表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と魔性と魔宝の楽園~追放された転生貴族の自由気ままな【蒐集家】生活。ハズレ前世に目覚めた少年は、異世界で聖剣もモフモフも自分の城も手に入れる~  作者: 御鷹穂積
第二部・第三章◇三番目の八大幻想種

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/68

第60話◇お父さん





 その()の競りも無事終了し、商品の引き取りに向かおうとした時。


「おめでとう」


 と、キザ男が声を掛けてきた。

 無理に湛えた笑みが痛々しい。


「ありがとうございます」


 偽りでも友好的な態度をとられている以上、こちらも笑顔で応じる。


「しかし随分と無茶をしたものだな。まぁ、原因は私にあるわけだが」


「五万で引いて頂いて助かりました」


 俺の言葉に、キザ男の顔が痙攣する。


「は、はは。今回は勝ちを譲ってやるとも。次回も来てくれよ? 私も、負けっぱなしで終わるわけにはいかないからね」


「是非」


 目の前の男よりも、隣で陰鬱な表情を浮かべる美女が可哀想でならない。

 俺の視線に気付いたのか、男がニヤニヤ笑う。


「ん? あぁ、これが気になるかね。貴様が今日競り落とした緑精霊族に並ぶ、『八大幻想種』の一種だ」


「黒角兎族ですか。目にするのは初めてです」


 嫌悪感を表に出さずに話すくらいのことは、エクスダン家に引き取られてすぐ覚えた。


「そうだろう! こいつらは臆病で中々巣から出てこないようでな。これも、たまたま人里に降りてきたところをどこぞの傭兵が捕まえ、それが奴隷商人に流れ、私のもとへ来たのだ。しかし、幸運を齎すというのは嘘だな。何の役にも立たん!」


 それは、ファレンが不幸を感じているから、異能(スキル)の効果が発揮されていないだけだ。


 しかし真贋審美眼のない彼には、知り得ないこと。わざわざ口にする必要もないのだが……。


 男はファレンのウサ耳を取っ手か何かのように掴み、引っ張った。

 ファレンは慣れているのか、苦痛を堪えるように唇を噛むだけ。


「……せっかくの希少種です。大切にされては?」


 俺の言葉に、男は唾棄するように顔を歪めた。


「ん? あぁ、貴様はそういうタイプか。貴族にもいるんだよ、使用人にも親しく接してやるような輩が。この世には分際というものがあるのだから、我々貴種はそれを教えてやるべきであって、境界線を曖昧にするなど愚かの極みだ。下々が増長したらどうするのだ」


「なるほど、そのようなお考えなのですね」


 吐き気がするが、なんとか堪える。

 こいつにとっては俺との会話も『話しかけてやっている』というスタンスなのだろう。


「まぁいい。考え方はどうあれ、貴様とは趣味が合いそうだ。今度、互いのコレクションを見せ合わないか?」


 今日俺に競り負けたことで傷ついたプライドを、なんとか回復したいのか。

 自分のコレクションを見せつけ、俺に負けたと言わせることで自尊心を取り戻したいのだ。


 なんともくだらないが、しかし申し出は非常にありがたい。


「ありがたいお申し出です」


 俺はこの近くに持っている屋敷の住所を伝える。

 楽園は世界各地の土地や物件を保有しており、作戦拠点や隠れ家、偽の身分に利用している。


「その際は、あの緑精霊族二匹も連れて来るのだぞ」


 言いたいことだけ言うと、男はこちらの横を通り抜けて行った。


 少し遅れて、ファレンが続く。

 すれ違う瞬間、俺は『薄影の仮面』を押し上げ、男に聞こえない声でファレンに囁きかける。


「故郷に帰してやるから、少し待っていてくれ」


「……!」


 ファレンが一瞬立ち止まった。


「おい! 何をしている」


 だが何か声を発するよりも主人に怒鳴られ、慌てて彼を追いかける。


「旦那様は忍耐力がお有りですな」


「ブランがいつ剣を抜かないか心配だったよ」


「ほっほっほ。確かに不愉快な男でしたが、この場で斬るほどでは。マーナルム殿だったら、危なかったかもしれませんな」


「本当にな」


 俺とブランは軽く笑いあった。


「……あの娘にも、手を差し伸べるのですね」


 エイールが小さな声で言う。


「望んで奴隷になったわけではなさそうだからな。故郷に帰してやるくらいはするさ」


「貴方は……」


「どうした?」


「いえ。貴方に出逢えた幸運に感謝しています」


「それは、娘たちを抱きしめたあとで言ってくれ」


「ふふ、必ず」


 そして俺たちは別室に移動。

 支払いを済ませ、商品の引き渡しとなる。


 真贋審美眼によって、魔法具が全て本物と確認。

 移動式の檻に入れられた双子の姉妹も、すぐにやってきた。


 二人共、前髪で片目が隠れている。


 一人は勝ち気そうで、一人は大人しそうな雰囲気だ。

 最初、檻から出されても、二人は母親に気づいていないようだった。

 耳だけが原因ではなく、そもそもこちらをまともに見ようとしていなかったのだ。


 しかし、エイールが駆け出し、二人まとめて抱きしめたところで、気付いたようだ。


「リヴ! ミヨル! 無事でよかった! 心配したのよ!」


「え……?」


「……お母、さん?」


「ひどいことされてない? ご飯は食べられたの? もう大丈夫、もう大丈夫だからね……」


 涙と共に娘を抱きしめるエイールに、娘たちも母親が来てくれたのだと実感したのか、子供のように泣き出す。


 家族の再会に水を差すわけにもいかず、俺とブランはその様子をしばらく眺めているのだった。


 ◇


 三人を拠点に連れ帰り、その日は親子水入らずで過ごすよう伝えた。


 翌日。

 娘二人を連れたエイールが、執務室へやってくる。


「ありがとう……」


「ありがとう、ございますっ……」


 ちなみに、勝ち気そうなほうがリヴで、大人しそうな方がミヨルだ。


「ロウ殿、改めて……娘たちを救い出してくださり、ありがとうございます」


「俺は金を出しただけだ」


「わたくし一人では、とても成し得ないことです。永遠(とわ)に感謝を」


 長命種が永遠を語ると、重みがある。


「そこまで気負わなくていい」


「いえ。夫や同胞が娘たちを見捨て、わたくしはただ当てもなく娘を探し惑っただけ。そんな中、ロウ殿と楽園の皆様が救ってくださったのです」


 そんなふうに言われると、これ以上否定するのは躊躇われた。


「では、どういたしまして」


「その上、行く宛のない我々を楽園に置いてくださるとのこと。このエイール、誠心誠意ロウ殿に尽くす所存です」


 エイールが片膝をつき、胸に手を当てて頭を下げる。


 まるで臣下の礼だが、緑精霊族の場合は元々誰に対する姿勢なのだろう。

 族長とかだろうか。


「お前達が此処にいてくれるなら、俺としても嬉しいよ」


「光栄です。ほら、二人も挨拶なさい」


「リヴよ……です。よろしくお願いします」


「ミヨル、です。その……助けてくれて、お母さんに逢わせてくれて、本当にありがとう、ございます」


 ミヨルの方は緊張しつつも微笑みかけてくれたのだが、リヴの方が少し気になる。

 感謝はするが、それはそれとして気に入らない、というような感情が透けて見えるのだ。


「ロウだ。二人は、何故森の外に出ようと思ったんだ?」


「別に……一生森の中なんてつまらないと思っただけ」


「わ、私は……リヴちゃんに誘われて……」


 話を聞くと、森を出たところで遭遇した馬車に乗せてもらえることになり、さぁ人族の街を見てみるかと思ったところ、その馬車が奴隷商のもので、上手く契約魔法を結ばれてしまったようだ。


「な、なによ! 人族があそこまで卑劣だなんて知らなかったのよ!」


 呆れられていると思ったのか、リヴが叫ぶ。


「やめてよリヴちゃん……っ。ロウさんだって人族だけど、私たちを助けてくれたんだから」


「そ、そうだけど……。あたしたちを救う代わりに、お母様が……!」


「エイールがどうした?」


「も、申し訳ございませんロウ殿! 二人は少し、勘違いしているようでして」


「勘違いって……! お母様、この人に約束したんでしょ! あたしたちを助けたら、耳を触ってもいいって!」


 そういえば、少し時間をくれと言われたのだったか。


 エイールの顔は燃えるように赤い。


「そ、それは、わたくしも納得したと伝えたでしょう!?」


「そ、そうだよリヴちゃん……。勝手に出てきた私たちが悪いけど、お父さんは助けに来てくれなかった。でも、お母さんとロウさんが助けてくれた……。私は、お母さんに賛成だよ」


「うぅっ、だ、だけど……。人間が新しいお父様になるだなんて……」



「――は?」



 というのは、マーナルムから漏れた声だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇『魔女と魔性と魔宝の楽園』◇

・コミック版連載中!(コミックノヴァ連載)
%E6%AD%A3%E6%96%B9%E5%BD%A2%E3%83%90%E3%83%8A%E3%83%BC%E9%AD%94%E5%A5%B3%E3%81%A8%E9%AD%94%E6%80%A7%E3%81%A8%E9%AD%94%E5%AE%9D%E3%81%AE%E6%A5%BD%E5%9C%92_672x672.jpg

・書籍版①発売中(サーガフォレスト)大判小説
i798260/

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ