。
「無理に仲良くする必要はないぞ」
「奴が嫌いなわけではありません。しかし、主殿への態度が一向に改善されないのが許せないのです!」
「あいつはあいつなりに、仲間を大切に思っているさ」
「主殿はお優しすぎます!」
「それはマーナルムだろう。クリアに対しての苦言も、全ては俺の為なんだから」
「わ、私は別に……。と、とにかく、奴にも声をかけておきます」
「見つからなかったら、ブランを頼るといい」
「問題ありません。最悪、匂いで探し出します」
透明になっても匂いは消えない。
「と、ところで、主殿」
「どうした?」
「その……先日の醜態ですが、どうか忘れて頂けると」
エイールに妻と勘違いされたあと、マーナルムはしばらく照れたままだった。
冷静になってから、居た堪れなくなっていたらしい。
「醜態とは思わない。むしろ、憎からず思われているのだと嬉しくなったよ」
「なっ、なっ。あ、あまりからかわないでください」
「お前はいつも、俺の決断を尊重してくれる。だが、次の決断はどうかな」
「主殿が間違えた際は止めるつもりでおります。なによりも、主殿の為に」
「では、止められないことを祈るよ」
「は、はぁ。その、どのようなご決断を?」
「それは秘密だ」
実は先日のことがあってから色々考えたのだ。
元々、いずれ決断せねばとは思っていたので、あれがいい契機になった。
マーナルムは気になるようだが、それ以上食い下がることはなかった。
「ひとまず、パーティーに集中しよう」
「ハッ。悪しき貴族に囚われし黒角兎族の少女を、我らの手で救い出しましょう」
◇
パーティー当日。
着飾ったマーナルム、クエレ、エイールは美しかった。
「くっ、何故このような装束を身につけなければならないのだ」
「どう族長様? 似合ってる?」
「やはり、人族の衣類は仕立てが素晴らしいですね」
「三人とも、よく似合ってるぞ」
マーナルムとエイールは赤面し、クエレが「やたーっ」と飛び跳ねる。
「シュノンも行きたかったです!」
シュノンが頬を膨らませる。
「すまんな」
「みんなを着飾るのも楽しいですけど、パーティーも出たいです!」
「それなら、この一件のあとに、みんなを集めてパーティーを開こうか」
「約束ですね?」
「ああ」
「ふっふっふ、最高のパーティーを開いてみせます」
シュノンが元気になったのなら、よかった。
「あんたらって、いつも呑気だよね」
珍しく姿を現したのは、元暗殺者のクリアだ。
彼女の得物は、俺が先日贈った『血に飢えた短剣』に変わっている。
「お前も出席してくれよ。シュノンが悲しむ」
「へぇ。あんたは?」
「もちろん、お前がいてくれた方が嬉しいさ」
「あっそ……考えとくよ」
それだけ言うと、クリアは姿を消してしまった。
楽園のメンバーが地上に下りる手段はいくつかあるが、最も多用するのは飛竜の背に乗って人気の少ないところへ着陸するという方法だ。
そのあとは基本、徒歩なのだが、今日は街で活動する仲間が馬車を手配してくれた。
仲間たちと地上に降りてから、馬車でパーティー会場に向かう。
会場は、例の貴族の邸宅だった。
広い前庭を抜け、馬車から降りると、他にも大勢の客が招かれているようだった。
警備兵に招待状を確認され、中へ通される。
ちなみに武器の持ち込みは許されない為、兄から譲り受けた聖剣は『収納上手な革袋』に仕舞っておいた。
これならば必要に応じて取り出すことができる。
馬車から降りた時から他の招待客たちからの視線はあったが、会場に入った瞬間にその数倍に匹敵する視線がこちらへ集まる。
俺は『薄影の仮面』を着用しているが、今日の三人は種族的特徴を余すことなく晒している。
希少種の美女たちを美しい衣装が彩っているのだ。
視線が吸い寄せられるのも無理からぬことと言えた。
羨望と嫉妬の集中砲火を浴びながらも、俺は視線を巡らせる。
すぐに招待客の中から例の貴族を見つけ、近づいていく。
「……本日はお招き頂き、ありがとうございます」
「――――き、貴様。まさか、後ろに連れているのは……」
「『白銀狼族』のマーナルム、『蒼翼竜族』のクエレ、『緑精霊族』のエイールです」
「ぜ、前回の双子以外にも、これだけ『八大幻想種』を持っていたのか……」
「自慢の仲間です」
こちらが三種もの『八大幻想種』を連れて来るとは思っていなかったのか、貴族の男が動揺している。
「ず、随分な幸運に恵まれたな」
「恐縮です」
「だ、だが、希少種だけが全てではない。特別に、私のコレクションを見せてやろう」
なんとしてでも、プライドを保ちたいようだ。
「光栄です」
こちらとしてはありがたい。
第一目標はファレンだが、他に不当な扱いをされている奴隷たちがいれば、同じようにここから連れ出すつもりだ。
また、もののついでに、魔法具の類などがあれば頂いていこうとも思っている。
楽園は正義の味方ではない。
ただ俺の蒐集に、みんなが付き合ってくれているだけだ。
その過程で、救われる者もいるというだけ。
さて、私室なり宝物庫なり、秘蔵のコレクションのあるところへ案内してもらおうとしたその時だった。
「主殿――」
「誰か来るみたいだね」
「戦いの音がします」
マーナルム、クエレ、エイールの三人が何かに気付いたようだ。
数秒遅れて会場への扉が蹴り開かれ、純白の制服に身を包んだ複数の女性剣士が突入してきた。




